第93話 『さらなる旅立ち』
崩れ落ちた氷壁。
その向こうには。
白銀の世界が広がっていた。
冷たい風。
遠くに見える巨大な城塞。
そして。
未知の大地。
第三の街。
怒りの街。
ユーマ達はその景色を見つめていた。
その時だった。
「さて。」
ウィザードが杖を突く。
「ワシはここまでじゃ。」
ユーマが振り返る。
「温泉か?」
「温泉じゃ。」
即答だった。
「一年ぶりの温泉じゃぞ?」
「世界の危機より温泉じゃ。」
「ダメだこのジジイ。」
ユーマが頭を抱える。
ウィザードは楽しそうに笑った。
「後は若いもんに任せる。」
そう言い残し。
スタスタと温泉村の方へ歩いて行った。
誰も止めない。
止めても無駄だからだ。
そして。
ナディアも前へ出る。
「私もここまでだ。」
リリムが見る。
「帰るの?」
「ああ。」
ナディアは笑った。
「街のみんなが心配だからな。」
ローゼンベルク。
今では自分の大切な街だ。
守るべき場所がある。
だから帰る。
リリムは小さく頷いた。
「そっか。」
「また会おう。」
「ああ。」
短い言葉だった。
だが。
それで十分だった。
続いて。
ガルドも前へ出る。
「俺もここまでだ。」
ユーマが笑う。
「意外とあっさりだな。」
「当たり前だ。」
ガルドは肩をすくめる。
そして。
後ろにいるアリスを見る。
「アリスを送ってやらなきゃいけねぇからな。」
アリスが目を丸くした。
「え!?」
「でも!」
「せっかく会えたのに!?」
アリスは慌てる。
「一緒に行こうよ!」
「私だって戦えるよ!」
だが。
ガルドは首を横に振った。
「ダメだ。」
優しい声だった。
「アリス。」
「もうこの先はダメだ。」
アリスが黙る。
ガルドは続ける。
「俺らが行っても足手まといになる。」
「死ぬだけだ。」
その言葉に。
誰も反論しなかった。
事実だからだ。
ガルドはユーマ達を見る。
一年。
死に物狂いで鍛えた。
戦った。
生き抜いた。
そして。
今。
ここに立っている。
「もうあいつらは。」
「俺らの手の届かない領域まで行っちまった。」
静かな言葉だった。
アリスは俯く。
悔しい。
寂しい。
でも。
分かっていた。
氷壁を見た。
ユーマを見た。
あの一太刀を見た。
今の自分では追いつけない。
だから。
何も言えなかった。
ユーマ達は歩き出す。
第三の街へ向かって。
その時だった。
「ユーマ!」
アリスの声。
ユーマが振り返る。
アリスは拳を握っていた。
「私も強くなる!」
声が震えている。
でも。
真っ直ぐだった。
「もっともっと強くなるから!」
「また会おう!」
「怪我しちゃダメよ!」
「ちゃんとご飯食べて!」
「お腹空かさないようにして!」
「あと!」
「あと・・・!」
言いたいことが多すぎる。
一年ぶりに会えたのだ。
まだ何も話し足りない。
アリスの目に涙が浮かぶ。
その時だった。
「アリス!!」
ユーマが叫ぶ。
アリスが顔を上げる。
ユーマは笑っていた。
ニヤッと。
昔と変わらない笑顔で。
そして。
大きく手を振る。
「行ってきます!」
その一言だった。
アリスも笑う。
涙を拭く。
そして。
精一杯手を振った。
「行ってらっしゃい!!」
風が吹く。
ユーマ達は前へ進む。
誰も振り返らない。
新たな冒険へ向かって。
そして。
しばらく歩いた時だった。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
地面が揺れる。
ユーマ達の足が止まる。
「ん?」
前方。
雪原の向こう。
何かが現れる。
一体。
二体。
十体。
百体。
さらに。
二百。
三百。
見渡す限り。
氷で出来た兵士達。
剣を持つ者。
槍を持つ者。
弓を持つ者。
無数の氷の軍勢。
その全てが。
ユーマ達へ向いていた。
沈黙。
そして。
ユーマが笑う。
「どうやら。」
名刀カゼマサへ手を添える。
「歓迎されてないってことだけは分かるな。」
リリムも笑った。
背中のAK2020を軽く叩く。
「まぁ。」
「準備運動がてら。」
赤い瞳が輝く。
「やるか。」
ロキも前へ出る。
ケラノウスを握る。
「暴れすぎるなよ。」
ユーマが吹き出す。
「それはお前だろ。」
リリムも笑う。
「違いない。」
その瞬間だった。
氷の軍勢が動く。
一斉突撃。
雪煙が舞う。
轟音が響く。
だが。
ユーマ達は笑っていた。
一年間。
地獄の修行を乗り越えた。
今さら。
こんな程度で止まるわけがない。




