第16話 『フードの下』
ついにリリムと同行することになったユーマ。
目的地は同じ第一の街。
しかし、その道のりは「死の森」と呼ばれる危険地帯でした。
それでは第16話をお楽しみください。
死の森を歩き始めて数時間。
空はすっかりオレンジ色になっていた。
俺は周囲を見回す。
昼間でも不気味だった森が、夕方になるとさらに不気味さを増していた。
「今日はここまでにしましょう。」
リリムが立ち止まる。
「まだ歩けそうだけど?」
「だから危ないのよ。」
リリムは呆れたように肩をすくめた。
「ユーマってさ、たまに命知らずよね。」
「褒めてる?」
「全然。」
即答だった。
「夜の死の森なんて新人が歩く場所じゃないわ。モンスターだけじゃなくて盗賊も出るし、人攫いもいるし、最悪寝てる間に首飛ぶわよ。」
「最後急に怖いな。」
「怖い場所だもの。」
妙に説得力があった。
俺たちは近くの開けた場所に腰を下ろした。
「さて。」
俺はバッグを開く。
「飯にするか。」
その瞬間だった。
リリムの目が輝いた。
「待ってました!」
「お前そんなキャラだったか?」
「朝から何も食べてないの。もう限界。さっきから食料しか見えてなかった。」
「だから同行を許可したんじゃないだろうな。」
リリムは少し考えた。
「三割くらい。」
「結構高いな!」
リリムは笑った。
そしてフードに手を掛ける。
「食べにくいし。」
そう言ってフードを外した。
その瞬間だった。
俺は少しだけ目を見開く。
赤い髪。
整った顔立ち。
鋭い目つき。
でもどこか悪戯っぽい笑顔。
ギルドで見た時はもっと近寄りがたい奴だと思っていた。
冷たくて。
怖くて。
話しかけにくい感じ。
でも実際は全然違う。
なんというか。
小悪魔っぽい。
年相応の女の子だった。
「なに?」
リリムが首を傾げる。
「いや。」
「いや?」
「思ってた感じと違うなって。」
「どんな感じだと思ってたの?」
「もっと怖い奴。」
「失礼ね。」
「実際は。」
「実際は?」
「思ったよりアホだった。」
「燃やすわよ。」
即座に返ってきた。
やっぱり怖かった。
でも。
その笑顔は可愛かった。
普通に。
かなり。
いや待て。
俺は慌てて頭を振る。
違う違う。
何考えてるんだ。
俺にはアリスがいるだろ。
いや別に付き合ってるわけじゃないけど。
でもアリスが――
「へぇ。」
セフィがニヤニヤしていた。
嫌な予感しかしない。
「なんだ。」
「恋心はないって言ってませんでしたっけ?」
「ない!」
「顔真っ赤ですよ?」
「なってない!」
「なってます。」
「なってない!」
リリムは不思議そうに俺とセフィを見比べた。
「なに騒いでるの?」
「なんでもない!」
「変な人。」
二人に言われたくなかった。
食事を始める。
干し肉。
パン。
果物。
簡単なものばかりだ。
だが。
リリムはめちゃくちゃ嬉しそうだった。
「美味しい。」
「大袈裟だろ。」
「大袈裟じゃないわよ。昨日なんて木の実だけだったし。」
「お前レベル9だろ?」
「そうだけど?」
「もっと良いもの食えよ。」
リリムは首を傾げる。
「レベルと食生活って関係あるの?」
「なんか強者っぽくない。」
「強者はご飯食べないの?」
「そういう話じゃない。」
リリムはパンをかじる。
そして何かを思い出したように言った。
「そういえば。」
「なんだ?」
「ユーマってレベルいくつなの?」
「5。」
リリムは固まった。
「本当に?」
「本当だ。」
「え、待って。」
リリムは俺を見る。
「レベル5で死の森入ったの?」
「入った。」
「レベル5で魔王倒そうとしてるの?」
「そうだ。」
「地図も持ってなかったのに?」
「そうだ。」
リリムは天を仰いだ。
「すごい。」
「また褒めてないな?」
「褒めてない。」
やっぱりか。
「でもちょっと面白い。」
「面白い?」
「普通そんな無計画な人いないもの。」
ひどい言われようだった。
「ちなみにリリムはレベル9なんだよな?」
「そう。」
「どうやってそこまで上げたんだ?」
「適当に戦ってたら上がった。」
「絶対嘘だろ。」
「半分くらい。」
半分は本当らしい。
「でもユーマ。」
リリムが俺を見る。
「レベル5にしては結構強いわよ。」
「お。」
「レベル3ウルフ倒してたし。」
「だろ?」
「死にかけてたけど。」
「最後の一言!」
リリムは楽しそうに笑った。
少し悔しい。
でも。
悪い気分じゃなかった。
しばらくして。
食事も終わる。
森は完全に暗くなっていた。
昼とは別世界だった。
静かすぎる。
鳥の声もない。
風の音だけが聞こえる。
「なぁ。」
俺は少し真面目な声で聞いた。
「死の森ってそんなに危険なのか?」
リリムも少し表情を引き締めた。
「昼はまだいいの。」
「夜は?」
「夜は別。」
そう言った後。
リリムは珍しく冗談を言わなかった。
「新人冒険者が一番死ぬのは夜よ。」
「そんなにか。」
「視界は悪くなるし、モンスターは活発になるし、人間も動き出す。」
「人間?」
「盗賊とか人攫いとか。」
俺は顔をしかめた。
モンスターだけじゃないのか。
「だから火も小さくする。」
「見つからないためか。」
「そう。」
リリムは立ち上がった。
そして小さな火を見つめる。
「まあ襲われたら燃やすけど。」
「結局それか。」
「燃えるよ?」
「その口癖好きだな。」
「好き。」
即答だった。
その後。
俺は横になる。
セフィはすでに眠っていた。
ふと視線を向ける。
少し離れた場所。
リリムが一人で月を見ていた。
昼間みたいに喋らない。
笑わない。
ただ静かに。
月を見上げていた。
その横顔は。
少しだけ寂しそうに見えた。
俺は声を掛けようとした。
でもやめた。
なんとなく。
今はまだ踏み込んじゃいけない気がしたからだ。
死の森の夜は。
まだ始まったばかりだった。




