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レベル1の『〇〇』 〜あなたが選ぶ転生物語〜  作者: 矢部夏 泡太
氷戦の街 グラディア編

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第136話 『強さの意味』

静寂だった。


吹雪は止んでいた。


氷の世界となった闘技場。


誰も動かない。


怒の番人――バンは膝をついていた。


背中の傷に手を当てたまま。


遠い昔を見つめるように。


震える声で呟く。


「ソフィア・・・。」


「ソフィア・・・。」


「許してくれ・・・。」


拳が震える。


大きな身体。


圧倒的な力。


だが今は。


どこにでもいる父親だった。


「許してくれ・・・。」


「パパを・・・。」


「許してくれ・・・。」


誰も言葉を発せない。


レイも。


ロキも。


リリムも。


ルアも。


ただ見ていた。


その時だった。


ユーマがゆっくり歩き出す。


誰も止めない。


ユーマは番人の隣まで行く。


そして。


そっと肩に手を置いた。


番人は反応しない。


ユーマは静かに言う。


「なぁ。」


番人。


「・・・。」


ユーマ。


「今のお前を見て。」


少しだけ空を見る。


「ソフィアはどう思うんだろうな。」


番人の肩が揺れた。


だが。


答えない。


ユーマは背中を見る。


あの傷。


何度も死んで。


何度も観察して。


やっと見つけた傷。


ユーマは尋ねた。


「その傷。」


「わざと残してんのか?」


長い沈黙。


そして。


番人は小さく頷いた。


「そうだ。」


低い声。


「戒めだ。」


拳を握る。


「娘を守れなかった自分へのな。」


背中の傷を撫でる。


まるで。


自分を責めるように。


「俺は弱かった。」


「だから守れなかった。」


「強くなければ守れん。」


「強くなくてはならん。」


誰も何も言わない。


その言葉には。


長い年月が詰まっていた。


ユーマは静かに聞いていた。


そして。


少しだけ笑った。


「そうかよ。」


番人は顔を上げない。


ユーマは続けた。


「でもさ。」


「お前。」


「強くなったじゃねぇか。」


番人。


「・・・。」


ユーマ。


「誰よりも。」


「世界中の誰よりも。」


「強くなった。」


闘技場を見渡す。


凍った観客席。


凍った街。


絶望する人々。


そして。


目の前の男。


ユーマは言った。


「なのに。」


「なんでまだ泣いてんだよ。」


番人の瞳が揺れる。


ユーマ。


「強くなれば全部解決するんじゃなかったのか?」


沈黙。


番人は答えられない。


ユーマはさらに続ける。


「ソフィアは帰ってきたか?」


静寂。


「傷は消えたか?」


静寂。


「後悔はなくなったか?」


番人は何も言えない。


何一つ。


答えられない。


ユーマは街を指差した。


「見てみろよ。」


番人が顔を上げる。


そこには。


凍り付いた街。


凍り付いた人々。


氷闘祭に集まった戦士達。


全員。


強さを求めていた。


番人が作った世界。


ユーマは言う。


「みんな強さばっか求めてる。」


「強くなるために強くなってる。」


「誰かを守るためじゃねぇ。」


「誰かを助けるためでもねぇ。」


「ただ強さを求めてる。」


番人は黙っていた。


ユーマは一歩近付く。


「なぁ。」


「誰を守るためなんだよ。」


番人の瞳が揺れる。


ユーマ。


「お前。」


「昔は町医者だったんだろ。」


「困った奴を助けて。」


「病気の奴を治して。」


「じいちゃんも。」


「ばあちゃんも。」


「みんな助けてたんだろ。」


番人は目を閉じる。


思い出す。


優しかった頃の自分を。


ソフィアと笑っていた日々を。


ユーマ。


「俺さ。」


「ソフィアの気持ちなんか分かんねぇよ。」


正直に言う。


「会ったこともねぇし。」


「話したこともねぇ。」


少しだけ笑う。


「でもさ。」


「一つだけ分かる。」


番人が顔を上げる。


ユーマは真っ直ぐ見ていた。


逃げない。


恐れない。


ただ真っ直ぐ。


「今のお前見たら。」


静寂。


「ソフィア。」


「悲しむぜ。」


番人の身体が止まる。


心臓が大きく鳴った。


ドクン。


ソフィアの笑顔。


ドクン。


お医者さんになると言った日。


ドクン。


ありがとうと言った最後の言葉。


全部。


蘇る。


ユーマは続ける。


「ソフィアが憧れてたのは。」


「怒の番人じゃねぇ。」


「町医者のバンだろ。」


番人の瞳から涙が落ちた。


ポタリ。


一滴。


また一滴。


言葉が出ない。


何も言えない。


今まで何百年も。


何千人もの戦士と戦ってきた。


誰一人。


自分にそんなことを言った奴はいなかった。


ユーマは肩から手を離す。


そして笑った。


「帰ってこいよ。」


静かな声だった。


「ソフィアが好きだった。」


「バン先生によ。」


番人は俯いた。


拳が震える。


涙が止まらない。


そして。


初めて。


怒の番人ではなく。


バンとして。


小さく呟いた。


「・・・もう。」


声が震える。


「遅いんだ。」


空を見上げる。


涙が流れる。


「俺は。」


「取り返しのつかないことをし過ぎた。」


ユーマは答えない。

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