第59話 『ナージャ』
前回――
交流会は無事終了。
アリスはミスト村へ帰り、ナディアもついに答えを出しました。
王への忠誠ではなく、女性達を守るという道を選んだのです。
そしてユーマ、ロキ、ナディアは喜の番人を止めるため手を組みます。
その頃、王城の庭園では――。
喜の番人がリリムへ突然のプロポーズ。
その理由が今、語られようとしていました。
それでは第59話をお楽しみください!
月明かりの庭園。
リリムは目の前の男を睨んでいた。
喜の番人。
ローゼンベルクの王。
その男が片膝をつき、笑っている。
「リリム君。」
「僕と結婚してくれ。」
沈黙。
リリムは一秒も迷わなかった。
「嫌だ。」
即答だった。
喜の番人は微笑んだまま。
「そう言うと思った。」
リリムの眉が動く。
「なら聞くな。」
「聞くことに意味がある。」
「意味分かんねぇよ。」
リリムは一歩下がる。
「そもそも、私はここに残る気なんてない。」
「結婚もしない。」
「お前と一つになる気もない。」
喜の番人は立ち上がった。
怒ってはいない。
悲しんでもいない。
ただ、どこか懐かしむような目でリリムを見ている。
その目が気持ち悪かった。
リリムは低く言う。
「何でそこまで私に固執する?」
「女なら他にもいるだろ。」
「何で私なんだ。」
喜の番人は黙った。
しばらく月を見上げる。
風が吹く。
庭園の薔薇が揺れる。
そして。
ぽつりと言った。
「似ているんだ。」
リリムの目が細くなる。
「誰に。」
喜の番人は目を閉じた。
「昔。」
「愛した女性に。」
リリムは黙る。
喜の番人は続ける。
「ナージャ。」
「彼女の名前だ。」
その声は今までと少し違っていた。
王の声ではない。
番人の声でもない。
ただ、一人の男の声だった。
「強くて。」
「誰にも媚びなくて。」
「美しかった。」
喜の番人はリリムを見る。
「君にそっくりだ。」
リリムは少しだけ顔をしかめた。
「私は私だ。」
「分かっている。」
喜の番人は静かに微笑む。
「でも。」
「初めて君を見た時。」
「幻を見たのかと思った。」
リリムは腕を組んだ。
「そのナージャって女。」
「何者なんだ。」
喜の番人は空を見上げる。
月明かりが顔を照らした。
「あれは。」
「まだ私が若かった頃の話だ。」
「私は王ではなかった。」
「番人でもなかった。」
リリムの眉が動く。
「は?」
喜の番人は苦笑した。
「驚くよね。」
「私も驚いている。」
そして。
静かに言った。
「私は。」
「ただのモンスターだった。」
庭園に風が吹く。
リリムは目を見開いた。
「モンスター?」
「ああ。」
喜の番人は頷く。
第59話を読んでいただきありがとうございました!
今回はローゼンベルク編の大きな転換点でした。
今まで敵として描かれていた喜の番人。
そんな彼にも過去がありました。
そして初めて語られた「ナージャ」という女性の存在。
さらに衝撃だったのは、喜の番人が元々番人ではなく、ただのモンスターだったという事実です。
なぜ彼は今のような王になったのか。
なぜ女性に固執するのか。
なぜローゼンベルクという歪な国を作ったのか。
次回からその過去が明かされていきます。




