第80話 『修行の始まり』
翌朝。
温泉村の広場。
雪が静かに降っていた。
ユーマ達は大魔法使いウィザードの前に集まっていた。
「さて。」
ウィザードがお茶を飲む。
ズズッ。
「誰を連れて行くか決めたかの。」
ユーマ達は顔を見合わせた。
答えは決まっている。
まずユーマが前に出た。
「俺はガルドのおっさんだ。」
「おっさん言うな。」
聞き覚えのある声が響いた。
空間が歪む。
魔法陣が現れる。
そして。
「うおっ!?」
ガルドが落ちてきた。
ドサッ。
「いてぇ!!」
「なんだここ!?」
「ユーマァァァ!!」
「また面倒事に巻き込んだな!?」
開口一番だった。
ユーマが笑う。
「久しぶりだなおっさん。」
「だからおっさん言うな!」
相変わらずだった。
次の瞬間。
別の魔法陣が現れる。
「なっ!?」
ナディアだった。
突然現れた景色に混乱している。
「ユーマ!?」
「リリム!?」
「どういうことだ!?」
説明を聞く。
修羅の迷路。
修行。
氷壁。
怒涛の情報だった。
だが。
ナディアは少し考え。
笑った。
「面白そうだな。」
「行く。」
即答だった。
リリムが呆れる。
「即決かよ。」
「当然だ。」
ナディアは胸を張る。
「もっと強くなりたいからな。」
リリムは少しだけ笑った。
そして。
最後。
全員の視線がロキへ向く。
ウィザードが聞いた。
「お前さんは?」
ロキは短く答える。
「一人で行く。」
沈黙。
「は?」
ユーマ。
「は?」
リリム。
「は?」
ナディア。
「は?」
ガルド。
全員同じ反応だった。
ロキは平然としている。
「問題ない。」
「あるわ。」
リリムが即答した。
「慣れてる。」
「そういう問題じゃねぇ。」
ユーマも突っ込む。
すると。
ウィザードが頷いた。
「そうか。」
全員がロキを見る。
ウィザードは続けた。
「お前さんには。」
「ワシが付いていく。」
沈黙。
「は?」
ユーマ。
「は?」
リリム。
「は?」
ナディア。
「は?」
ガルド。
そして。
ロキ。
「断る。」
即答だった。
「断られたぞい。」
ウィザードが呟く。
「どうしようかの。」
少し考える。
「まぁ付いていくが。」
「聞け。」
ロキが眉をひそめる。
周囲は笑っていた。
その時だった。
ガルドがふとウィザードを見る。
そして。
固まった。
「・・・は?」
二度見。
三度見。
顔色が変わる。
「え?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
全員が驚く。
ガルドだけが絶叫していた。
「ど、どどどど・・・!」
「どうしたんだよおっさん。」
ユーマが聞く。
ガルドは震える指でウィザードを指差した。
「だ・・・。」
「大魔法使いの。」
「ウィザード様!?」
沈黙。
ユーマ。
リリム。
ロキ。
ナディア。
全員がウィザードを見る。
そして。
ウィザード。
「温泉の番台じゃ。」
「違う!!!」
ガルドが叫んだ。
「世界最強の魔法使いだぞ!?」
空気が変わる。
ユーマ達も固まった。
「え?」
「このジジイが?」
「ジジイじゃ。」
「ほっほっほ。」
全然偉そうじゃない。
ガルドは頭を抱えた。
「なんでこんな所に・・・。」
「温泉が好きじゃから。」
「理由が軽い。」
ユーマが呟く。
すると。
ガルドがふと疑問を口にした。
「いや待て。」
「世界最強なら。」
「ウィザード様が魔王を倒せば・・・。」
ウィザードが首を振った。
「無理じゃ。」
「え?」
「ワシにはレベルがない。」
その場が静まる。
「魔法使いじゃからな。」
「レベルという概念の外におる。」
「だから。」
「第三の街へは行けん。」
ユーマ達は黙った。
ウィザードは続ける。
「昔な。」
「魔王がワシを警戒しての。」
「第三の街へレベル制限を付けた。」
「レベル40以上。」
「ワシはレベルがない。」
「つまり入れん。」
「なるほど・・・。」
ユーマは納得した。
ガルドも腕を組む。
「俺なら行けるぞ。」
「レベル40だからな。」
ユーマが振り返る。
「じゃあおっさんが行けば良くね?」
ガルドはため息を吐いた。
「馬鹿か。」
「誰が村守るんだ。」
「アリス。」
「村長。」
「ミスト村。」
「俺の仕事は守ることだ。」
静かな声だった。
「俺は剣じゃねぇ。」
「盾だ。」
ユーマは黙る。
確かにそうだった。
ガルドがいなくなれば。
村は危険になる。
すると。
ウィザードが言った。
「その辺は手配済みじゃ。」
ガルドが振り返る。
「は?」
「代わりの守護者を置いてきた。」
「いつの間に!?」
「昨日。」
「暇じゃったし。」
「軽いな!?」
「レベル45じゃ。」
沈黙。
ガルドが固まる。
「俺より強いじゃねぇか!!」
「安心じゃろ?」
「安心だけど複雑だわ!!」
全員が笑った。
そして。
ウィザードが杖を掲げる。
巨大な魔法陣が現れた。
空が光る。
地面が震える。
今まで見たこともない規模の魔法。
さすがに全員息を呑んだ。
ウィザードが言う。
「覚悟は良いかの。」
ユーマは風魔を握る。
「当然。」
リリムは頷く。
「今更よ。」
ナディアは笑う。
「楽しみだ。」
ガルドは頭を抱える。
「帰りたい。」
ロキは静かに前を見る。
「あぁ。」
ウィザードが笑った。
「では行ってこい。」
ユーマが力強く答える
「リリム、ロキ。じゃぁ一年後!この場所で!」
光が溢れる。
世界が白く染まる。
そして。
ユーマ達の姿は消えた。
修羅の迷路。
一年にも及ぶ修行の始まりだった。




