第81話 『師匠と弟子』
眩しい光が消えた。
ユーマはゆっくり目を開く。
「いてて・・・。」
身体を起こす。
そこは森だった。
風が吹く。
木々が揺れる。
どこか見覚えがある景色。
「ここ・・・。」
周囲を見回す。
懐かしい。
そんな感覚があった。
後ろから声が聞こえる。
「懐かしいな。」
振り返る。
ガルドだった。
腕を組みながら森を見ている。
「ミスト村の森に似てる。」
ユーマも改めて周囲を見る。
確かにそうだった。
初めて修行した森。
ゴブリンに追いかけ回された森。
死ぬほど走らされた森。
思い出が詰まっている。
「そういや。」
ユーマが思い出す。
「ウィザードのジジイ言ってたな。」
「関連のある世界になるって。」
ガルドが頷く。
「あながち間違いじゃねぇな。」
すると。
ガルドは近くの木へ歩いて行った。
そして。
一本の枝を折る。
ポキッ。
ユーマが首を傾げた。
「何してんだ?」
「修行だ。」
ガルドは枝を構えた。
「来い。」
沈黙。
ユーマは自分の腰を見る。
風魔。
超レア級武器。
喜の番人との戦いを共にした相棒。
そして。
ガルドを見る。
木の枝。
ただの枝。
「いや。」
「俺風魔あるんだけど。」
「俺は枝だ。」
「いやいや。」
「文句あるか?」
ある。
めちゃくちゃある。
だが。
ガルドの顔を見る限り。
言っても無駄だった。
ユーマはため息を吐く。
そして。
風魔を抜いた。
「後悔すんなよ。」
ガルドが笑う。
「それはこっちの台詞だ。」
次の瞬間。
ユーマの姿が消えた。
風歩。
一瞬で距離を詰める。
「おらぁ!」
風魔が振り下ろされる。
ガルドは枝で受けた。
バシッ!
衝撃。
だが。
ガルドの眉が少しだけ動いた。
重い。
以前より明らかに重い。
ユーマはさらに攻める。
斬る。
斬る。
斬る。
連続攻撃。
ガルドは全て受け流す。
だが。
押されていた。
ほんの少しだけ。
(ほぉ。)
ガルドは心の中で呟く。
(腕を上げたな。)
以前なら。
一撃で転んでいた。
一撃で泣いていた。
今は違う。
ちゃんと戦えている。
ユーマが距離を取る。
そして。
ニヤリと笑った。
「真・風切り!!」
巨大な風の斬撃。
ドォォォォン!!
ガルドは横へ飛ぶ。
風が通り過ぎる。
その瞬間。
ビリッ。
服の袖が切れた。
沈黙。
ユーマも。
ガルドも。
その切れ目を見る。
ガルドが眉をひそめた。
「・・・おい。」
ユーマがニヤニヤする。
「当たりそうだったな。」
ガルドが笑った。
「生意気になったな。」
「誰のおかげだよ。」
「俺だな。」
「自分で言うな。」
再びぶつかる。
風魔。
枝。
本来なら勝負にならない。
だが。
ガルドは強い。
ユーマも強い。
森の中で激しい攻防が続いた。
十分。
二十分。
三十分。
やがて。
ユーマの動きが鈍る。
呼吸も荒い。
「はぁ・・・。」
「はぁ・・・。」
ガルドは枝を肩に乗せた。
そして。
笑った。
「なるほどな。」
ユーマが顔を上げる。
「なんだよ。」
「強くなった。」
その言葉に。
ユーマは少し驚いた。
ガルドが素直に褒めることは少ない。
「ローゼンベルクで遊んでたわけじゃねぇらしい。」
ユーマは思わず笑った。
「当たり前だろ。」
ガルドは頷く。
そして。
ニヤリと笑った。
嫌な笑みだった。
「なら。」
「修行内容変えるか。」
ユーマの笑顔が消える。
「・・・は?」
ガルドは枝を捨てた。
「前の修行はガキ用だ。」
「今回は違う。」
嫌な予感しかしない。
「死ぬぞ。」
ユーマが一歩下がる。
「待て。」
「話し合おう。」
「無理だ。」
即答だった。
ガルドは遠くの山を指差す。
雲を突き抜けるほど高い山。
嫌な予感しかしない。
「見えるか。」
「見える。」
「山頂まで走れ。」
「うん。」
「五百往復。」
沈黙。
「は?」
ガルドは続ける。
「風歩禁止。」
「は?」
「魔法も禁止。」
「は?」
「休憩は寝る時だけ。」
「は?」
ガルドが笑う。
満面の笑みだった。
「行ってこい。」
ユーマは叫んだ。
「鬼かぁぁぁぁぁぁ!!!」
森に絶叫が響く。
修行は。
始まったばかりだった。




