第48話 『王城の中』
前回――
男街で起きた暴動。
喜の番人による圧倒的な力。
そして現れたレベル15のゴーレム達。
ユーマとロキは見事ゴーレムを撃破し、男街の住民達から助けを求められることになりました。
一方その頃。
王城の住人として選ばれてしまったリリム。
本人の意思などお構いなしに、豪華な馬車へ乗せられ王城へ向かうことに――。
果たして王城とはどんな場所なのか。
そして喜の番人はなぜリリムを選んだのか。
それでは第48話をお楽しみください!
「ご準備を。」
女性執事は表情一つ変えずに言った。
「馬車がお待ちです。」
リリムは固まっていた。
周囲の女性達は大騒ぎだ。
「王城よ!」
「羨ましい!」
「王様に選ばれるなんて!」
「一生幸せじゃない!」
リンリンとランランも目を輝かせている。
「王城!」
「武器庫!」
「そこじゃない!」
リリムは叫んだ。
だが、女性執事は待ってくれない。
あっという間に馬車へ乗せられ、ローゼンベルクの中央にそびえる城へ向かうことになった。
馬車の窓から街を見る。
美しい街だった。
花。
噴水。
白い石畳。
綺麗な服を着た女性達。
笑顔。
笑い声。
音楽。
外から見れば完璧な街。
だが、リリムは落ち着かなかった。
ユーマ達がいる男街とは、あまりにも違いすぎる。
「気持ち悪いくらい綺麗ね。」
リリムが呟く。
女性執事は静かに答えた。
「ローゼンベルクは美しい女性達のための街です。」
「男は?」
「必要な場所にいます。」
「必要な場所って?」
「働く場所です。」
即答だった。
リリムは窓の外を見る。
嫌な街。
そう思った。
やがて馬車は王城へ到着する。
巨大な門。
白い階段。
赤い絨毯。
天井には大きなシャンデリア。
壁には薔薇の紋章。
どこを見ても豪華だった。
城の中にいるのは女性ばかり。
兵士も。
使用人も。
料理人も。
庭師も。
全員女性。
「徹底してるわね。」
「当然です。」
女性執事は言った。
「ここは王が認めた美しい者達の場所です。」
リリムは顔をしかめる。
「その言い方、嫌い。」
女性執事は反応しない。
そのままリリムを部屋へ案内した。
用意された部屋は広かった。
宿屋の部屋とは比べ物にならない。
ふかふかのベッド。
大きな窓。
薔薇の香り。
専用の浴室。
果物。
紅茶。
菓子。
全部揃っている。
「何これ。」
リリムは呟く。
「牢屋?」
女性執事が少しだけ眉を動かした。
「最上級の客室です。」
「そう。」
「牢屋にしては豪華ね。」
「冗談がお好きなのですね。」
「本気だけど。」
女性執事は咳払いをした。
そして手を叩く。
すると侍女達が入ってきた。
その手にはドレス。
真紅のドレスだった。
細かな刺繍。
胸元には黒いレース。
動くたびに光る宝石。
リリムは一歩下がった。
「着ない。」
女性執事は即答する。
「着ます。」
「嫌。」
「着ます。」
「嫌だって。」
「着ます。」
「会話になってない!」
侍女達が一斉に近付いてくる。
リリムは逃げようとした。
だが。
数が多い。
数分後。
リリムは鏡の前に立っていた。
真紅のドレス。
普段の荒っぽい服とはまるで違う。
肩が出ている。
腰が締まっている。
スカートはふわりと広がっている。
正直。
かなり似合っていた。
侍女達がうっとりする。
「美しい・・・。」
「王様がお喜びになります。」
リリムは鏡を見る。
そして。
小さく呟いた。
「動きにくい。」
台無しだった。
その時。
女性執事がリリムの銃を見る。
「そちらはお預かりします。」
リリムの目が変わった。
「は?」
「危険物です。」
「これは私の武器。」
「ですので、お預かりします。」
リリムは銃を抱えた。
「嫌。」
「規則です。」
「絶対嫌。」
「王城内での武器携帯は禁止されています。」
リリムは女性執事を睨む。
空気が少しだけ冷える。
「返してよ。」
「必ずお返しします。」
「いつ。」
「必要がなくなった時に。」
リリムは舌打ちした。
最悪だ。
銃を取られることは、手足を奪われるのと同じだった。
だが今ここで暴れても意味がない。
リリムはしぶしぶ銃を渡した。
「傷付けたら燃やす。」
女性執事は深く頭を下げる。
「丁重に保管いたします。」
リリムはますます機嫌が悪くなった。
しばらくして。
別の女性が部屋へ入ってきた。
背が高い。
長い黒髪を後ろで束ねている。
顔立ちは綺麗だが、柔らかさよりも鋭さが目立つ。
腰には細身の剣。
立ち姿に隙がない。
女性はリリムを見る。
「お前が新入りか。」
リリムは眉を上げる。
「新入りって何。」
「王城に来たばかりの者だ。」
「じゃあそう。」
女性は軽く頷いた。
「私はナディア。」
「王城護衛隊の一人だ。」
「今日からお前の護衛も兼ねる。」
「護衛?」
「そうだ。」
ナディアは当然のように言う。
「王城の住人は守られるべき存在だ。」
「特にお前のような者はな。」
「私のような?」
ナディアはリリムを見た。
「目立つ。」
「それ褒めてる?」
「半分は。」
「残り半分は?」
「面倒そうだ。」
リリムは少し笑った。
「当たってる。」
ナディアもほんの少しだけ口元を緩めた。
「自覚があるなら助かる。」
不思議な女だった。
綺麗なのに男らしい。
硬いのに少しだけ優しい。
リリムはそう思った。
ナディアは部屋を出るよう促す。
「城を案内する。」
「めんどくさい。」
「必要だ。」
「全部それで押し通す気?」
「そうだ。」
リリムはため息を吐いた。
案内された城は、想像以上に広かった。
大広間。
図書室。
庭園。
舞踏室。
大浴場。
食堂。
訓練場。
どこも豪華だった。
王城の女性達は皆、美しい服を着ている。
笑っている。
幸せそうに見える。
だがリリムには違和感があった。
誰も外を見ていない。
誰も男街の話をしない。
誰も帰りたいと言わない。
まるで、この城だけが世界の全てみたいだった。
途中、若い女性が廊下で転びそうになった。
ナディアはすぐに支える。
「大丈夫か。」
「ナディア様・・・ありがとうございます。」
女性は頬を赤らめた。
ナディアは真面目な顔で言う。
「無理に高い靴を履くな。」
「はい・・・。」
リリムは少し感心した。
「ちゃんと守ってるんだ。」
ナディアは前を向いたまま答える。
「当然だ。」
「ここにいる者達は王が選んだ大切な住人だ。」
「私が守る。」
その言葉に迷いはなかった。
リリムは少しだけナディアを見る目を変えた。
王を信じている。
この城を信じている。
でも。
この人は悪い人じゃない。
そう思った。
案内が終わる頃には、リリムはかなり疲れていた。
「長い。」
「まだ半分だ。」
「嘘でしょ。」
「本当だ。」
リリムは本気で帰りたくなった。
部屋へ戻ろうとした時。
ナディアが足を止めた。
「それと。」
「何。」
「王城では、毎朝、昼、晩、王と食事をする。」
リリムは固まる。
「毎回?」
「毎回だ。」
「めんどくさ・・・。」
ナディアの眉が動く。
「不敬だぞ。」
「だって面倒じゃん。」
「王と食事ができるのは名誉だ。」
「そう。」
「私は早く銃返してほしい。」
ナディアはリリムをじっと見る。
しばらくして言った。
「変わった女だな。」
「よく言われる。」
「普通なら泣いて喜ぶ。」
「普通じゃないから。」
リリムはそう答えた。
ナディアは少しだけ笑った。
本当に少しだけ。
「嫌いではない。」
リリムは首を傾げる。
「何が?」
「お前のそういうところだ。」
そう言われて、リリムは少しだけ返答に困った。
その時だった。
廊下の奥から女性執事がやってくる。
深々と頭を下げた。
「リリム様。」
「今度は何?」
「王様がお呼びです。」
リリムは嫌そうな顔をした。
「今?」
「はい。」
ナディアが姿勢を正す。
「私が案内する。」
「断ったら?」
「断れない。」
「だよね。」
ナディアに連れられ、リリムは長い廊下を歩いた。
赤い絨毯。
薔薇の絵画。
高い天井。
静かすぎる城。
やがて。
巨大な扉の前に着いた。
ナディアが立ち止まる。
「ここだ。」
「一人で?」
「王がお待ちだ。」
扉の向こうから声がした。
優しく。
甘く。
自信に満ちた声。
「入りたまえ。」
リリムは小さく息を吐く。
「絶対ろくな話じゃないわね。」
そして。
扉へ手を掛けた。
48話を読んでいただきありがとうございました!
今回は王城編スタートでした。
男街とはまるで別世界。
豪華な部屋。
美しい街並み。
丁重な扱い。
誰もが憧れる場所。
……のはずなのですが。
リリムはずっと居心地が悪そうでしたね。
そして新キャラクター。
護衛のナディアが登場しました。
真面目で堅物。
でも根は優しい。
そんな彼女が今後どう関わってくるのかも注目ポイントです。
そして最後。
ついに喜の番人との本格的な会話が始まります。
なぜリリムは選ばれたのか。
次回をお楽しみに!




