第26話 『導かれる人』
ラグナシアで出会ったミア一家。
優しい両親。
元気いっぱいのミア。
そして街中から慕われる女神。
死の森とはまるで別世界のような日々が始まっていた。
だが――
どんな街にも違和感は存在する。
それでは第26話をお楽しみください。
翌朝。
宿の扉が勢いよく開いた。
「おはよーーー!!」
ユーマは飛び起きた。
「敵襲か!?」
違った。
ミアだった。
「おはよう!」
元気だった。
朝から元気すぎた。
ユーマはまだ眠い。
「まだ朝だぞ・・・。」
「だから起こしに来た!」
意味が分からない。
その頃。
リリムは布団に埋まっていた。
「起きろ。」
ユーマが揺する。
「無理。」
「なんで。」
「眠い。」
正直だった。
ミアが布団を引っ張る。
リリムも引っ張る。
ミアも引っ張る。
謎の綱引きが始まった。
数分後。
最終的に負けたのはリリムだった。
「燃やす・・・。」
寝起きから物騒だった。
ロキは既に起きていた。
宿の一階で朝食を食べている。
「なんでそんなに目が覚めてるんだ。」
ユーマが聞く。
「鍛錬。」
ロキが答えた。
「朝から?」
「朝だから。」
意味が分からなかった。
ミアは満面の笑みで言う。
「今日は私がラグナシアを案内してあげる!」
こうして。
ラグナシア観光第二弾が始まった。
まず連れて行かれたのはパン屋だった。
焼きたてのパンが並んでいる。
甘い匂い。
香ばしい匂い。
食欲を刺激する匂い。
「ここのクリームパン美味しいの!」
ミアが言う。
買う。
食べる。
うまい。
次は市場。
魚屋。
果物屋。
雑貨屋。
武器屋。
ミアは街中を知り尽くしていた。
「ここ安い!」
「ここ美味しい!」
「ここ怖い!」
「なんで怖いんだよ。」
「店主が怒る。」
行くのはやめた。
歩いているだけで楽しい。
街には活気があった。
笑い声が聞こえる。
商人の声が聞こえる。
どこを見ても人がいる。
本当に良い街だった。
その時だった。
「女神様!」
誰かが叫んだ。
人々が振り向く。
道の向こう。
白い服を着た女性が歩いていた。
長い銀髪。
優しい微笑み。
昨日教会で見た女性だった。
「あ。」
ミアが手を振る。
「女神様ー!」
女神も気付いた。
そして優しく笑う。
「ミア。」
「おはよう!」
「おはようございます。」
女神はミアの頭を撫でる。
本当に優しい。
演技には見えなかった。
「旅人さん達も。」
女神はユーマたちを見る。
「ラグナシアには慣れましたか?」
ユーマは頷いた。
「すごく良い街ですね。」
「そう言っていただけると嬉しいです。」
女神は笑った。
柔らかい笑顔だった。
リリムも少し見つめている。
「優しい人だね。」
珍しく素直な感想だった。
女神は少し照れたように笑う。
「そんなことありませんよ。」
その時。
近くの老人が荷物を落とした。
重そうな木箱だった。
女神はすぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「すみません。」
「気にしないでください。」
木箱を持ち上げる。
老人は何度も頭を下げていた。
周囲の人も笑顔だった。
ユーマは思う。
(本当に良い人なんだな。)
だが。
その時だった。
ロキだけは黙っていた。
ずっと。
女神を見ていた。
「どうした?」
ユーマが聞く。
ロキは視線を外した。
「いや。」
それ以上は何も言わなかった。
昼過ぎ。
広場で休憩する。
ミアが突然立ち上がった。
「あ。」
「どうした?」
ユーマが聞く。
ミアは広場の端を指差した。
そこには老人がいた。
杖をついて歩いている。
かなり高齢に見える。
「おじいちゃんだ。」
ミアが手を振る。
老人も手を振り返した。
「元気そうだな。」
ユーマが言う。
ミアは首を傾げた。
「でも最近急におじいちゃんになったんだよね。」
「・・・ん?」
ユーマは聞き返した。
「最近って?」
「一ヶ月くらい前。」
ミアは不思議そうに言う。
「その前はもっと若かったよ。」
「一ヶ月で?」
「うん。」
ユーマは少し首を傾げた。
そんなことあるか?
だが。
本人は元気そうだった。
深く考えるのはやめた。
夕方。
ユーマたちは再びミアの家を訪れていた。
すっかり日課になりつつある。
夕食を食べる。
笑う。
話す。
平和だった。
本当に平和だった。
食事が終わった頃。
父親が言った。
「そういえば。」
「なんです?」
ユーマが聞く。
父親は少し嬉しそうに笑った。
「明日、おばあちゃんが導かれるんだ。」
ユーマは首を傾げる。
「導かれる?」
母親も笑顔だった。
「ええ。」
「女神様の元へ。」
ミアも嬉しそうに言う。
「おばあちゃんずっと楽しみにしてたんだよ!」
ユーマは言葉を失った。
楽しみにしていた?
導かれるって何だ?
死ぬことじゃないのか?
だが。
父親も。
母親も。
ミアも。
誰一人悲しそうではなかった。
むしろ。
喜んでいるように見えた。
「・・・そうなんだ。」
ユーマはそう答えるしかなかった。
窓の外では。
ラグナシアの灯りが輝いていた。
優しい街。
平和な街。
だけど。
胸の奥に小さな違和感が残る。
そんな夜だった。
第26話を読んでいただきありがとうございました!
ラグナシアの日常回その2!
そして初めて出てきた「導かれる」という言葉。
それは祝福なのか。
それとも――。
次回、ユーマたちはその意味を少しずつ知ることになります。




