第149話 『強さとは』
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
バリントンの刀が。
ユーマへ向かって振り下ろされる。
速い。
重い。
避けられない。
その瞬間だった。
ユーマの脳裏に。
一人の男の姿が浮かぶ。
「ガルド……。」
あの日。
ミスト村の修行。
ガルドは一本の木の枝。
ユーマは木刀。
武器だけ見れば。
ユーマの方が圧倒的に有利だった。
それなのに。
一度も勝てなかった。
何百回。
何千回。
挑んでも。
結果は同じだった。
木刀は弾かれ。
転ばされ。
叩き伏せられた。
当時のユーマは思っていた。
(なんでだ……。)
(なんで木の枝なんかに負けるんだ……。)
その時。
ガルドは笑って言った。
『ユーマ。』
『武器が強いんじゃない。』
『使う者が強いんだ。』
『どんな武器でも。』
『魔力を流し。』
『自分の体の一部として扱え。』
『そうすれば。』
『枝一本でも剣に勝てる。』
記憶が現在へ戻る。
ユーマは。
手に持ったピコピコハンマーを見る。
「そうか……。」
「ガルドは。」
「木の枝だから強かったんじゃねぇ。」
「ガルドが強かったんだ。」
静かに笑う。
「だったら。」
「お前でも。」
「戦えるよな。」
ユーマは目を閉じた。
魔力を流す。
腕から。
指先へ。
そして。
ピコピコハンマーへ。
ブォォォ……
風が集まり始める。
青白い風。
会場中の風が。
一本のハンマーへ吸い寄せられていく。
バリントン。
「何をしても無駄だぁぁぁぁ!!!!」
刀が目前まで迫る。
ユーマは前へ踏み込んだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ガキィィィィィィィン!!!
刀と。
ピコピコハンマーが。
真正面から激突する。
実況。
「ぶつかったぁぁぁぁぁ!!!!」
会場が息を呑む。
一瞬。
時間が止まった。
ピキ……
小さな音。
バリントンが目を見開く。
「……?」
ピキピキ……
刀に。
無数のヒビが走る。
「なっ……!」
ポキッ。
真っ二つ。
刀は。
まるで紙のように切断された。
実況。
「なっ……!!」
「なんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
観客席。
「嘘だろ!!」
「ピコピコハンマーで!?」
「刀を折ったぁぁぁ!?」
バリントンは後ずさる。
「ありえねぇ!!」
ユーマは笑った。
「強ぇ奴はな。」
ピコピコハンマーを肩へ担ぐ。
「何使っても。」
「強ぇんだよ。」
風が。
再び集まる。
今度は。
ピコピコハンマー全体を包み込む。
ブォォォォォォ……
ユーマは大きく振りかぶった。
「風神流――」
一歩踏み込む。
「風斬りぃぃぃぃぃ!!!!」
ブォォォォォォォォォン!!!
ピコピコハンマーから。
巨大な風の斬撃が放たれた。
バリントン。
「しまっ――」
ズドォォォォォォォォン!!!
風が。
バリントンを飲み込む。
そのまま。
身体ごと金網まで吹き飛ばした。
ドォォォォォン!!!
金網が大きく揺れる。
バリントンは壁にもたれたまま。
ゆっくり崩れ落ちた。
動かない。
実況席も。
観客席も。
静まり返る。
誰一人。
声を出せなかった。
実況は震える声で確認する。
「バ……。」
「バリントン選手……。」
返事はない。
審判が近付く。
脈を確認。
そして。
ゆっくり手を上げた。
「勝者――」
一呼吸置く。
「ユーーーーーーーマァァァァァ!!!!」
ドォォォォォォォォ!!!
会場が爆発した。
「勝ったぁぁぁぁ!!!」
「五十連勝が止まった!!」
「新人が勝ちやがった!!」
「五十倍だぞ!!」
「五十倍ぃぃぃぃ!!!!」
レイは静かに笑う。
「やっぱりな。」
リリムは飛び跳ねた。
「やったぁぁぁぁ!!」
ロキも口元を緩める。
「たいしたもんだ。」
オヤジはその場に崩れ落ちた。
「勝った……。」
「本当に……。」
「勝ってくれた……。」
両目から涙が溢れる。
「これで……。」
「地下帝国へ行かなくて済む……。」
ユーマはリングの中央で。
ピコピコハンマーを肩に担ぎ。
ニヤリと笑った。
「へっ。」
「次は。」
「もっとデカく稼ぐぞ。」
その言葉に。
会場中の視線が。
新たな挑戦者――ユーマへと集まっていた。




