第98話 『大会登録』
翌朝。
ユーマ達は氷狼亭を出た。
空は快晴。
だが寒い。
ものすごく寒い。
ユーマは肩を震わせた。
「寒っ。」
「なんで誰も寒くないんだよ。」
リリムは平然としている。
ロキも平然としている。
レイも平然としている。
「慣れだ。」
「慣れねぇよ。」
即答だった。
レイは少し笑う。
「今日は街を案内する。」
「まずは氷闘祭の登録だ。」
ユーマの顔が明るくなる。
「おっ。」
「いよいよか。」
リリムも頷く。
「忘れないうちに済ませましょう。」
ロキはいつも通りだった。
「早く終わらせよう。」
そして。
四人は街を歩き始める。
グラディアの朝は早い。
既に至る所で訓練が始まっていた。
木剣の打ち合い。
槍の訓練。
素手での組手。
戦いの音が絶えない。
ユーマは辺りを見回した。
「本当に戦いしかねぇな。」
「そういう街だからな。」
レイは当たり前のように答える。
やがて。
巨大な建物が見えてきた。
武器屋だった。
氷で出来た看板。
店の前には多くの戦士が並んでいる。
店主らしき男がユーマ達を見た。
そして。
カゼマサを見る。
「新入りか?」
「そうだけど。」
店主はニヤリと笑った。
「いい刀だな。」
「負けたら俺が貰う。」
ユーマ。
「怖ぇよ。」
店主。
「グラディアへようこそ。」
全然歓迎されていなかった。
レイは慣れた様子で歩いていく。
「気にするな。」
「日常だ。」
「日常がおかしいんだよ。」
ユーマは思わずツッコんだ。
しばらく進む。
今度は道場が見えた。
中では子供達が木剣を振っている。
十歳にも満たない子供もいた。
ユーマは目を丸くする。
「早くね?」
レイは首を傾げる。
「そうか?」
「そうだろ。」
「俺は六歳だった。」
「もっと早ぇよ。」
ユーマが頭を抱える。
リリムが笑う。
ロキも少しだけ口元を緩めた。
そんな中。
レイは平然としている。
本人にとっては普通なのだ。
やがて。
四人は少し開けた場所へ出た。
そこには。
無数の墓標が並んでいた。
ユーマの足が止まる。
「・・・。」
思っていたより多い。
多すぎる。
見渡す限り墓だった。
ユーマは小さく呟く。
「墓。」
レイも足を止める。
「多いだろ。」
「・・・ああ。」
レイは静かに答えた。
「氷闘祭。」
「決闘。」
「街の争い。」
「色々だ。」
風が吹く。
雪が舞う。
ユーマは墓地を見つめた。
レイも見ていた。
その視線は。
少しだけ寂しそうだった。
だが。
それ以上は何も言わなかった。
やがて四人は再び歩き始める。
そして。
街の中心部へ辿り着いた。
そこには巨大な像があった。
あまりにも大きい。
グラディアのどこからでも見えるほどだ。
大男。
巨大な斧。
圧倒的な存在感。
怒の番人の像だった。
ユーマは見上げる。
「人気者だな。」
レイは少し考える。
そして首を横に振った。
「そうでもない。」
「ん?」
「尊敬してる奴もいる。」
「憎んでる奴もいる。」
ユーマは像を見る。
レイを見る。
何となく。
レイがどちら側か分かった気がした。
その時だった。
「見えてきたぞ。」
レイが前を指差す。
ユーマ達も見る。
そして。
思わず足を止めた。
「でけぇ・・・。」
そこにあったのは。
巨大な円形闘技場。
氷で造られた巨大建築。
まるで城だった。
観客席。
闘技場。
外壁。
全てが圧倒的だった。
リリムも少し驚く。
「想像以上ね。」
ロキも見上げる。
「大きいな。」
レイは頷く。
「ああ。」
「ここが氷闘祭の会場だ。」
風が吹く。
旗が揺れる。
そして。
入口には大きな文字が刻まれていた。
【氷闘祭】
ユーマは自然と笑う。
「いいね。」
「燃えてきた。」
レイも少し笑った。
「まだ早い。」
「まずは登録だ。」
四人は会場の奥へ進む。
そこには受付所があった。
列は長い。
多くの戦士達が並んでいる。
やがて順番が来た。
受付の女性が顔を上げる。
「お名前を。」
ユーマが書く。
ユーマ・カミサキ。
リリム。
ロキ。
順番に記入していく。
そして。
最後。
レイが名前を書く。
受付の女性がその文字を見る。
一瞬。
表情が固まった。
「・・・。」
レイ。
「どうした?」
女性は慌てて首を振る。
「い、いえ。」
だが。
明らかに様子がおかしい。
周囲の職員達も。
戦士達も。
レイの名前を見ている。
ざわ・・・。
空気が変わる。
ユーマは眉をひそめた。
「なんだ?」
レイは苦笑する。
「気にするな。」
そう言ったが。
その表情は。
少しだけ複雑だった。




