第55話 『エマ』
前回――
王城の地下で見つけた牢屋。
そこには油抜きと呼ばれる断食を続ける女性達がいました。
そしてユーマ達は、喜の番人が女性達を取り込み「一つになる」瞬間を目撃します。
華やかな王城の裏に隠された狂気。
その真実を知ったユーマ達は――。
それでは第55話をお楽しみください!
喜の番人が去った。
足音が遠ざかる。
静寂。
誰もすぐには動けなかった。
アリスは壁にもたれかかる。
「何なのよ・・・。」
「今の・・・。」
ユーマも拳を握っていた。
答えは出ない。
だが一つだけ分かる。
あれは普通じゃない。
ロキが低く呟く。
「狂ってるな。」
その一言に誰も反論できなかった。
しばらくして。
ユーマが顔を上げる。
「そうだ。」
本来の目的を思い出す。
「エマだ。」
「ジャックの恋人。」
「この中にエマって人いないか?」
牢の中の女性達が顔を見合わせる。
ざわり。
空気が動く。
そして。
牢の奥から声がした。
「呼んだ?」
一人の女性が立ち上がる。
茶色の長い髪。
痩せてはいるが、整った顔立ち。
年齢は二十代前半くらいだろう。
ユーマは息を吐く。
「いた。」
アリスも頷く。
「あなたがエマ?」
女性は笑った。
「そうだけど?」
ユーマは鉄格子へ近付く。
「ジャックが待ってる。」
エマが首を傾げた。
「ジャック?」
「恋人だろ。」
「お前を探してる。」
「ずっと。」
エマは少し考えた。
本当に少しだけ。
そして。
「帰らない。」
ユーマは固まる。
「は?」
「帰らない。」
エマは微笑んだ。
「私は王様と一つになるの。」
「もう少しだから。」
「邪魔しないで。」
アリスが眉をひそめる。
「本気で言ってるの?」
「もちろん。」
エマは嬉しそうだった。
「選ばれたら永遠に一緒にいられる。」
「こんな幸せなことないじゃない。」
ユーマは苛立つ。
「ジャックはどうする。」
エマは少し考える。
そして。
「ああ・・・。」
「そんな名前の人いたかも。」
ユーマの顔色が変わった。
エマは続ける。
「昔ね。」
「良い人だった気がする。」
気がする。
その程度だった。
ジャックが何年も想い続けた相手。
命懸けで探している相手。
それが今。
こんな顔をしている。
ユーマは拳を握った。
アリスも何も言えない。
ロキだけが冷静だった。
「洗脳されてるな。」
エマは首を傾げる。
「洗脳?」
「違うわ。」
「私は幸せよ。」
その笑顔が。
逆に恐ろしかった。
ユーマは深く息を吐いた。
「駄目だな。」
アリスも頷く。
「一旦戻りましょう。」
「これ以上いると怪しまれる。」
ユーマも同意した。
今は情報を持ち帰る方が先だ。
その時だった。
リンリンが手を上げる。
「私たち残る。」
ユーマは振り返る。
「は?」
ランランも頷く。
「絶対ある。」
「何が。」
「武器庫。」
即答だった。
ユーマは頭を抱えた。
「まだ言ってんのか。」
リンリンは真剣だった。
「この地下。」
ランランも真剣だった。
「絶対ある。」
ユーマはため息を吐く。
ロキが言う。
「好きにさせろ。」
「いいのか?」
「どうせ止まらん。」
それはそうだった。
リンリンが胸を張る。
「見つける。」
ランランも胸を張る。
「絶対。」
ユーマは呆れた。
「勝手にしろ。」
「やった。」
「やった。」
二人は笑顔だった。
そして。
ユーマ。
ロキ。
アリス。
三人は地下を後にする。
長い通路。
暗い階段。
隠し通路。
そして。
王の肖像画の裏。
再び地上へ戻る。
明るい。
さっきまで見ていた地下が嘘みたいだった。
大広間の扉の前からは
楽しそうな音楽。
笑い声。
豪華な交流会。
何も知らない女性達。
ユーマは嫌な気分になった。
「胸糞悪りぃ、早く戻ろうぜ。」
ロキも同意する。
「ああ。」
アリスは黙っていた。
まだエマの顔が頭から離れない。
その時だった。
「貴様ら。」
三人の身体が止まる。
聞き覚えのある声。
ゆっくり振り返る。
そこには。
腕を組んだナディアが立っていた。
鋭い視線。
逃げ場はない。
ナディアは三人を見つめる。
そして。
冷たい声で言った。
「そこで何をしている。」
ユーマの背中を冷や汗が流れた。
完全に。
見つかった。
第55話を読んでいただきありがとうございました!
ついにジャックの恋人、エマが登場しました。
しかし再会は喜べるものではありませんでした。
そしてリンリンとランランは武器庫探しのため別行動へ。
たぶん本人達は大真面目です。
そしてラスト。
潜入開始からずっと危なかったユーマ達ですが、ついにナディアと鉢合わせ。
次回はどう切り抜けるのか。
それではまた次回!




