第25話 『幸せな食卓』
ラグナシアで出会った少女ミア。
魚のモンスターから助けたお礼として、ユーマたちはミアの家へ招かれることになった。
死の森を抜けたばかりの三人にとって、それは久しぶりの穏やかな時間だった。
それでは第25話をお楽しみください。
「着いたよ!」
ミアが元気よく家を指差した。
そこには小さな一軒家があった。
豪華ではない。
けれど窓辺には花が飾られ、玄関先も綺麗に掃除されている。
家族が大事に暮らしているのが一目で分かった。
ミアは勢いよく扉を開けた。
「ただいまー!」
奥から慌てた声が聞こえる。
「ミア!?」
飛び出してきたのは母親だった。
ミアを見るなり抱きしめる。
「心配したのよ!」
「お母さん苦しい!」
「ごめんごめん!」
母親は笑いながらミアを離した。
その後ろから父親も出てくる。
優しそうな顔をした男性だった。
「どうしたんだ?」
ミアは胸を張った。
「モンスターに襲われた!」
「は?」
父親と母親の顔色が変わる。
「でもね!」
ミアはユーマたちを指差した。
「この人たちが助けてくれたの!」
二人は深々と頭を下げた。
「娘を助けていただき、本当にありがとうございます。」
「いえいえ!」
ユーマは慌てる。
「助けたのはロキです。」
ロキを指差す。
ロキは嫌そうな顔をした。
父親は改めて頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「別に。」
相変わらずだった。
「照れてる。」
ミアが言う。
「照れてない。」
「照れてる。」
「照れてない。」
「照れてる。」
ロキはため息を吐いた。
母親が笑う。
「とにかく入ってください。」
家の中は温かかった。
木の香りがする。
食卓にはすでに料理が並び始めていた。
肉料理。
野菜のスープ。
焼き立てのパン。
死の森帰りの三人には拷問みたいな光景だった。
「大したものじゃないけど。」
母親が言う。
ユーマは思わず首を振る。
「いやいや、十分豪華ですよ。」
リリムはすでに席に座っていた。
早い。
とてつもなく早い。
「いただきます。」
誰よりも早かった。
「まだ始まってない。」
ユーマがツッコむ。
「お腹空いた。」
リリムは真顔だった。
食事は本当に美味しかった。
肉は柔らかい。
スープも温かい。
パンもふわふわだ。
死の森で食べた干し肉とは天と地ほど違う。
「うまいな。」
ユーマが言う。
父親は嬉しそうに笑った。
「ラグナシアは食べ物が豊富だからな。」
「本当に良い街ですね。」
「女神様のおかげだよ。」
父親は迷いなく答えた。
母親も頷く。
「怪我人も助けてくださるし。」
「食料も分けてくださるし。」
「私たちはずっとお世話になってるんです。」
ミアも元気よく手を挙げる。
「私も女神様大好き!」
家族全員が笑った。
本当に慕われているんだな。
そう思った。
食事が終わると。
ミアが突然立ち上がった。
「暇!」
元気だった。
恐ろしいほど元気だった。
「遊ぼう!」
標的はユーマだった。
「なんで俺?」
「暇そうだから!」
「失礼だな。」
ミアはユーマの腕を引っ張る。
そのまま庭へ連行された。
「鬼ごっこ!」
「マジかよ・・・。」
「マジ!」
ミアは走り出した。
速い。
子供の体力を舐めていた。
ユーマも慌てて追いかける。
庭を走る。
転びそうになる。
笑う。
久しぶりだった。
こんな風に遊ぶのは。
「捕まえたー!」
ミアが勝ち誇る。
「なんで俺が捕まる側なんだよ!」
その時。
リリムが庭へ出てきた。
「何してるの?」
「鬼ごっこ。」
「ふーん。」
興味なさそうだった。
だが。
数秒後には参加していた。
「待て。」
速い。
とにかく速い。
「速い速い速い!!」
ミアが逃げる。
ユーマも逃げる。
リリムだけが追う。
立場がおかしかった。
「捕まえた。」
数十秒後。
リリムはミアを抱き上げていた。
「ずるい!」
「ずるくない。」
「速すぎる!」
「頑張った。」
少しだけ得意そうだった。
その頃。
ロキは家の前に座っていた。
参加しない。
ミアが気付く。
「ロキお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんじゃない。」
「ロキお兄ちゃんも遊ぼう!」
「断る。」
即答だった。
だが。
ミアは諦めない。
「遊ぼう!」
「断る。」
「遊ぼう!」
「断る。」
「遊ぼう!」
「断る。」
しばらく続いた。
最終的に根負けしたのはロキだった。
「一回だけだ。」
「やったー!」
その結果。
ロキは子供相手に本気を出した。
十秒後。
ミア確保。
ユーマ確保。
リリム確保。
全滅だった。
「大人気ない!!」
ユーマが叫ぶ。
「手加減した。」
ロキは真顔だった。
絶対嘘だ。
庭には笑い声が響いていた。
父親も母親も楽しそうに見ている。
平和だった。
本当に。
夕方になる。
ミアは眠そうに目を擦っていた。
「今日はありがとう。」
ミアが言う。
「楽しかった。」
ユーマは笑った。
「俺も。」
「また遊ぼうね!」
「おう。」
「約束だからね!」
「分かったって。」
ミアは満足そうに笑った。
宿へ戻る。
リリムは部屋へ入るなりベッドへ倒れた。
「おやすみ。」
早い。
ロキも無言で部屋へ戻る。
静かだった。
ユーマは窓際へ座った。
そして通信石を取り出す。
淡い光が灯る。
しばらくすると。
聞き慣れた声が聞こえた。
「ユーマ!」
アリスだった。
思わず笑顔になる。
「おう。」
「どうだった!?」
待ってましたと言わんばかりだった。
ユーマは笑う。
「聞いてくれよ!」
そこから止まらなかった。
死の森。
盗賊。
化け狸。
ラグナシア。
ロキ。
リリム。
今日の出来事。
全部話した。
「俺さ!」
「レベルも8になったんだ!」
「すごいじゃない!」
アリスが嬉しそうに言う。
「だろ!?」
「頑張ったんだなぁ。」
その言葉だけで嬉しかった。
ユーマはさらに話す。
「あとさ、ミアって子がいて!」
「十歳くらいなんだけどさ!」
「めちゃくちゃ元気なんだよ!」
「ずっと遊ばされた!」
アリスは楽しそうに笑う。
「ふふっ。」
「ユーマ楽しそう。」
「分かる?」
「うん。」
すぐに分かったらしい。
「でも本当に良い子なんだ。」
「また明日遊ぶ約束までしちゃった。」
「それは楽しみだね。」
アリスの声は優しかった。
なんだか安心する。
「そっちは?」
ユーマが聞く。
「変わらないよ。」
アリスは笑った。
「でも。」
少しだけ声が柔らかくなる。
「無茶だけはしないでね。」
ユーマは少しだけ黙った。
化け狸戦。
盗賊。
死の森。
色々思い出す。
「・・・善処します。」
「絶対してない顔だ。」
「なんで分かるんだよ。」
アリスは笑った。
その笑い声を聞いていると。
不思議と心が落ち着いた。
通信が終わる。
部屋は静かになる。
ユーマは窓の外を見る。
ラグナシアの夜景が広がっていた。
(やっぱアリスと話すと落ち着くな。)
そんなことを思いながら。
ユーマはベッドへ倒れ込んだ。
明日も。
良い一日になる気がしていた。
第25話を読んでいただきありがとうございました!
今回はミア一家との交流回!
そして久しぶりのアリス登場でした!
次回から少しずつラグナシアの裏側が見え始めます――。




