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レベル1の『〇〇』 〜あなたが選ぶ転生物語〜  作者: 矢部夏 泡太
氷戦の街 グラディア編

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第135話 『怒の番人の誕生』

いつもと同じ日だった。


ソフィアと二人で山菜を採りに出掛けていた。


小さな籠。


小さな手。


楽しそうに笑う娘。


バンにとって何より大切な時間だった。


だが。


帰り道。


異変に気付く。


遠く。


町の方角。


黒い煙が上がっていた。


バンの表情が変わる。


「・・・火事?」


煙は増えていく。


嫌な予感がした。


本能が警鐘を鳴らす。


バンはソフィアの手を握った。


「急ぐよ。」


ソフィアも頷く。


そして。


二人は走った。


町へ。


全力で。


走った。


だが。


辿り着いた時。


そこにあったのは。


地獄だった。


町は燃えていた。


家々は炎に包まれている。


悲鳴。


怒号。


血。


死体。


辺り一面が地獄絵図だった。


ソフィアが震える。


「パパ・・・。」


バンは娘を抱き寄せた。


「ソフィア。」


真剣な顔。


「絶対に離れてはいけないよ。」


ソフィアは小さく頷く。


だが。


その声も震えていた。


「う、うん・・・。」


町の中央。


山賊達が暴れていた。


笑いながら。


住民を殴り。


金品を奪い。


逆らう者を殺している。


バンの拳が震えた。


「貴様ら・・・。」


山賊の一人が笑う。


「あ?」


次の瞬間。


ドゴォォォォォォン!!


山賊が吹き飛ぶ。


壁を突き破り。


動かなくなる。


別の山賊が襲い掛かる。


バンは避けない。


拳。


蹴り。


体格差。


圧倒的だった。


何人もの山賊を倒していく。


だが。


その時だった。


「バン先生・・・。」


弱々しい声。


振り返る。


そこには。


老婆が倒れていた。


腹部から大量出血。


瀕死だった。


バンは駆け寄る。


「しっかりしてください!」


回復魔法。


光が溢れる。


傷を塞ぐ。


だが。


間に合わない。


血が流れ過ぎていた。


老婆は微笑む。


「ありがとうねぇ・・・。」


そのまま。


静かに息を引き取った。


バンは唇を噛む。


拳を握る。


「くそっ・・・。」


「なぜ・・・。」


「なぜこんなことに・・・。」


その時だった。


悲鳴。


「キャァァァァ!!」


バンが振り返る。


そこには。


ソフィアを抱えた山賊がいた。


バンの顔色が変わる。


「ソフィア!!」


山賊は笑った。


ニヤニヤと。


気持ち悪く。


ソフィアの首へナイフを当てる。


「動くな。」


「動いたら娘を殺す。」


ソフィアは震えていた。


怖い。


苦しい。


涙が止まらない。


山賊は笑う。


「ひゃっひゃっひゃ!」


「力ずくで奪ってみろよ!」


その時だった。


ソフィアが咳き込む。


「ゴホッ・・・!」


「ゴホッゴホッ!!」


煙。


火災の煙を大量に吸っていた。


呼吸が苦しい。


顔色が青くなっていく。


バンはすぐに理解した。


まずい。


発作だ。


今すぐ回復魔法が必要だ。


「やめてくれ!!」


必死だった。


「今すぐ処置しないと死んでしまう!!」


「頼む!!」


「頼むから!!」


山賊は笑った。


「じゃあよ。」


「持ってるもん全部置いていけ。」


バンは迷わない。


財布。


薬袋。


家の鍵。


お金。


全て。


地面へ置いた。


「これでいいだろ・・・。」


「頼む・・・。」


「早くソフィアを・・・。」


山賊は金を拾う。


そして。


ソフィアを突き飛ばした。


「ほらよ。」


ソフィアの身体が投げ出される。


バンは全力で駆ける。


受け止める。


抱きしめる。


まだ生きている。


だが危険だ。


かなり煙を吸っている。


今すぐ治療しなければ。


回復魔法を発動しようとした。


その瞬間。


ザシュッ!!


激痛。


背中。


剣だった。


山賊が笑っている。


「誰が見逃すって言った?」


ザシュッ!!


二撃目。


ザシュッ!!


三撃目。


ザシュッ!!


何度も。


何度も。


背中を切り裂く。


バンは倒れた。


「ぐっ・・・!」


血が流れる。


視界が揺れる。


山賊は大笑いする。


「ひゃーっひゃっひゃ!!」


「案外あっけねぇなぁ!!」


「じゃあ金はいただいていくぜ!!」


山賊達は去っていく。


バンは動けない。


だが。


それでも。


ソフィアを見る。


震える手を伸ばす。


回復魔法。


出ない。


魔力がまとまらない。


意識が遠のく。


ソフィアが苦しそうに呼ぶ。


「パパ・・・。」


バン。


「今・・・。」


声が震える。


「今治してやる・・・。」


「待ってくれ・・・。」


「待ってくれ・・・。」


魔法が出ない。


焦る。


焦る。


焦る。


ソフィアの呼吸が荒くなる。


「パパ・・・。」


涙が溢れる。


「息が・・・。」


「できないよ・・・。」


バン。


「ソフィア!!」


「頑張れ!!」


「頼む!!」


「誰か!!」


「誰か助けてくれ!!」


町医者だった。


今まで何人も助けた。


何人も救った。


なのに。


今。


一番助けたい相手を。


助けられない。


ソフィアは小さく笑った。


苦しそうに。


それでも。


優しく。


「パパ・・・。」


「ありがとう・・・。」


そして。


「パ・・・。」


そこで言葉は途切れた。


静寂。


風だけが吹く。


ソフィアは。


二度と動かなかった。


バンは固まった。


理解できない。


理解したくない。


だが。


現実だった。


「ソフィア・・・?」


返事はない。


「ソフィア・・・。」


返事はない。


「ソフィア・・・。」


何も。


返ってこない。


そして。


叫んだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


絶叫。


涙。


怒り。


悲しみ。


後悔。


全てが溢れ出す。


自分が弱かった。


自分がもっと強ければ。


山賊など倒せた。


ソフィアを守れた。


回復魔法を使えた。


全部。


全部。


自分が弱かったせいだ。


バンは娘を抱きしめた。


そのまま動かなかった。


一日。


二日。


三日。


雨が降る。


風が吹く。


夜が来る。


朝が来る。


それでも。


動かなかった。


ソフィアを抱きしめたまま。


生きている意味も。


分からなかった。


そして三日目の夜。


空から声が聞こえた。


『強さが欲しいか。』


バンは反応しない。


『強さが欲しいか。』


沈黙。


『強さが欲しいか。人間よ。』


長い沈黙。


そして。


バンは呟いた。


「欲しい・・・。」


涙が流れる。


「強くなりたい・・・。」


「強くならないと・・・。」


「守れない・・・。」


拳を握る。


「強さを・・・。」


「力をくれ・・・。」


空が歪む。


声が笑った。


『面白い。』


魔王だった。


『その怒り。』


『その恨み。』


『その後悔。』


『全て強さへ変えろ。』


闇がバンを包む。


『強さを追い求めろ。』


『支配しろ。』


『そして証明しろ。』


『強さこそ全てだと。』


バンの瞳から光が消えた。


優しい町医者は死んだ。


残ったのは。


怒りだけ。


後悔だけ。


強さへの執着だけ。


こうして。


後に怒の番人と呼ばれる男が誕生した。

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