第85話 『報告』
巨大な城。
その最上階。
魔王の間。
重苦しい空気が漂っていた。
赤い絨毯。
巨大な柱。
そして。
最奥にある玉座。
そこに一人の男が座っている。
顔は見えない。
逆光。
ただ。
圧倒的な存在感だけがあった。
その前に。
一体の魔物が膝をついている。
「報告します。」
「喜の番人が敗れました。」
静寂。
やがて。
玉座の男が口を開く。
「そうか。」
驚きはない。
怒りもない。
ただ。
事実を受け入れただけだった。
その時。
ドカッ。
大きな音が響く。
「ハッ。」
一人の男が鼻で笑った。
大男だった。
身長は三メートル近い。
全身傷だらけ。
筋肉の塊。
腕を組みながら笑っている。
怒りの番人。
「弱かっただけだろ。」
「アイツがな。」
ガハハハハハ!!
豪快な笑い声が響く。
すると。
もう一人の男がため息を吐いた。
「相変わらず品がありませんね。」
怒りの番人が振り返る。
そこにいたのは。
金だった。
服も。
指輪も。
首飾りも。
靴も。
全てが高価そうな装飾品で埋め尽くされている。
楽の番人。
ワイングラスを揺らしながら笑っていた。
「その格好。」
「もう少しまともになりませんか?」
「番人とは街の顔ですよ。」
怒りの番人は自分を見る。
そして。
鼻で笑った。
「は?」
「強さに服装は関係ねぇ。」
「強ぇ奴が正義だ。」
楽の番人は肩をすくめる。
「汚らしい。」
ピクッ。
怒りの番人の額に青筋が浮いた。
「・・・あ?」
「今なんつった?」
楽の番人は笑顔だった。
「汚らしい。」
即答だった。
沈黙。
怒りの番人が立ち上がる。
ドン。
床が揺れた。
「ぶち殺すぞ。」
楽の番人は笑う。
「野蛮ですねぇ。」
「だから怒りの番人なんですよ。」
怒りの番人の拳が鳴る。
バキッ。
「今ここでやるか?」
「金持ち野郎。」
楽の番人はワインを飲んだ。
そして。
当然のように言う。
「勝てると思っているんですか?」
怒りの番人が笑う。
「は?」
「私にはお金があります。」
沈黙。
怒りの番人。
「だから何だ。」
「金貨で殴るのか?」
楽の番人は楽しそうだった。
「強い人を雇えばいいんですよ。」
怒りの番人。
「・・・。」
楽の番人。
「・・・。」
怒りの番人。
「それはズルくねぇか?」
楽の番人。
「賢いと言ってください。」
二人が睨み合う。
空気が張り詰める。
その時だった。
「黙れ。」
一言。
玉座から響く。
その瞬間。
二人は口を閉じた。
怒りの番人も。
楽の番人も。
一切反論しない。
ただ黙る。
魔王の一言だった。
静寂。
再び魔王が口を開く。
「奴らはどうした。」
魔物が答える。
「喜の番人を倒した後。」
「北へ向かいました。」
怒りの番人が笑う。
「北?」
「なら氷壁だな。」
楽の番人も頷く。
「超えられませんね。」
「えぇ。」
「絶対に。」
二人の意見は珍しく一致していた。
魔王は窓の外を見る。
遠く。
遥か北を。
「だろうな。」
静かな声だった。
そして。
怒りの番人へ視線を向ける。
「怒。」
「なんだ。」
「もし超えたなら。」
怒りの番人は笑った。
獰猛に。
楽しそうに。
「俺が潰す。」
即答だった。
魔王は何も言わない。
ただ。
静かに頷く。
その様子を見ながら。
楽の番人がワインを揺らした。
「賭けでもしますか?」
怒りの番人が見る。
「賭け?」
「えぇ。」
楽の番人は笑う。
「超えられないに金貨百枚。」
怒りの番人は豪快に笑った。
「ガハハハハ!!」
「なら俺も乗る!」
「超えられねぇに百枚だ!」
楽の番人が笑う。
「珍しく意見が合いましたね。」
「気持ち悪ぃこと言うな。」
二人は再び睨み合う。
だが。
その時だった。
魔王が小さく呟く。
「面白い。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
だが。
その目だけは。
どこか楽しそうだった。
北の空。
吹雪の向こう。
今はまだ誰も知らない。
修羅の迷路で修行する三人が。
この世界の運命を大きく変えようとしていることを。




