第35話 『導かれるために』
女神を殴った。
だが何も変わらなかった。
住民たちは女神を信じ続ける。
女神もまた、何も隠さない。
まるで本当に善人のように。
だからこそ。
ユーマは別の方法を選ぶ。
それでは第35話をお楽しみください。
教会を出た後。
ユーマたちは街外れまで移動していた。
さすがにあのまま教会の前で作戦会議はできない。
リリムは腕を組んでいた。
明らかに機嫌が悪い。
ロキは木にもたれている。
そして。
ユーマは考えていた。
「で。」
リリムが口を開く。
「作戦は?」
ユーマは顔を上げた。
「ある。」
即答だった。
嫌な予感しかしない。
リリムはそう思った。
「聞くだけ聞く。」
ユーマは少し真面目な顔になる。
「女神は怪しい。」
「それは分かる。」
リリムが答える。
ロキも頷いた。
ユーマは続ける。
「でも証拠がない。」
「だから住民はあいつを信じる。」
さっき見た光景が頭をよぎる。
卵。
石。
怒号。
出ていけコール。
完全に敵だった。
「だから。」
ユーマは言う。
「証拠を掴む。」
リリムが眉をひそめる。
「どうやって。」
ユーマは教会を見る。
遠くに見える白い建物。
そして。
静かに言った。
「俺が導かれる。」
沈黙。
風だけが吹いた。
リリムは固まる。
ロキも固まる。
数秒後。
リリムが言った。
「却下。」
即答だった。
ユーマは苦笑する。
「まだ説明――」
「却下。」
二回目だった。
ユーマはため息を吐く。
「聞けって。」
「聞いても却下。」
頑固だった。
ユーマは仕方なく続ける。
「導きの最中に何かやってる。」
「魂。」
「人肉。」
「導き。」
「全部繋がってる。」
「だから俺が導かれれば。」
「女神の正体が見える。」
ロキが腕を組む。
「理屈は分かる。」
「だが死ぬ。」
ユーマは少しだけ黙った。
「大丈夫だ。」
だからそう答えるしかなかった。
その瞬間だった。
リリムが立ち上がる。
「その大丈夫が嫌い。」
ユーマは目を瞬いた。
リリムが怒っていた。
本気で。
「盗賊の時も。」
「化け狸の時も。」
「今回も。」
「全部そう。」
リリムはユーマを睨む。
「大丈夫。」
「大丈夫。」
「大丈夫。」
「何が大丈夫なの。」
ユーマは何も言えない。
リリムは続ける。
「死ぬかもしれないんだよ。」
その言葉だけ。
妙に重かった。
ユーマは笑おうとした。
いつものように。
軽く流そうとした。
でも。
できなかった。
リリムが本気なのが分かったからだ。
ロキが言う。
「なら俺が行く。」
ユーマは首を振った。
「ダメだ。」
「なぜ。」
「お前演技下手そうだから。」
沈黙。
リリムが吹き出した。
「確かに。」
ロキも少し考える。
そして。
「否定できない。」
珍しく本人も認めた。
少しだけ空気が和らぐ。
だが。
すぐ戻った。
リリムはまだ怒っている。
ユーマは真っ直ぐ見た。
「頼む。」
「信じてくれ。」
リリムは目を逸らす。
沈黙。
風が吹く。
誰も喋らない。
そして。
ユーマが歩き出そうとした時だった。
ギュッ。
服を引っ張られた。
ユーマが振り返る。
リリムだった。
視線を合わせない。
俯いている。
珍しかった。
いつものリリムじゃない。
ユーマは少し驚く。
「リリム?」
沈黙。
リリムは何かを言おうとして。
言えなくて。
少し迷って。
そして。
そっと。
ユーマの手を握った。
ユーマは固まる。
リリムも固まる。
自分でやったくせに。
顔が少し赤かった。
「・・・行かないでよ。」
小さな声だった。
風に消えそうなくらい。
でも。
確かに聞こえた。
ユーマは言葉を失う。
ロキですら黙る。
リリムは慌てた。
「違う。」
「そうじゃなくて。」
「その・・・。」
耳まで赤い。
珍しいどころじゃない。
ユーマは少し笑った。
リリムはさらに慌てる。
「死んだら困る。」
「戦力的に。」
絶対嘘だった。
ロキもそう思った。
ユーマもそう思った。
たぶん。
リリム本人も。
そう思った。
ユーマは少しだけ優しく笑う。
「ありがとな。」
「うるさい。」
リリムは顔を逸らした。
でも。
手は離さなかった。
少しだけ。
本当に少しだけ。
そのままだった。
やがて。
リリムはゆっくり手を離す。
不安そうな顔。
初めて見る表情だった。
「本当に大丈夫なの?」
ユーマを見る。
真っ直ぐ。
「死ぬかもしれないんだよ?」
ユーマは少しだけ考える。
そして。
ニヤリと笑った。
いつもの顔だった。
ゲームを攻略する時の顔。
「大丈夫。」
リリムは呆れたように笑う。
「どっからその自信湧いてくるのよ。」
ユーマは肩をすくめた。
そして。
当たり前のように答えた。
「ゲーマーの勘かな。」
リリムは大きくため息を吐いた。
「馬鹿。」
だが。
少しだけ笑っていた。
ユーマは教会を見る。
白い塔。
優しい女神。
住民たちの信仰。
そして。
その奥に隠された真実。
攻略法は見えている。
あとは試すだけだった。
その夜。
宿屋の屋根の上。
ユーマは一人で空を見上げていた。
すると。
ふわりとセフィが現れる。
「本当におとりになるつもりですか?」
ユーマは笑う。
「まぁな。」
セフィと不安そうだ。
「本当に大丈夫ですかねぇ。」
ユーマは教会を指差す。
「確認だけど、今のセーブ地点。」
「教会だよな?」
「はい。」
セフィは即答した。
「教会内のセーブポイントです。」
ユーマは頷く。
「で。」
「俺が死んだら。」
「そこに戻るんだよな?」
セフィは不思議そうな顔をした。
「そうですけど。」
「どうかしました?」
数秒の沈黙。
そして。
ユーマの口元がニヤリと歪む。
「使えるぜ。」
セフィが嫌な予感を察知する。
「え?」
ユーマは立ち上がる。
そして言った。
「つまり。」
「一回死ねるってことだろ?」
セフィは固まった。
数秒固まった。
そして。
顔を真っ赤にして叫ぶ。
「またですかぁぁぁ!!」
ユーマは笑う。
「まただ。」
「ゲーマーはな。」
「ボス戦の前に情報集めるんだよ。」
セフィは頭を抱える。
「わざと死ぬんですか?!普通じゃない!」
「普通じゃないからな。」
ユーマは教会を見つめる。
夜空に浮かぶ白い塔。
その奥にいる女神。
そして。
隠された正体。
ユーマは小さく笑った。
「待ってろよ。」
「女神様。」
「攻略法は見つけた。」
夜風が吹く。
明日。
ユーマは導かれる。
そして。
その奥に隠された真実。
攻略法は見えている。
第35話を読んでいただきありがとうございました!
ついにユーマの作戦が明らかに!
次回、命を賭けた潜入作戦が始まります。
そしてラグナシア編最大の真実が明かされる――。




