第28話 『導かれた先』
ラグナシアへ来て数日。
番人を探し続けるユーマたちだったが、街は驚くほど平和だった。
誰も困っていない。
誰も苦しんでいない。
番人がいるとは思えない。
だが――
「導かれる」という言葉だけは、どうしても気になっていた。
それでは第28話をお楽しみください。
翌朝。
ユーマたちは再び街を歩いていた。
目的は一つ。
導かれるとは何なのか。
そして。
この街の番人は誰なのか。
市場を歩く。
人は多い。
笑顔も多い。
今日も平和だった。
平和すぎるくらいに。
「なぁ。」
ユーマが言う。
「ここまで何もないと逆に怖くなってきた。」
リリムはリンゴをかじりながら答える。
「何もないのは良いこと。」
「ゲームなら怪しい。」
「またゲーム。」
「だってそうだろ?」
ユーマは周囲を見る。
「平和な街です。」
「みんな幸せです。」
「問題ありません。」
「こういう街ほど裏がある。」
リリムは少し考えた。
「確かに。」
「だろ?」
「でもユーマの言うことだから半分くらいしか信用できない。」
「なんでだよ。」
「雑魚だから。」
「関係ねぇだろ!」
ロキは今日も少し前を歩いている。
話に参加する気はないらしい。
ユーマたちは聞き込みを続けた。
パン屋。
魚屋。
商人。
旅人。
誰に聞いても答えは似ていた。
「女神様は素晴らしい方です。」
「導かれるのは幸せなことですよ。」
「私もいつか導かれたいですね。」
みんな同じ。
まるで教科書でもあるみたいだった。
「絶対なんかあるだろ。」
ユーマが小さく呟く。
「ある。」
珍しくロキが返事をした。
「だよな?」
「だがまだ分からん。」
そこは同意だった。
その時。
果物屋の前にいた女性が財布を取り出した。
年齢は五十代くらいだろうか。
優しそうな人だった。
すると。
ポロッ。
何かが落ちた。
ユーマは反射的に拾う。
ハート型の飾りが付いたブレスレットだった。
「落としましたよ。」
女性は振り返る。
「あら。」
受け取る。
そして嬉しそうに笑った。
「ありがとう。」
「大事な物なんですか?」
ユーマが聞く。
女性は優しく頷いた。
「娘にもらったの。」
そう言ってブレスレットを撫でた。
「だから無くしたら怒られちゃう。」
「なるほど。」
リリムがブレスレットを見る。
「ハート好きなんだ。」
女性は少し照れくさそうに笑った。
「もうおばさんなのにね。」
「似合ってる。」
リリムが言う。
女性は嬉しそうだった。
ほんの数分の会話だった。
それだけ。
それだけだった。
昼過ぎ。
ミアの家へ行く。
最近はすっかり日課になっていた。
「お兄ちゃーん!」
ミアが飛びついてくる。
ユーマは受け止める。
「元気だな。」
「元気!」
知ってる。
父親が笑った。
「毎日うるさいんですよ。」
「聞こえてるー!」
ミアが抗議する。
家の中は今日も平和だった。
温かい。
普通の家庭。
普通の幸せ。
だからこそ。
ユーマは昨日から抱えている違和感が消えなかった。
「なぁミア。」
「ん?」
「おばあちゃん元気か?」
ミアは不思議そうな顔をした。
「元気だよ?」
ユーマは固まる。
「会ったのか?」
「ううん。」
「じゃあなんで?」
ミアは首を傾げた。
まるで当たり前のことを聞かれたように。
「だって導かれたんだもん。」
答えになっていなかった。
だが。
本人は本気だった。
ユーマはそれ以上聞けなかった。
夜。
ラグナシアは静かだった。
昼の賑わいが嘘みたいに。
街灯の灯りだけが石畳を照らしている。
教会の裏。
建物の影。
そこに三人はいた。
張り込みだった。
「眠い。」
リリムが言う。
「まだ始まってねぇだろ。」
「眠いものは眠い。」
「寝るなよ。」
「善処する。」
絶対寝る。
ユーマはそう思った。
時間だけが過ぎる。
何も起きない。
誰も来ない。
「なぁ。」
ユーマが言う。
「本当に意味あるのかこれ。」
「分からん。」
ロキが答える。
「分からんのかよ。」
「だが待つ。」
「それしかないか。」
その時だった。
教会の裏口が開いた。
三人の表情が変わる。
ギィィ・・・。
重い音。
そして。
ゆっくりと荷車が出てきた。
黒い布が被せられている。
大きい。
かなり重そうだった。
運んでいる男たちも無言だった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
誰も喋らない。
ユーマたちは物陰から様子を見る。
荷車はゆっくり進んでいく。
ユーマたちも距離を取って後を追った。
その時だった。
ガタッ。
車輪が石に乗り上げる。
荷車が大きく揺れた。
黒い布が少しだけずれる。
そこから。
白い手が見えた。
だらん。
力なく垂れている。
ユーマは息を呑む。
「・・・人?」
小さく呟く。
そして。
その手首を見た瞬間。
全身が凍りついた。
見覚えがあった。
間違いない。
昼間。
果物屋の前で会った女性。
落としたブレスレットを拾った。
あの人だ。
ハート型のブレスレット。
月明かりに照らされて揺れていた。
「・・・おい。」
ユーマの声が震える。
リリムも気付いた。
表情が消える。
ロキも無言だった。
誰も何も言わない。
言えなかった。
昼間まで笑っていた人が。
数時間前まで普通に生きていた人が。
今。
荷車で運ばれている。
教会から。
どこかへ。
夜の街を。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
荷車は進んでいく。
ユーマたちは顔を見合わせた。
そして。
何も言わずに後を追った。
第28話を読んでいただきありがとうございました!
ついに動き出したラグナシアの裏側。
導かれた人はどこへ運ばれるのか。
そして教会の奥で何が行われているのか。
次回、ユーマたちはラグナシア最大の秘密へ近付いていきます。




