第84話 『待つ人』
ユーマ達が旅立ってから。
数ヶ月が経っていた。
ミスト村は今日も平和だった。
畑では村人達が働いている。
子供達は走り回る。
いつも通りの日常。
変わったことと言えば。
「そこ危ないぞー。」
ガルドの代わりに村を守る男が来たことくらいだった。
大柄な男。
レベル45。
ウィザードが手配した守護者。
強い。
とにかく強い。
だが。
「やっぱりガルドの方が良かったなぁ。」
アリスは小さく呟いた。
理由は簡単。
怖いからだ。
守護者の男は悪い人ではない。
だが。
顔が怖い。
ものすごく怖い。
子供達も最初は泣いた。
今は慣れた。
それでも怖い。
「何か言ったか?」
男が振り返る。
「い、いえ!」
アリスは慌てて首を振った。
男は首を傾げる。
「そうか。」
やっぱり怖かった。
その日の午後。
アリスは村外れにいた。
手を前に出す。
青い光が集まる。
水魔法。
そして。
「ヒール。」
優しい光が広がる。
だが。
すぐに消えた。
「うーん・・・。」
アリスはため息を吐く。
上手くいかない。
もっと回復できるはずなのに。
もっと。
もっと。
村長が近付いてきた。
「また練習かの。」
「はい。」
アリスは頷く。
村長は優しく笑った。
「頑張るのぉ。」
アリスは少し照れる。
そして。
静かに言った。
「もっと上手になりたいんです。」
「ほう?」
「ユーマ達も頑張ってると思うから。」
村長は黙って聞いていた。
アリスは空を見る。
遠く。
遠く。
今頃どこにいるのだろう。
何をしているのだろう。
ちゃんとご飯は食べているだろうか。
怪我はしていないだろうか。
心配だった。
だが。
信じてもいた。
「強くなりたいのかの?」
村長が聞く。
アリスは少し考えた。
そして。
首を横に振る。
「ううん。」
「違います。」
アリスは微笑んだ。
「誰かを助けられるようになりたいんです。」
村長も笑った。
「そうか。」
「ならお前さんらしいの。」
アリスは再び手を前へ出す。
青い光が集まる。
水。
魔力。
意識を集中させる。
「ヒール。」
光が広がる。
先程より大きく。
先程より優しく。
その時だった。
近くで作業をしていた村人が声を上げる。
「あれ?」
アリスが振り返る。
村人が自分の腕を見ていた。
少し前に切ってしまった傷。
その傷が。
綺麗に消えていた。
「治った・・・?」
村人が驚く。
アリスも驚いた。
「え?」
村長が笑う。
「上達したの。」
アリスは自分の手を見る。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
強くなれた気がした。
夕方。
空が赤く染まる。
アリスは丘の上にいた。
ミスト村を見下ろす。
風が吹く。
髪が揺れる。
アリスは空を見上げた。
「ユーマ。」
小さく呟く。
「私も頑張ります。」
誰もいない。
返事もない。
それでも。
言いたかった。
「だから。」
「負けないでくださいね。」
アリスは笑った。
その頃。
ミスト村から遥か遠く。
巨大な城の一室。
一人の男が窓の外を見ていた。
長い髪。
黒いマント。
その瞳は冷たい。
男の前には。
膝をつく魔物がいた。
「報告します。」
男は振り返らない。
魔物は続ける。
「喜の番人が敗れました。」
沈黙。
そして。
男は小さく呟いた。
「そうか。」
感情は見えない。
驚きもない。
怒りもない。
ただ。
静かだった。
男は窓の外を見る。
遠く。
遥か遠くを。
「面白い。」
その言葉だけを残し。
部屋は再び静寂に包まれた。




