第77話 『倒したい理由』
物語進行のため前書きとあとがきは
しばらくお休みします。
温泉を満喫したユーマ達は宿へ戻っていた。
夕食も終わり。
外では雪が静かに降っている。
暖炉の火が揺れる部屋。
三人は布団へ潜り込んでいた。
「ふぁぁ・・・。」
ユーマが大きく欠伸をする。
今日は久しぶりに平和な一日だった。
戦いもない。
追われることもない。
こんな日も悪くない。
「なぁ。」
ユーマが天井を見ながら言った。
リリムが返事をする。
「なんだ。」
ロキも目だけ向ける。
ユーマは少し考えた。
そして口を開く。
「お前らってさ。」
「なんで魔王倒したいんだ?」
部屋が静かになった。
暖炉の火がパチッと鳴る。
リリムが呆れたように言う。
「突然ね。」
「いや。」
ユーマは頭を掻いた。
「今まで聞いたことなかったなと思ってさ。」
確かにそうだった。
三人は旅をしている。
一緒に戦っている。
だが。
お互いのことはあまり知らない。
リリムはため息を吐いた。
「じゃあ。」
「まずあんたから話しなさいよ。」
「なんで俺なんだよ。」
「言い出しっぺ。」
ぐうの音も出なかった。
ユーマは少し考える。
そして。
「帰りたい場所がある。」
そう答えた。
リリムが首を傾げる。
「故郷?」
ユーマは少しだけ笑った。
「まぁ。」
「そんなもんだ。」
嘘ではない。
だが本当でもない。
本当のことは言えない。
異世界から来た。
そんな話をしても誰も信じないだろう。
それに。
今はまだ言うつもりもなかった。
「だから魔王を倒す。」
「そうすれば帰れる気がするんだ。」
リリムは頷く。
「なるほどね。」
ロキも黙って聞いていた。
そして。
今度はユーマが聞く。
「じゃあリリムは?」
リリムの表情が少しだけ曇った。
暖炉の火を見つめる。
そして。
小さく呟いた。
「魔王を殺したい。」
部屋の空気が少し変わる。
ユーマが聞く。
「理由は?」
リリムはしばらく黙った。
そして。
「許せないから。」
それだけ言った。
ユーマは何か言おうとした。
だが。
リリムは続ける。
「そのうち話す。」
「今はまだ話したくない。」
その声は珍しく真剣だった。
ユーマは頷く。
「分かった。」
深くは聞かない。
話したくなった時に話せばいい。
仲間だから。
そのくらいでいい。
そして。
二人の視線がロキへ向く。
ロキは黙っていた。
静かだった。
雪の音だけが聞こえる。
ユーマが言う。
「ロキ。」
「お前は?」
ロキはすぐには答えなかった。
長い沈黙。
暖炉の火が揺れる。
やがて。
ロキが口を開いた。
「母親を殺された。」
空気が止まる。
ユーマも。
リリムも。
言葉を失った。
ロキは天井を見つめたまま続ける。
「魔王軍にな。」
拳を握る。
わずかに震えていた。
「その中に。」
「一人の大男がいた。」
ユーマは黙って聞く。
ロキが過去を話すのは初めてだった。
「村が襲われた。」
「母さんは俺を庇った。」
そこまでだった。
それ以上は語らない。
だが。
十分だった。
何があったのか。
容易に想像できた。
ロキは目を閉じる。
「忘れた日はない。」
静かな声だった。
怒鳴りもしない。
泣きもしない。
だが。
その言葉には重みがあった。
ユーマは何も言えない。
リリムも同じだった。
しばらく沈黙が続く。
そして。
ユーマがぽつりと言った。
「なんか。」
二人が見る。
「みんな重くね?」
沈黙。
リリムが即答した。
「重いわね。」
ロキも頷く。
「重いな。」
『重いわね。』
セフィまで参加した。
ユーマが起き上がる。
「いや待て!」
「俺だって結構真面目な理由だったろ!?」
「帰りたい場所があるって!」
リリムが呆れる。
「なんかふわっとしてる。」
「失礼だな!」
ロキも珍しく笑った。
「確かに。」
「お前まで!?」
部屋に笑い声が広がる。
さっきまでの重い空気は消えていた。
外では雪が降り続いている。
暖かい部屋。
仲間達。
悪くない夜だった。
ユーマは布団へ潜る。
「まぁいいや。」
「明日も歩くんだろ?」
「あぁ。」
「そうね。」
三人は目を閉じる。
その先に何が待っているのか。
まだ知らない。
だが。
今は少しだけ。
旅の休息を楽しむのだった。




