第96話 『氷の街の少年』
氷戦都市グラディア。
ユーマ達は街の中を歩いていた。
右を見ても。
左を見ても。
戦い。
決闘。
訓練。
武器屋。
道場。
闘技場。
とにかく戦いばかりだった。
「すげぇな。」
ユーマが周囲を見回す。
「本当に戦いしかねぇ。」
その横で。
二人は冷静だった。
「面白そうね。」
リリム。
「面倒だな。」
ロキ。
反応は真逆だった。
ユーマは苦笑する。
「まずは宿だな。」
「飯も食いてぇ。」
「風呂も入りてぇ。」
「寝てぇ。」
「お前はいつも通りだな。」
ロキが呆れる。
その時だった。
目の前に一軒の建物が見えた。
氷で出来た大きな宿。
看板にはこう書かれている。
【氷狼亭】
「お。」
「ここでいいんじゃね?」
ユーマが扉を開く。
カラン。
中は暖かかった。
暖炉。
木の机。
そして。
奥には大柄な男が立っていた。
いかにも戦士。
そんな見た目だった。
「いらっしゃい。」
低い声。
ユーマは手を挙げる。
「三人泊まりたいんだけど。」
男はじっと見る。
そして。
一言。
「金は?」
「あるぞ。」
「強さは?」
「は?」
ユーマが固まった。
男は真顔だった。
「強さだ。」
「強さが無いやつは泊めねぇ。」
沈黙。
ユーマ。
「意味分からん。」
リリム。
「意味分からないわね。」
ロキ。
「意味分からんな。」
珍しく意見が一致した。
男は腕を組む。
「弱い奴は面倒を呼ぶ。」
「だから泊めねぇ。」
「めちゃくちゃだな。」
ユーマがツッコむ。
その時だった。
奥から声が聞こえた。
「親父。」
若い男の声。
「またそれやってんのか。」
全員が振り返る。
そこには一人の少年が立っていた。
銀髪。
氷のような青い瞳。
年齢はユーマ達と同じくらい。
腰には一本の剣。
戦士だ。
だが。
どこか落ち着いていた。
「新入りだろ。」
少年はため息を吐く。
「その辺にしとけ。」
宿の男は鼻を鳴らす。
「つまらん。」
どうやら親子らしい。
少年はユーマ達を見る。
そして。
少しだけ目を見開いた。
「・・・。」
ユーマが首を傾げる。
「なんだ?」
少年。
「お前ら。」
「氷壁の向こうから来たのか?」
ユーマ。
「ああ。」
少年。
「そうか。」
ユーマ。
「壊してきた。」
少年。
「は?」
今度は少年が固まった。
リリムが吹き出す。
「その反応になるわよね。」
少年はユーマを見る。
もう一度見る。
そして。
少し笑った。
「面白いやつだな。」
ユーマも笑う。
「よく言われる。」
「初めて聞いた。」
即答だった。
そのやり取りに。
リリムまで笑い出した。
だが。
その時だった。
少年の視線がロキへ向く。
ロキも見る。
沈黙。
数秒。
見つめ合う二人。
ユーマ。
「お前ら何してんだ?」
少年。
「別に。」
ロキ。
「別に。」
全く同じ返答だった。
ユーマは頭を抱える。
「気が合ってんじゃねぇか。」
少年は少しだけ笑う。
そして。
手を差し出した。
「レイ。」
「この宿の息子だ。」
ユーマも握手する。
「ユーマ。」
「リリム。」
「ロキ。」
順番に名乗る。
レイは頷いた。
そして。
宿の椅子へ腰を下ろす。
「せっかくだ。」
「少し話すか。」
ユーマ達も座る。
暖炉の火が揺れる。
外では雪が降っている。
レイが口を開いた。
「まず聞いておく。」
「お前ら。」
「氷闘祭に出るんだろ?」
ユーマは即答した。
「ああ。」
「優勝する。」
レイが少し笑う。
「そうか。」
リリムも肩をすくめる。
「番人を倒しに来たからね。」
ロキは黙って頷く。
レイは三人を見る。
本気だ。
冗談ではない。
それが分かった。
だから。
レイも真っ直ぐ言った。
「俺も出る。」
沈黙。
暖炉の火だけが揺れる。
「俺も優勝する。」
その言葉には迷いが無かった。
ユーマは笑う。
「そうか。」
レイも笑う。
「そうだ。」
そして。
二人は同時に言った。
「じゃあ敵だな。」
一瞬。
沈黙。
次の瞬間。
二人とも笑った。
「負けねぇぞ。」
ユーマ。
「こっちのセリフだ。」
レイ。
笑顔だった。
だが。
その瞳の奥には。
何か別の想いが隠れていた。
まだ誰も知らない。
この少年が。
グラディアの未来を大きく変える存在になることを。




