138話 『守るための力』
闘技場の最上部。
羽毛のコートを揺らしながら。
男は退屈そうにため息をついた。
「これだから人間上がりのモンスターは。」
肩をすくめる。
「ダメなんですよ。」
宝石の付いた杖をクルクルと回す。
「なんで魔王様も。」
「こんな男を番人に選んだんでしょうか。」
その言葉に。
バンは血を吐きながら睨み付けた。
「楽の・・・番人・・・。」
楽の番人は笑う。
「久しぶりですねぇ。」
「怒の番人。」
その笑顔には。
一切の温度がなかった。
まるで虫を見るような目。
その時だった。
バンが叫ぶ。
「お前ら!!」
全員が振り返る。
「離れろ!!」
血を吐く。
「ゴホッ・・・!」
「こいつは無理だ・・・!」
レイ。
「何言ってんだ!」
ロキ。
「まだ戦える!」
バン。
「違う!!」
珍しく怒鳴った。
「次元が違う!!」
その言葉に。
場の空気が変わる。
ユーマが前へ出た。
そして楽の番人を睨む。
「てめぇ・・・。」
拳を握る。
「何しやがった!!」
楽の番人。
「ん?」
首を傾げる。
「人間のガキが何か?」
そして。
興味なさそうに指を向ける。
「とりあえず。」
「消しますか。」
ピュンッ――
金色の光。
速い。
誰も反応できない。
ユーマ。
「え?」
その瞬間。
ドォン!!
バンが飛び出した。
光線が肩を貫く。
「グォォォッ!!」
ユーマ。
「バン!!」
楽の番人。
「あれ?」
「まだ動けるんですか。」
再び指を向ける。
ピュンッ!!
二発目。
バンが前へ出る。
ドシュッ!!
腹を貫かれる。
膝をつく。
それでも倒れない。
三発目。
四発目。
五発目。
ピュンッ!!
ピュンッ!!
ピュンッ!!
光が降り注ぐ。
その全てを。
バンは受け止める。
ユーマ。
「やめろ!!」
レイ。
「もういい!!」
ロキ。
「死ぬぞ!!」
だが。
バンは退かない。
ボロボロになりながら。
立ち続ける。
そして笑った。
「守ると決めたんだ。」
血を吐く。
「傷つけさせん。」
その言葉に。
ユーマは息を呑んだ。
町医者だった男。
娘を守れなかった男。
何百年も後悔し続けた男。
そんな男が。
今。
ようやく守れていた。
楽の番人は大きくため息をつく。
「はぁ。」
「ゴリラめ。」
そして杖を空へ向けた。
巨大な魔法陣。
闘技場全体を覆うほどの大きさ。
誰もが凍り付く。
バンの顔色が変わる。
「まずい・・・。」
楽の番人は笑った。
「では。」
「終わりです。」
魔法陣が輝く。
黄金の光。
圧倒的な魔力。
ユーマ。
レイ。
ロキ。
誰も動けない。
バンだけが前へ出た。
最後の力を振り絞る。
そして。
振り返った。
ユーマ達を見る。
優しく笑う。
昔。
ソフィアへ向けていた笑顔だった。
「生きろ。」
次の瞬間。
ドォォォォォォォォォン!!!!
黄金の光が降り注ぐ。
世界が白く染まった。
そして。
静寂。
バンの胸には。
大きな穴が空いていた。
血が流れる。
もう立てない。
楽の番人は笑う。
「やっと。」
「穢らわしいゴリラが死んでくれましたか。」
ユーマの拳が震えた。
怒り。
殺意。
全身が震える。
「てっめぇぇぇぇぇ!!!!」
走り出そうとする。
だが。
楽の番人が手を上げた。
「待ちなさい。」
ユーマが止まる。
楽の番人は懐から何かを取り出した。
そして空へ放り投げる。
ヒラヒラと舞う。
金色のチケット。
何十枚も。
何百枚も。
空から降ってくる。
楽の番人は笑った。
「特別招待です。」
指を鳴らす。
「来るならここへ来なさい。」
ニヤリと笑う。
「楽園ゴールドラッシュへ。」
その名を聞き。
セフィが目を見開いた。
「第4の街・・・。」
楽の番人。
「お待ちしておりますよ。」
煙が立ち上る。
その姿が消えていく。
最後まで笑顔だった。
そして。
完全に消えた。
静寂。
ユーマ達は急いでバンへ駆け寄る。
レイ。
「バン!!」
ロキ。
「おい!!」
ユーマ。
「しっかりしろ!!」
バンは薄く笑った。
もう視界も見えていない。
「はは・・・。」
血を吐く。
「あっけなかったな・・・。」
涙が流れた。
「やっと・・・。」
「守れると思ったんだがな・・・。」
ユーマは唇を噛む。
レイは拳を握る。
ロキは俯く。
その時。
バンの胸が光った。
優しい光。
暖かな光。
ソフィアを治療していた時と同じ光。
その光を。
バンはゆっくり掴む。
まるで魂の欠片のようだった。
そして。
レイへ差し出す。
「受け取ってくれ。」
レイ。
「・・・?」
バン。
「俺の最後の力だ。」
レイは震える手で受け取る。
光が身体へ吸い込まれる。
レイの瞳が見開かれた。
頭の中へ流れ込む。
氷。
守護。
巨大な力。
そして。
バンの記憶。
レイ。
「これは・・・。」
「俺の召喚獣として契約するのか?」
バンは笑った。
「ああ。」
「好きに使え。」
優しい声。
「お前なら。」
「正しい使い方ができる。」
レイの目から涙が落ちる。
「・・・ああ。」
「約束する。」
バンは満足そうに頷いた。
身体が光になり始める。
足から。
少しずつ。
消えていく。
ユーマ。
「バン・・・。」
ロキ。
「おい・・・。」
レイ。
「まだ・・・。」
バンは空を見上げた。
青空だった。
そして。
微笑む。
昔の町医者の顔で。
父親の顔で。
「ソフィア・・・。」
涙が流れる。
「やっと・・・。」
小さく笑う。
「会えるな。」
光が弾けた。
優しい光。
暖かな光。
そして。
怒の番人バンは。
静かに消えていった。
誰も言葉を発しなかった。
ただ。
風だけが吹いていた。




