木漏れ日の小道と、お腹の虫
住み慣れた土管のお家を後にしてから、太陽は空をゆっくりと昇り、ちょうど真上あたりまで差しかかっていました。
サクサク、サクサク。
ティモの小さな足が乾いた落ち葉を踏みしめる音が、静かな森の中に規則正しく響いています。
「うふふ、なんだか遠足みたい」
最初は一人で歩くことに少し緊張していたティモでしたが、鳥たちの賑やかなさえずりや、涼やかな風に揺れる木々の葉音を聞いているうちに、次第に心が弾んできました。
道端には、見たこともない形をした紫色の小さなキノコや、赤く熟した野イチゴの粒がいくつも顔を出しています。
小川の流れにそって歩いていると、やがて木々が少しだけ開けた、明るい陽だまりの場所に出ました。
大きなクヌギの木の根元に、まるで小さなベンチのようにぴったりの平らな苔むした岩が見えます。
「ふう、少しだけお休憩にしましょう」
ティモは背中からずっしりと重い赤いリュックサックを下ろすと、ふぅっと深くなった息を吐き出しました。
小さな両手で肩を揉むと、じんわりとした温かさと心地よい疲労感が広 we っていきます。
その時でした。
『ぐうぅぅぅ~っ』
静かな木漏れ日の中に、なんとも可愛らしい、けれどちょっぴり大きな音が響き渡りました。
ティモは思わず自分の小さなパフパフのお腹を手で押さえ、ぽっと頬を赤く染めました。
誰も見ていないと分かっていても、なんとなく恥ずかしくなって周りをキョロキョロと見回してしまいます。
「もう、お腹の虫さんったら。まだそんなに歩いていないのに」
ティモは一人でくすりと笑うと、赤いリュックのバックルをパチンと外し、中から今朝包んできた荷物を取り出しました。
竹の水筒と、葉っぱで丁寧に包まれた特製のどんぐりパンです。
葉っぱの包みをそっと開くと、香ばしいどんぐりの粉と甘いハーブの香りがふわりと鼻腔をくすぐりました。
表面は少し固めに焼き上げられていますが、中はふっくらとしていて、噛めば噛むほど優しい味わいが口いっぱいに広がる、ティモ自慢のパンです。
「いただきます」
小さな手でパンを包み込み、一口パクリとかじりつきました。
「ん~っ、美味しい!」
香ばしい風味が口の中に広がり、思わず大きな丸い耳がパタパタと嬉しそうに揺れました。
竹の水筒から小川の冷たい水をゴクゴクと飲むと、身体の隅々にまで元気が満ち渡っていくのが分かります。
美味しいパンを食べながら、ティモは小さな足をぶらぶらさせて周りの風景を眺めました。
木の葉の隙間からこぼれ落ちる太陽の光が、地面に金色のコインを散りばめたような綺麗な模様を作っています。
「お兄ちゃんも、旅の途中でこうやって木漏れ日を見ながらパンを食べたのかな……」
ふと、ひとりぼっちの寂しさが胸の端っこをかすめました。
いつもなら、美味しいものを食べた時は「お兄ちゃん、これ美味しいね」と顔を見合わせて笑い合っていたからです。
けれど、ティモは首を小さく振って、リュックのポケットからあのお兄ちゃんの絵が描かれた紅葉の葉っぱをそっと取り出しました。
太陽にかざすと、赤く染まった葉脈が透けて見え、そこに描かれた小さなネズミの笑顔が、まるで「頑張れ、ティモ」と話しかけてくれているように見えました。
「うん、大丈夫。私、一人じゃないもの。お兄ちゃんの便りもあるし、このパンも美味しく焼けたんだから!」
どんぐりパンを最後のひとくちまでしっかり味わうと、ティモはお腹をポンと叩きました。
すっかり元気を取り戻した心と体に、新しい力が湧き上がってくるのを感じます。
パンのくずを綺麗に拾い集めて小さなポケットに仕舞うと(森を汚さないのはハツカネズミの大切なマナーなのです)、ティモは再び赤いリュックをしっかりと背負い直しました。
「ごちそうさまでした! さあ、東の街へ向かって、出発進行!」
太陽の光を浴びながら、小さなハツカネズミの女の子は、再びサクサクと落ち葉を踏みしめて歩き出しました。




