第83話 『魔法使いと戦士』
光が消える。
ロキは静かに目を開いた。
辺りは真っ白だった。
雪。
雪。
雪。
どこまでも雪原が続いている。
風が吹く。
冷たい。
だが。
どこか懐かしい景色だった。
「・・・。」
ロキは黙って歩き出そうとする。
すると。
後ろから声が聞こえた。
「待たんか。」
ウィザードだった。
ロキは振り返る。
「なんだ。」
「修行じゃ。」
「そうか。」
「そうかじゃない。」
ウィザードは杖で地面を叩く。
コン。
その瞬間。
目の前に積み木が現れた。
木でできた小さな積み木。
ロキは首を傾げる。
「なんだこれ。」
「積み木じゃ。」
「見れば分かる。」
「では浮かせろ。」
沈黙。
ロキは積み木を見る。
ウィザードを見る。
もう一度積み木を見る。
「・・・は?」
「浮かせろ。」
「意味が分からん。」
「修行じゃ。」
「もっと他にあるだろ。」
「ない。」
即答だった。
ロキはため息を吐く。
そして。
積み木へ手を向けた。
「トール。」
バチィィィィィ!!
雷が落ちる。
積み木が吹き飛んだ。
粉々になった。
沈黙。
ウィザードが言う。
「なんで壊すんじゃ。」
「浮かせろ言うたじゃろ。」
「浮かせる意味が分からん。」
「だからお前さんは駄目なんじゃ。」
ロキの眉が動く。
ウィザードは積み木を指差した。
「力とは。」
「壊すためだけのものではない。」
「・・・。」
「まずは浮かせろ。」
それからだった。
積み木。
石。
木の枝。
雪玉。
ありとあらゆる物を浮かせる修行。
失敗。
失敗。
失敗。
失敗。
一週間。
失敗。
一ヶ月。
失敗。
三ヶ月。
失敗。
ロキの忍耐は限界だった。
「浮かねぇ!!」
雪原に叫ぶ。
ウィザードはお茶を飲んでいた。
ズズッ。
「そうか。」
「そうかじゃない。」
「頑張れ。」
「雑だな。」
ロキは本気で帰りたかった。
だが。
諦めなかった。
何度も挑戦する。
何度も。
何度も。
何度も。
そして。
ある日。
小さな石が。
ふわりと浮いた。
沈黙。
ロキが固まる。
石も浮いている。
ウィザードが見ていた。
「できたの。」
「・・・できた。」
ロキは信じられなかった。
初めてだった。
雷で吹き飛ばすのではなく。
魔力だけで物を動かした。
ウィザードは頷く。
「では次じゃ。」
ロキが嫌な予感を覚える。
「次?」
ウィザードが杖を振った。
ドゴォォォォォォォン!!
巨大な音が響く。
雪原が揺れる。
ロキの前に。
何かが現れた。
本だった。
とてつもなく巨大な本。
巨大というレベルではない。
山だった。
本の形をした山。
ロキは固まる。
「・・・。」
ウィザードは言う。
「魔導書じゃ。」
「・・・。」
「基礎編じゃ。」
沈黙。
「基礎?」
「うむ。」
「基礎。」
「基礎!?」
ロキが叫ぶ。
ウィザードは真顔だった。
「全部覚えろ。」
「無理だ。」
「明日試験じゃ。」
「鬼か。」
「大魔法使いじゃ。」
自慢げだった。
ロキは頭を抱えた。
なんでこんなことになった。
戦士だったはずだ。
斧を振っていたかった。
だが。
ウィザードは笑う。
「お前さん。」
「なんじゃ。」
「俺は戦士だ。」
「違う。」
即答だった。
ロキが眉をひそめる。
ウィザードは続ける。
「お前さんは魔法使いじゃ。」
「違う。」
「雷使っとるじゃろ。」
「・・・。」
反論できなかった。
確かにそうだった。
トール。
グングニル。
どちらも雷。
どちらも魔法。
ウィザードは頷く。
「お前さんは。」
「才能がある。」
ロキは黙った。
初めて言われた言葉だった。
戦士だと言われたことはある。
強いと言われたこともある。
だが。
才能があると言われたことはなかった。
ウィザードは本を叩く。
ドン。
「読むぞ。」
「・・・。」
「読むぞ。」
「・・・。」
「返事。」
ロキは深いため息を吐いた。
そして。
巨大な本を見上げる。
終わる気がしなかった。
だが。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
面白いと思っている自分もいた。
雪が降る。
二人は歩く。
まだ。
ただの他人だった。
だが。
その距離は。
少しだけ近付いていた。




