第95話 『氷戦の街』
雪煙の向こう。
巨大な影がゆっくりと姿を現した。
ユーマ達は足を止める。
大きい。
あまりにも大きい。
十メートルはあるだろうか。
全身が氷の鎧で覆われた巨人。
まるで山が歩いているようだった。
リリムが口笛を吹く。
「でっか。」
ロキも見上げる。
「さすがにこれは目立つな。」
だが。
巨人は攻撃してこなかった。
ただ静かに。
ユーマ達を見下ろしている。
やがて。
低く重い声が響いた。
「見事だ。」
大地が震える。
「ここへ来る者は多い。」
「だが。」
「無傷でここまで来た者はそういない。」
ユーマ達の後ろには。
砕かれた氷兵達。
数百体。
その全てが沈黙していた。
巨人はゆっくり頷く。
「お前達の強さは本物だ。」
「入れ。」
ユーマが首を傾げる。
「入れ?」
巨人は答える。
「氷戦都市グラディア。」
「強者の街だ。」
その言葉に。
リリムが笑った。
「どうやら。」
「さっきの軍隊は歓迎会だったみたいね。」
巨人は首を横に振る。
「違う。」
「試験だ。」
試験。
ユーマ達は顔を見合わせた。
巨人は続ける。
「グラディアは強さしか求めない。」
「弱者に価値はない。」
「故に。」
「ここへ入る資格があるかを試した。」
ユーマは肩をすくめる。
「ずいぶん物騒な入国審査だな。」
巨人は否定しなかった。
やがて。
その巨大な身体を横へずらす。
その先。
ついに街の全貌が見えた。
「おぉ・・・。」
アリスがいたら驚いていただろう。
そこは。
まさに戦いの街だった。
巨大な氷の城壁。
氷で出来た建物。
氷で出来た橋。
氷で出来た塔。
街の全てが白銀に輝いている。
だが。
美しいだけではない。
広場では決闘。
道場では木剣の打ち合い。
酒場では腕相撲。
武器屋には行列。
子供達でさえ模擬戦をしている。
街全体から。
戦いの匂いがした。
ユーマが笑う。
「嫌いじゃないな。」
リリム。
「私は嫌いじゃないどころか好き。」
ロキ。
「お前はそうだろうな。」
三人は街へ足を踏み入れる。
すると。
巨人が再び声を掛けた。
「待て。」
ユーマ達が振り返る。
「この街のルールを知らずに進むな。」
「ルール?」
巨人は指を一本立てた。
「一つ。」
「戦いを挑まれたら断ることはできない。」
ユーマ。
「は?」
リリム。
「は?」
ロキ。
「は?」
三人とも同じ反応だった。
巨人は気にしない。
さらに続ける。
「二つ。」
「勝者は敗者の持ち物を奪える。」
沈黙。
ユーマが確認する。
「つまり。」
「負けたら財布取られるのか?」
「取られる。」
「武器もか?」
「取られる。」
「服も?」
「取られる。」
「最後のはやり過ぎだろ。」
思わずツッコミが出た。
巨人は真面目な顔のままだった。
冗談ではないらしい。
リリムが笑う。
「面白いじゃない。」
ロキがため息を吐く。
「絶対言うと思った。」
巨人は空を見上げた。
そして。
最後の説明を始める。
「一ヶ月後。」
「氷闘祭が開催される。」
その瞬間。
周囲の空気が少し変わった。
通行人達。
武器屋の店主。
酒場の男達。
誰もが反応している。
ユーマは気付いた。
この祭りは特別なのだと。
「氷闘祭?」
巨人は頷く。
「この国最大の戦いだ。」
「強者達が集う。」
「そして。」
巨人の声がさらに低くなる。
「優勝者だけが。」
「怒の番人へ挑戦する権利を得る。」
沈黙。
風が吹く。
ユーマ。
リリム。
ロキ。
三人が顔を見合わせる。
そして。
同時に笑った。
ユーマが言う。
「つまり。」
「優勝すればいいんだな。」
巨人は頷く。
「ああ。」
「もっとも。」
「その優勝が一番難しいのだがな。」
リリムが肩を回す。
「面白そうじゃない。」
ロキは呆れた顔をした。
「まず宿探せ。」
現実的だった。
ユーマも笑う。
「確かに。」
その時。
街の中央。
巨大な建造物が目に入る。
氷で作られた円形闘技場。
巨大な看板。
そこには大きく書かれていた。
【一ヶ月後 氷闘祭 開催】
ユーマはニヤリと笑う。
そして。
闘技場を指差した。
「まずはあれだな。」
リリムも笑う。
ロキも口元を緩める。
「優勝して。」
「怒の番人をぶっ飛ばそうぜ。」
白銀の街に。
新たな戦いの舞台が姿を現した。




