97話 『強さ』
夜。
氷狼亭。
暖炉の火が静かに揺れていた。
外では雪が降っている。
だが。
宿の中は暖かかった。
ユーマ達は大きなテーブルを囲んでいた。
目の前には料理。
肉。
スープ。
パン。
ユーマはひたすら食べている。
「うまっ。」
「めっちゃうまい。」
「おかわり。」
レイが呆れた顔をする。
「さっきからずっと食ってるな。」
「一年修行してたんだぞ。」
「腹減るに決まってる。」
ユーマは真顔だった。
説得力があった。
リリムがため息を吐く。
「絶対関係ないわ。」
ロキも頷く。
「関係ないな。」
ユーマは傷付いた。
そんな他愛ない時間。
だが。
ふと。
ユーマが窓の外を見た。
広場。
そこではまだ決闘が続いていた。
夜なのに。
誰も止めない。
誰も驚かない。
それが当たり前のように。
ユーマは眉をひそめる。
「そういや。」
レイを見る。
「なんでこの街はこんなに戦ってるんだ?」
「昼も。」
「夜も。」
「どこ見ても戦ってるぞ。」
暖炉の音が響く。
レイは少しだけ黙った。
そして。
静かに答えた。
「生きられないからだよ。」
ユーマ。
「は?」
レイは視線を炎へ向ける。
「弱い。」
「負ける。」
「死ぬ。」
短い言葉だった。
だが。
重かった。
ユーマ達も自然と真面目な顔になる。
レイは続けた。
「この街はそういう場所だ。」
「みんな生きるために強くなる。」
「生きるために戦う。」
「だから別に。」
「戦ってる奴らが恨み合ってるわけじゃない。」
窓の外。
決闘している二人が見える。
殺し合いに近い。
それでも。
レイは首を横に振った。
「でも戦わないと生きられない。」
「それだけだ。」
ユーマは納得できなかった。
「そんな馬鹿な話あるか?」
レイは苦笑した。
「あるんだよ。」
その笑顔は。
どこか寂しかった。
「家族同士でも。」
「恋人同士でも。」
「殺し合う。」
ユーマの表情が曇る。
レイは続けた。
「そして。」
少しだけ間を置く。
「親友同士でもな。」
沈黙。
暖炉の火だけが揺れていた。
ユーマは何も言わない。
言えなかった。
レイの表情を見れば分かる。
今の話は。
誰かの話じゃない。
レイ自身の話だ。
レイは椅子にもたれ掛かった。
「昔。」
「一番仲の良い奴がいた。」
「強かった。」
「馬鹿だった。」
思い出したように笑う。
「自信家で。」
「口だけは達者で。」
「根拠も無いのに勝てる勝てるって言うんだ。」
リリムがユーマを見る。
ロキも見る。
ユーマ。
「なんだよ。」
二人。
「別に。」
レイが吹き出した。
「ははっ。」
「やっぱ似てるな。」
ユーマが首を傾げる。
「誰に?」
レイは笑う。
少しだけ。
本当に少しだけ。
昔を思い出すように。
「お前。」
「あいつに似てるよ。」
ユーマは黙る。
レイは続けた。
「馬鹿なところも。」
「自信家なところも。」
「なんとかなるって本気で思ってるところも。」
ユーマ。
「褒めてる?」
レイ。
「半分くらい。」
ユーマ。
「微妙だな。」
リリムが笑う。
ロキも少しだけ口元を緩めた。
そして。
レイの笑顔が消える。
「氷闘祭予選で当たった。」
静かな声。
「俺と。」
「あいつが。」
沈黙。
誰も口を挟まない。
「俺が勝った。」
レイは炎を見つめる。
「親友だった。」
「兄弟みたいな奴だった。」
「でも死んだ。」
暖炉がパチッと音を立てた。
それだけだった。
レイは泣かない。
怒らない。
もう何年も前のことなのだろう。
だが。
忘れてはいない。
ユーマは静かに聞いていた。
レイが笑う。
寂しそうに。
「だから嫌いなんだ。」
「この街が。」
「強さは必要だ。」
「でも。」
「こんなのは間違ってる。」
その言葉には迷いが無かった。
本心だった。
ユーマは少し考える。
そして。
あっさり言った。
「じゃあ変えればいい。」
レイ。
「は?」
ユーマ。
「変えたいんだろ?」
レイ。
「簡単に言うな。」
ユーマ。
「簡単じゃないのは知ってる。」
「でも。」
ニヤッと笑う。
「変えたいなら変えようぜ。」
レイは固まった。
この男は本当に変だ。
普通なら無理だと言う。
諦めろと言う。
だが。
目の前の男は違う。
本気で言っている。
本気で変えられると思っている。
昔。
親友も同じ顔をしていた。
レイは思わず吹き出した。
「ははっ。」
ユーマ。
「なんだよ。」
レイ。
「本当に似てるな。」
ユーマ。
「だから誰にだよ。」
レイは笑う。
今度は少しだけ自然に。
「そのうち教えてやる。」
ユーマは納得しなかった。
「今言えよ。」
「嫌だ。」
「ケチ。」
「うるせぇ。」
リリムが笑う。
ロキが呆れる。
そして。
不思議だった。
出会ってまだ数時間。
それなのに。
まるで昔から知っているような感覚があった。
レイも同じだった。
気付けば。
亡くなった親友の面影を。
ユーマに重ねていた。
そして。
それが少しだけ怖かった




