第58話 『決意』
前回――
ナディアは地下牢の真実を知りました。
王への忠誠。
女性達を守りたいという正義。
その二つの間で揺れるナディア。
一方、リリムとアリスは同じ部屋で語り合います。
そこでアリスは、自分の知らないユーマをリリムがたくさん知っていることに気付き――。
それでは第58話をお楽しみください!
交流会二日目。
大きな混乱もなく終わりを迎えた。
王城の広場には多くの女性達が集まっている。
喜の番人はいつものように笑顔だった。
「皆さん。」
静まり返る会場。
「二日間、本当にありがとう。」
拍手。
歓声。
「また来年もお会いしましょう。」
女性達が手を振る。
誰もが幸せそうだった。
その光景を見ながら。
ユーマは複雑な顔をしていた。
地下牢を見た今となっては。
素直に笑うことができない。
やがて交流会は終わり。
各村の代表達も帰る準備を始めた。
⸻
王城の一室。
普段は使われていない倉庫だった。
ナディアが用意した隠れ場所。
そこにユーマとロキは身を潜めていた。
扉が開く。
入ってきたのはアリスだった。
「そろそろ帰るね。」
ユーマは壁にもたれたまま手を上げる。
「おう。」
アリスは少し呆れた顔になる。
「おう、じゃないわよ。」
「何だよ。」
「気を付けなさい。」
即答だった。
ユーマは笑う。
「誰に言ってんだ。」
「あなたによ。」
アリスも即答する。
ロキが横で鼻を鳴らした。
「正論だな。」
「ロキまで言うな。」
アリスはため息を吐く。
本当に変わらない。
昔から。
無茶ばかりして。
面倒ばかり起こして。
でも。
それがユーマだった。
「じゃあね。」
アリスは踵を返す。
扉の前で一度だけ振り返った。
「死んだら承知しないから。」
「何だそれ。」
「そのままの意味。」
アリスは小さく笑った。
そして部屋を後にする。
扉が閉まる。
静寂。
ユーマは頭を掻いた。
「相変わらずだな。」
セフィがふわりと現れる。
「追いかけなくてよかったんですか?」
「何で?」
ユーマは本気で分からない。
セフィは呆れた顔をした。
「鈍感ですね。」
「お前最近失礼じゃね?」
セフィは何も言わなかった。
⸻
その日の夜。
ナディアがユーマ達を呼び出した。
場所は人気のない訓練場。
ナディアはしばらく黙っていた。
そして。
ゆっくり口を開く。
「決めた。」
ユーマ達は黙って聞く。
ナディアは空を見上げた。
「私は王様に救われた。」
「だから信じていた。」
「尊敬もしていた。」
拳を握る。
「だが。」
「地下牢を見た。」
「女性達を見た。」
「そして分かった。」
深く息を吐く。
「あれは幸せじゃない。」
沈黙。
ナディアは真っ直ぐユーマを見る。
「私は女性達を守る。」
「王様ではなく。」
「女性達を。」
ユーマが口元を上げた。
「つまり。」
ナディアは頷く。
「裏切る。」
その言葉は重かった。
長年仕えてきた王への決別。
簡単な決断ではない。
だが。
ナディアは選んだ。
自分の正義を。
ロキが腕を組む。
「それでいい。」
ナディアは剣の柄を握った。
「協力する。」
「喜の番人を止めるために。」
ユーマは笑う。
「歓迎するぜ。」
こうして。
ユーマ。
ロキ。
ナディア。
三人は正式に手を組むことになった。
⸻
その頃。
王城の庭園。
月明かりが花を照らしていた。
リリムは一人で歩いていた。
交流会も終わった。
そろそろユーマ達と合流しなければならない。
そう考えていた時だった。
「リリム君。」
声がした。
振り返る。
喜の番人だった。
リリムは露骨に嫌そうな顔をする。
「何だ。」
喜の番人は微笑んだ。
「君は本当に美しい。」
リリムの眉がひくつく。
「はぁ?」
「強くて。」
「優しくて。」
「気高い。」
リリムは一歩下がった。
嫌な予感しかしない。
「おい。」
「やめろ。」
喜の番人は気にしない。
むしろ嬉しそうだった。
「やはり君は特別だ。」
「決めたよ。」
リリムの顔が引きつる。
「何をだ。」
喜の番人は一歩前へ出る。
そして。
静かに片膝をついた。
リリムは固まる。
「おい。」
「待て。」
喜の番人は優しく微笑んだ。
「リリム君。」
真っ直ぐ見つめる。
そして言った。
「僕と結婚してくれ。」
リリムの思考が止まる。
数秒。
そして。
「は?」
月明かりの庭園に。
間の抜けた声だけが響いた。
第58話を読んでいただきありがとうございました!
今回はローゼンベルク編後半への橋渡し回でした。
交流会は無事終了。
アリスとも一旦お別れです。
そしてナディアもついに答えを出しました。
王への忠誠ではなく。
女性達を守るという答えを。
これでユーマ、ロキ、ナディアの三人が正式に共闘することになります。
そして最後。
喜の番人からのまさかのプロポーズ。
本人は大真面目。
リリムは大混乱。
次回から物語はさらに大きく動き始めます。




