第72話 『ナージャの真実』
前回――
怪物と化した喜の番人との戦いは激しさを増していました。
ユーマ達の総攻撃。
そしてユーマの新必殺技「爆風破」。
ついに喜の番人を追い詰めます。
しかし、その時現れたのは一人の老婆。
喜の番人は震える声でその名を呼びました。
「ナージャ」
それでは第72話をお楽しみください!
「ナージャ・・・?」
巨大な怪物が動きを止めた。
ローゼンベルク全体を揺らしていた触手も。
巨大な腕も。
全てが止まる。
静寂。
その時だった。
「ば、ばあちゃん!?」
ユーマが目を見開く。
ロキも驚いた。
「おいおいおい!」
「何であの婆さんがここにいるんだよ!?」
リリムも困惑する。
「あの人・・・。」
「ペンダントの・・・。」
ナディアも信じられない表情だった。
「あの方は確か・・・。」
誰も理解できない。
だが。
老婆は迷わなかった。
崩れた瓦礫を越え。
巨大な怪物へ向かって歩いていく。
ユーマが叫ぶ。
「ばあちゃん危ねぇ!!」
「下がれ!!」
だが。
老婆は止まらない。
やがて。
怪物の目の前まで辿り着いた。
そして。
静かに口を開く。
「久しぶりね。」
優しい声だった。
怪物の巨大な身体が震える。
「本当に・・・。」
「ナージャなのか・・・?」
老婆は微笑んだ。
「えぇ。」
「久しぶり。」
何十年。
何十年も会いたかった人。
何十年も憎み続けた人。
何十年も忘れられなかった人。
その人が。
今。
目の前にいた。
「どうして・・・。」
怪物の声が震える。
「どうして今更・・・。」
「私に会いに来たんだ。」
ナージャは首を横に振った。
「違うわ。」
「なら・・・。」
怪物の声が低くなる。
「私を笑いに来たのか。」
「捨てられたモンスターを。」
「違う。」
ナージャは即答した。
怪物が黙る。
ナージャは真っ直ぐ見つめる。
「私はあなたを捨てていない。」
空気が止まった。
怪物の身体が揺れる。
「・・・何?」
「私は行きたかった。」
怪物の巨大な口が震える。
「嘘だ。」
「本当よ。」
「嘘だ!!」
咆哮が響く。
地面が揺れる。
だが。
ナージャは逃げない。
「私は行こうとした。」
「約束の場所へ。」
「あなたと一緒に街を出るために。」
怪物の呼吸が荒くなる。
「なら何故来なかった!!」
怒号。
何十年分もの叫び。
「私は待ったんだ!!」
「朝まで!!」
「昼も!!」
「夜も!!」
「何日も!!」
「何週間も!!」
「それでも来なかった!!」
触手が暴れる。
建物が崩れる。
それでもナージャは動かなかった。
「行けなかったの。」
怪物が止まる。
「・・・何?」
ナージャは静かに続けた。
「あの日。」
「街は大騒ぎだった。」
怪物の身体が揺れる。
「あの酔っ払い。」
「覚えている?」
忘れるはずがない。
人生が変わった日だ。
「あの人は。」
ナージャは俯く。
「私のお兄ちゃんだった。」
怪物の身体が硬直する。
「・・・え?」
「あなたが傷付けた人。」
「私のお兄ちゃんだったの。」
静寂。
怪物は言葉を失った。
ナージャは続ける。
「お兄ちゃんは大怪我をした。」
「家族は怒った。」
「街の人達も怒った。」
「モンスターがいるって。」
「皆怯えていた。」
怪物は動けない。
ナージャの言葉を聞くことしかできない。
「私はそれでも行こうとした。」
涙が頬を伝う。
「あなたに会いたかったから。」
「約束を守りたかったから。」
声が震える。
「でも行かせてもらえなかった。」
怪物の身体が大きく揺れた。
「無理やり止められたの。」
「家族に。」
「街の人達に。」
「皆に。」
ナージャは小さく笑った。
寂しそうに。
「そして。」
「あなたと二度と会わせないために。」
「私は街から離された。」
怪物が顔を上げる。
「離された・・・?」
「えぇ。」
「街の外れの小さな村へ。」
「匿われたの。」
「あなたと会えない場所へ。」
静寂。
誰も喋らない。
風だけが吹く。
怪物は動かなかった。
ただ。
立ち尽くしていた。
「じゃあ・・・。」
震える声。
「お前は・・・。」
「私を捨てたわけじゃ・・・。」
ナージャは首を横に振る。
「捨ててない。」
「一度も。」
怪物の巨大な身体が揺れる。
ナージャは涙を流しながら笑った。
「私はずっと。」
「あなたが生きているって信じてた。」
「会いたかった。」
「ずっと。」
「会いたかった。」
怪物は何も言えない。
頭の中が真っ白だった。
ナージャは裏切った。
ナージャは自分を捨てた。
ずっとそう思っていた。
だから憎んだ。
だから殺した。
だから支配した。
だから国を作った。
全部。
全部。
その思い込みの上に作られたものだった。
「じゃあ・・・。」
怪物の膝が崩れる。
ドォン。
大地が揺れた。
「私は・・・。」
震える声。
「何十年・・・。」
巨大な口から涙が零れる。
「何をしていたんだ・・・。」
誰も答えられない。
ユーマも。
ロキも。
リリムも。
ナディアも。
答えられない。
ナージャだけが。
静かに怪物を見つめていた。
何十年も。
誰よりも会いたかった人を。
「ごめんなさい。」
ナージャが言う。
怪物が顔を上げる。
「もっと早く。」
「会いに来ればよかった。」
「もっと早く。」
「話せばよかった。」
涙が止まらない。
「ごめんなさい。」
怪物は首を横に振った。
ゆっくり。
本当にゆっくり。
「違う。」
ナージャが目を見開く。
怪物は笑った。
初めてだった。
今までで一番優しい笑顔だった。
「謝るのは・・・。」
震える声。
「僕だ。」
第72話を読んでいただきありがとうございました!
今回はローゼンベルク編の中でも、特に重要な回になりました。
何十年も続いた誤解。
何十年も積み重なった憎しみ。
その全ての始まりが、ようやく明らかになります。
誰かが悪かったわけではない。
ただ、すれ違ってしまった。
だからこそ悲しい。
そして最後に喜の番人が口にした言葉。
次回、喜の番人が下す最後の決断とは。




