第141話 『もしもし。』
ゴールドラッシュまでは。
まだ十日ほどの距離があった。
しかし。
大きな問題がある。
金がない。
食料もない。
そして。
腹が減った。
ユーマは森の道端に倒れていた。
「腹減った・・・。」
リリムも隣でぐったりしている。
「私も・・・。」
レイは木にもたれかかり。
ロキは腕を組んだまま座り込んでいた。
セフィだけが呆れ顔で飛んでいる。
ユーマはレイを見る。
そして。
名案を思いついた顔をした。
「レイ。」
レイ。
「なんだ。」
ユーマ。
「お前の狼出せよ。」
レイ。
「なんでだよ。」
ユーマ。
「食うんだよ。」
沈黙。
レイ。
「腹壊すぞ。」
ユーマ。
「大丈夫だろ。」
レイ。
「大丈夫じゃねぇ。」
リリム。
「最低。」
ロキ。
「最低だな。」
セフィ。
「最低ですね。」
ユーマ。
「お前ら狼食ったことあんのかよ!」
レイはため息を吐いた。
「狼は無理だ。」
ユーマ。
「じゃあ何か出せよ。」
レイ。
「かき氷なら作ってやるぞ。」
魔法陣が光る。
シャリシャリシャリ。
氷が山のように積もる。
ユーマ。
「それ昨日も食ったじゃん。」
リリム。
「一昨日もね。」
ロキ。
「三日前もだ。」
セフィ。
「四日前もですね。」
ユーマ。
「腹一杯になんねぇんだよ!!」
レイ。
「知らん。」
その時だった。
ガラガラガラ。
馬車の音が近付いてくる。
一台の馬車がユーマ達の横で止まった。
中年の商人が顔を出す。
「大丈夫ですか!?」
ユーマ。
「大丈夫じゃない・・・。」
商人。
「何があったんです?」
ユーマ。
「騙された。」
商人。
「ああ。」
即座に納得した顔だった。
「ゴールドラッシュ圏内ではよくあることです。」
ユーマ。
「よくあってたまるか・・・。」
商人。
「どちらまで?」
ユーマ。
「ゴールドラッシュっつーところ・・・。」
商人は目を丸くした。
「おや。」
「私も今ちょうどゴールドラッシュへ戻るところです。」
全員の顔が上がる。
商人は馬車の荷台を指差した。
「荷物も今は空ですし。」
「よかったら乗りますか?」
ユーマ。
「マジで!?」
飛び起きる。
「マジで感謝する!!」
「乗せてもらおう!!」
リリム。
「助かった・・・。」
レイ。
「命拾いしたな。」
ロキ。
「かき氷地獄から解放された。」
レイ。
「文句言うなら食うな。」
こうして一行は馬車に乗せてもらうことになった。
馬車の中は意外と広かった。
揺れはあるが。
歩くより百倍マシだった。
ユーマは馬車の中を見回す。
すると。
壁に取り付けられた通信魔導具に気付いた。
「あ。」
商人。
「どうしました?」
ユーマ。
「おじさん。」
「ちょっと電話借りていい?」
商人。
「どうぞ。」
「ご自由に使ってください。」
ユーマ。
「よっしゃ!」
早速、番号を呼び出す。
数秒後。
繋がった。
『・・・もしもし?』
聞き慣れた声。
ユーマは笑った。
「アリス!!」
『ユーマ!?』
電話の向こうで声が跳ねる。
『よかった・・・!!』
『ずっと心配してたの!!』
『私達はグラディアに入れなかったし!!』
『怪我は!?』
『元気!?』
『病気になってない!?』
『ちゃんと寝てる!?』
ユーマ。
「大丈夫だって!!」
「元気元気!」
『本当に!?』
「本当に!」
アリスの声を聞くと。
なぜか少し安心した。
ユーマは笑う。
「無事グラディア出れたぞ!」
『本当!?』
「おう!」
「新しい仲間もできた!」
『仲間!?』
「今度紹介してやるよ!」
アリスは嬉しそうだった。
『よかった・・・。』
『本当によかった・・・。』
ユーマは少し照れ臭くなる。
「でさ。」
「次はゴールドラッシュって街に行くんだ。」
電話の向こうが静かになった。
『・・・ゴールドラッシュ。』
ユーマ。
「ん?」
『聞いたことある。』
『噂だけだけど。』
ユーマ。
「なんか知ってんのか?」
アリスは少し考えてから話し始めた。
『昔ね。』
『ミスト村に優しい男の人がいたの。』
『冒険家だった。』
『色んな街を旅して。』
『色んな話を聞かせてくれた。』
ユーマ達は黙って聞く。
『でも。』
『ゴールドラッシュに行ってから変わっちゃった。』
『お金。』
『お金。』
『お金。』
『それしか言わなくなった。』
『ギャンブルにもハマって。』
『村のみんなとも喧嘩して。』
『最後は村を出て行っちゃった。』
沈黙。
『今、何してるのかも分からない。』
少し寂しそうな声だった。
『だから・・・。』
『ユーマはそうならないでね?』
ユーマは鼻で笑う。
「当たり前だろ!」
『本当に?』
「本当に!」
胸を叩く。
「ギャンブルなんて俺には似合わねぇ!!」
全員が目を逸らした。
セフィ。
「不安です。」
ロキ。
「不安しかねぇ。」
レイ。
「一番危ない。」
リリム。
「絶対ハマる。」
ユーマ。
「なんでだよ!!」
そして。
ユーマはふと思い出した。
「あ。」
『どうしたの?』
ユーマ。
「そうだ!」
「今日ばーさんに騙されて金なくなったんだよ!」
アリス。
『え?』
ユーマ。
「アリス!!」
「貸してくれ!!」
ボッコーーーーーン!!
ユーマ。
「ぎゃああああああ!!」
巨大ゲンコツ。
犯人はもちろん。
リリムだった。
「馬鹿!!!」
ユーマ。
「いてぇぇぇ!!」
リリムは電話を奪う。
「アリス聞いて!!」
『リリム!?』
「この馬鹿本当に騙されたの!!」
「ジャンケンで!!」
『えっ!?』
「しかもお金全部取られて!!」
「荷物まで盗まれたの!!」
アリス。
『あははははは!!』
久しぶりに聞く。
心の底からの笑い声だった。
ユーマ。
「笑うな!!」
リリム。
「笑うでしょ!!」
アリス。
『ユーマ。』
『お金は貸さないよ?』
ユーマ。
「なんでだよ!!」
『もうギャンブル中毒になったんじゃない?』
ユーマ。
「違うわ!!」
リリム。
「私もそう思う。」
ロキ。
「俺も。」
レイ。
「同意見。」
セフィ。
「満場一致ですね。」
ユーマ。
「お前らぁぁぁぁぁ!!」
アリスはまた笑った。
そして優しく言う。
『気を付けてね。』
『みんなも。』
リリム。
「うん!」
ロキ。
「ああ。」
レイ。
「任せろ。」
セフィ。
「ありがとうございます。」
そして。
通信が切れる。
少しだけ静かになった。
ユーマ。
「信じてねぇな・・・。」
リリム。
「信用ゼロね。」
ロキ。
「残当。」
レイ。
「妥当。」
セフィ。
「当然です。」
ユーマ。
「お前らまで!?」
全員が笑った。
その時だった。
商人が前を指差す。
「見えてきましたよ。」
一行は顔を上げた。
そして。
全員言葉を失った。
巨大な城壁。
黄金に輝く塔。
夜なのに消えない光。
まるで街全体が宝石だった。
遠くからでも分かる。
桁違いの大きさ。
リリム。
「綺麗・・・。」
レイ。
「でかいな。」
ロキ。
「嫌な予感しかしねぇ。」
セフィ。
「着きましたよ。」
静かに言う。
「第4の街。」
ユーマは息を呑んだ。
目の前にある。
欲望の街。
そして。
城門の上には巨大な文字。
『人生を賭けろ』
『夢は叶う』
『楽園ゴールドラッシュ』
ユーマはその文字を見上げる。
綺麗なはずなのに。
なぜか。
どこか気味が悪かった。
第4の街。
ゴールドラッシュ。
欲望の街編が。
今、幕を開ける。




