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レベル1の『〇〇』 〜あなたが選ぶ転生物語〜  作者: 矢部夏 泡太
ラグナシア編

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第34話 『悲しみの拳』

ミアはもういない。


昨日まで笑っていた少女は。


ラグナシアという街に喰われた。


ユーマは怒っていた。


悲しんでいた。


そして決めた。


もう許さないと。


それでは第34話をお楽しみください。

ラグナシアの中央。


大教会。


白い石で作られた巨大な建物。


今日も多くの人で賑わっていた。


祈る者。


感謝する者。


導きを待つ者。


誰もが女神を信じている。


その中心で。


女神は微笑んでいた。


銀色の髪。


優しい瞳。


柔らかな声。


まるで本当に女神だった。


一人の老人が跪いている。


女神はその手を取った。


「安心してください。」


「あなたは救われます。」


老人は涙を流す。


周囲の住民たちも嬉しそうだった。


感動している。


涙を流している者までいる。


その時だった。


教会の扉が開いた。


バンッ!!


大きな音が響く。


全員の視線が集まる。


そこに立っていたのは。


ユーマだった。


後ろにはリリム。


そしてロキ。


教会の空気が一瞬で変わる。


女神が視線を向けた。


「あら。」


優しく微笑む。


「どうしましたか?」


その笑顔を見た瞬間だった。


ユーマの脳裏に浮かぶ。


ミアの顔。


笑顔。


「お兄ちゃーん!」


という声。


ミアの髪飾り。


そして。


あの食卓。


ユーマは歩く。


真っ直ぐ。


一直線に。


住民たちがざわつく。


「誰だ?」


「冒険者?」


「何する気だ?」


女神は動かない。


ただ微笑んでいる。


ユーマは止まらない。


距離が縮まる。


十歩。


五歩。


三歩。


女神が口を開く。


「何か――」


最後まで言わせなかった。


ドゴォォォォォン!!!


拳が顔面に突き刺さる。


女神の身体が吹き飛んだ。


教会の柱に激突する。


轟音。


悲鳴。


静寂。


全員が固まった。


女神ですら固まっていた。


ユーマは拳を握る。


震えている。


怒りで。


悲しみで。


悔しさで。


「お前を許さん。」


静かな声だった。


だが。


教会中に響いた。


住民たちが我に返る。


「なっ・・・!」


「おい!」


「何してる!!」


「女神様だぞ!!」


怒号が飛ぶ。


ユーマは睨み返した。


「黙れ。」


その一言だけだった。


だが。


空気が震えた。


リリムは少し目を見開いていた。


今まで見たことがないユーマだった。


普段は馬鹿だ。


ゲームだ。


レベルだ。


経験値だ。


そんなことばかり言っている。


でも今は違った。


迷いがない。


一直線だった。


リリムは少しだけ笑う。


「・・・かっこいいところあんじゃん。」


誰にも聞こえない声だった。


ロキは斧を肩に担ぐ。


「ようやく殴ったか。」


どうやら止める気はないらしい。


ユーマは剣を抜いた。


リリムもAK-1010を構える。


ロキも斧を握る。


完全な戦闘態勢だった。


その瞬間。


「やめろーー!!」


叫び声。


住民だった。


一人じゃない。


二人。


三人。


十人。


次々に立ち上がる。


「女神様を傷付けるな!」


「出ていけ!」


「この街から出ていけ!」


導きを待っていた老人まで叫んでいる。


「せっかく導かれるところだったのに!」


「最悪だ!」


「何しに来たんだ!」


怒号が飛ぶ。


そして。


卵。


ゴミ。


石。


次々に投げられる。


ユーマの肩に当たる。


リリムの服に当たる。


ロキの頭にも当たった。


「出ていけ!」


「出ていけ!」


「出ていけ!」


「出ていけ!」


大合唱だった。


教会中が敵。


完全なアウェー。


ユーマは歯を食いしばる。


「こいつら・・・。」


リリムも顔をしかめる。


「思ったより重症。」


ロキも珍しく眉をひそめた。


「厄介だな。」


その時だった。


「やめなさい。」


女神の声。


一言だった。


だが。


住民たちは静まった。


まるで魔法みたいに。


女神はゆっくり立ち上がる。


頬は赤く腫れていた。


口元から血も流れている。


それでも。


怒っていなかった。


女神は住民たちへ向かって言う。


「この方達は悪い人ではありません。」


住民たちがざわつく。


「ですが・・・!」


「女神様!」


女神は首を横に振る。


「違います。」


そして。


ユーマを見る。


まっすぐに。


「この方は悲しんでいるのです。」


教会が静かになる。


女神は続けた。


「迷っているのです。」


「苦しんでいるのです。」


「だから私を殴った。」


優しい声だった。


責める声じゃない。


本気でそう思っている声。


女神は微笑む。


「この拳からも。」


腫れた頬へ手を添える。


「深い悲しみを感じました。」


ユーマは言葉を失った。


住民たちも黙る。


女神は住民へ向かって言う。


「手を差し伸べましょう。」


「この方達も。」


「皆さんと同じです。」


「救いを求めているのですから。」


完全に善人だった。


いや。


善人すぎた。


ユーマは理解する。


これでは勝てない。


証拠がない。


正体も分からない。


今ここで戦えば。


自分たちが悪者になる。


リリムが小声で言う。


「うわ。」


「めんどくさい。」


完全に同意だった。


ロキも鼻を鳴らす。


「予想以上だな。」


ユーマは拳を握る。


そして。


気付いた。


ゲームなら。


こういう時は。


力押しじゃない。


攻略だ。


情報だ。


弱点探しだ。


ユーマは女神を見る。


女神も見ている。


優しく。


穏やかに。


何も隠していないような顔で。


その顔が逆に怪しかった。


ユーマは小さく笑う。


「なるほどな。」


リリムが聞く。


「何が?」


ユーマは振り返った。


そして。


ニヤリと笑った。


久しぶりの。


ゲーマーの顔だった。


「攻略法が見えた。」


リリムが嫌な顔をする。


「その顔。」


「ろくでもないこと考えてる。」


「失礼な。」


「当たってるでしょ。」


当たっていた。


ユーマは女神を見る。


そして。


静かに言った。


「俺が導かれる。」


リリムが固まる。


「は?」


ロキも初めて表情を変えた。


ユーマは笑う。


「大丈夫。」


「ちゃんと考えてる。」


その視線の先。


教会の奥。


セフィだけが気付いていた。


教会の隅にある小さな光。


セーブポイント。


ユーマの頭の中で。


一つの作戦が完成し始めていた。

第34話を読んでいただきありがとうございました!


ついにユーマの拳が炸裂!


しかし女神は予想外の反応を見せます。


次回、ユーマの命を賭けた潜入作戦が始まる――。

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