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レベル1の『〇〇』 〜あなたが選ぶ転生物語〜  作者: 矢部夏 泡太
女と男の街 ローゼンベルク編

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第61話 『花束』

前回――


喜の番人が語り始めた過去。


彼は元々番人ではなく、争いを嫌うただのモンスターでした。


そしてローゼンベルクで出会った一人の女性。


ナージャ。


二人は恋に落ち、街を捨てて一緒に生きることを約束します。


しかし、その約束の日。


二人の運命は大きく狂い始めるのでした。


それでは第61話をお楽しみください!

「本当に楽しみだった。約束の日だ。」


喜の番人は静かに言った。


月明かりの庭園。


リリムは黙って聞いている。


喜の番人の視線は遠い過去へ向いていた。


約束の日。


あの日の夜へ。


その日は朝から落ち着かなかった。


何をしていても上の空だった。


ナージャと街を出る日。


二人で新しい人生を始める日。


楽しみで仕方なかった。


だから。


私は花を買った。


街の花屋で一番綺麗な花束だった。


赤や白の花が咲き誇り。


見ているだけで幸せな気持ちになる。


「珍しいね。」


花屋の店主が笑う。


「君が花を買うなんて。」


私は少し照れた。


「大事な人に渡すんだ。」


店主は嬉しそうに笑った。


「それはいい。」


「きっと喜ぶよ。」


私はそうだといいなと思った。


ナージャは花が好きだった。


きっと笑ってくれる。


そう信じていた。


花束を抱えながら街を歩く。


夕日が沈み始めていた。


約束の時間までまだ少しある。


急がなくても間に合う。


そう思っていた。


その時だった。


「おい!」


大声が響く。


酒臭い男達がふらふらと歩いてくる。


酔っ払いだった。


「兄ちゃん!」


「随分楽しそうじゃねぇか!」


私は苦笑した。


「急いでいるんだ。」


「悪いが通してくれ。」


だが。


酔っ払い達は道を塞ぐ。


「何だその態度。」


「俺達を無視するのか?」


面倒だった。


だが争いたくない。


私は頭を下げた。


「すまない。」


「本当に急いでいるんだ。」


その言葉が気に入らなかったのだろう。


男が胸ぐらを掴む。


「謝って済むかよ!」


花束が揺れる。


私は慌てた。


「やめろ!」


男はさらに服を引っ張った。


ビリッ。


服が破れる。


その瞬間だった。


隠していた角が覗いた。


男の顔が固まる。


周囲の人間も息を飲んだ。


「・・・角?」


静寂。


誰も動かない。


私は急いで隠そうとした。


だが遅かった。


「おい・・・。」


男が震えた声を出す。


「お前・・・。」


「モンスターか?」


私は答えられなかった。


男の顔が恐怖に染まる。


「モンスターだ!!」


叫び声が響いた。


街の空気が変わる。


周囲の人間が後退る。


恐怖。


嫌悪。


警戒。


今まで向けられたことのない視線だった。


私は一歩下がった。


だが。


酔っ払いの一人が掴みかかってくる。


「化け物が!」


私は反射的に振り払った。


ただそれだけだった。


本当に。


ただ振り払っただけだった。


だが。


男は吹き飛んだ。


石壁へ激突する。


鈍い音が響く。


男は動かない。


周囲が静まり返った。


私は固まった。


やってしまった。


力加減を間違えた。


人間は弱い。


分かっていたはずなのに。


「ひっ・・・。」


誰かが声を漏らす。


「人殺しだ・・・。」


「化け物だ!」


「モンスターだ!!」


恐怖が伝染する。


叫び声が広がる。


あっという間だった。


街中に広がった。


モンスターがいたと。


化け物が人を殺したと。


私は逃げた。


逃げるしかなかった。


花束を抱えたまま。


路地を駆ける。


石が飛んでくる。


罵声が飛んでくる。


「化け物!」


「出ていけ!」


「殺せ!」


花束が腕から落ちた。


気付かなかった。


いや。


気付いていた。


だが拾えなかった。


踏み潰される。


赤い花が潰れる。


白い花が汚れる。


それでも花は綺麗だった。


約束の場所へ渡されるはずだった花。


ナージャへ贈るはずだった花。


誰にも渡されない花。


石畳の上で。


ただ静かに咲いていた。


私は振り返れなかった。


振り返れば。


全てが終わってしまう気がしたからだ。


気付けば街外れまで逃げていた。


息が荒い。


胸が苦しい。


だが。


約束があった。


ナージャが待っている。


そう思った。


だから私は風車小屋へ向かった。


彼女だけは違う。


彼女だけは受け入れてくれる。


そう信じていた。


信じたかった。

第61話を読んでいただきありがとうございました!


今回は喜の番人が壊れていく最初のきっかけが描かれました。


特別な悪意があったわけではありません。


ただ運が悪かった。


ただ少しだけタイミングが悪かった。


そしてモンスターであるという事実が、全てを変えてしまいました。


個人的には花束のシーンがお気に入りです。


ナージャへ渡されるはずだった花。


誰にも渡されることなく踏み潰されても、最後まで綺麗に咲いていた花。


あの花は、この時の喜の番人自身だったのかもしれません。


次回はいよいよ風車小屋。


約束の場所で待ち続けた男と、そこで生まれた絶望が描かれます。


そして、喜の番人誕生へ。

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