第132話 『真実』
「ここからが本番だ。」
怒の番人。
雪男へと変貌したその姿を前に。
レイとロキは言葉を失っていた。
次の瞬間。
番人が地面を踏み込む。
ドォォォォォォン!!
闘技場全体が揺れた。
レイ。
「っ!?」
見えない。
消えた。
そう思った時には。
番人は目の前にいた。
ドゴォォォォォォン!!
拳。
レイの腹へ直撃。
レイの身体が弾丸のように吹き飛ぶ。
壁へ激突。
さらに壁を突き破る。
瓦礫が舞った。
ロキ。
「レイ!!」
番人は止まらない。
次の瞬間にはロキの目の前。
ケラノウスを構える。
だが。
遅い。
ドゴォォォォォォン!!
拳。
ロキの身体が地面へ叩き込まれる。
地面が陥没した。
観客席。
ユーマが青ざめる。
「嘘だろ・・・。」
リリム。
「速すぎる・・・。」
ルアですら顔色が悪い。
「別格ね・・・。」
レイが瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
血だらけ。
それでも笑った。
「まだだ。」
剣を構える。
魔法陣展開。
「フロストドラゴン!!」
巨大な氷龍。
先程番人へ傷を付けた切り札。
龍が咆哮する。
一直線。
番人へ。
番人は避けない。
腕を伸ばした。
そして。
掴んだ。
レイ。
「なっ・・・。」
氷龍の首を。
片手で。
番人。
「弱い。」
ミシミシミシ・・・
氷龍が砕ける。
レイ。
「嘘だろ・・・。」
バキィィィィン!!
フロストドラゴン消滅。
観客席が静まり返った。
ロキが歯を食いしばる。
「だったら!」
雷が弾ける。
ケラノウスが唸る。
「雷神撃!!」
最大出力。
巨大な雷が番人を飲み込む。
轟音。
閃光。
地面が抉れる。
誰もが息を呑む。
だが。
煙が晴れる。
そこには。
立っている番人。
無傷。
番人。
「痒いな。」
ロキ。
「は・・・?」
絶望だった。
二人の最大火力。
それが。
通じない。
番人は歩く。
ゆっくり。
まるで子供と遊ぶ大人のように。
レイ。
「くそ・・・!」
ロキ。
「化け物・・・!」
二人同時に飛び出す。
剣。
斧。
連撃。
全力。
だが。
当たらない。
防がれる。
受け流される。
そして。
返ってくる拳。
ドゴォォォォォォン!!
レイ吹き飛ぶ。
ドゴォォォォォォン!!
ロキ吹き飛ぶ。
立つ。
また吹き飛ぶ。
立つ。
また吹き飛ぶ。
何度も。
何度も。
何度も。
だが差は埋まらない。
ついに。
二人は膝をついた。
血だらけ。
満身創痍。
番人が見下ろす。
「もう諦めろ。」
静かな声だった。
「貴様らでは勝てん。」
レイは剣を支えに立とうとする。
だが立てない。
ロキも同じだった。
番人。
「死ぬ方が楽だぞ。」
ロキが顔を上げる。
そして叫んだ。
「諦められるか!!」
吹雪の中。
声が響く。
「母さんのためにもな!!」
番人の表情が変わった。
「・・・母さん?」
ロキ。
「覚えてねぇのかよ。」
血を吐く。
それでも睨む。
「あの時の。」
「俺と同じ目をした母さんを。」
静寂。
吹雪が止まったように感じた。
番人の瞳が揺れる。
そして。
遠い記憶が蘇る。
燃える街。
悲鳴。
魔王軍。
怒の番人。
若き日の自分。
住民達は逃げ惑う。
誰も逆らえない。
強者が支配する世界。
それが当たり前だった。
そんな中。
一人の女がいた。
幼い子供を抱いている。
必死に。
命懸けで。
子供を守ろうとしている。
その姿に。
番人は足を止めた。
過去の過ちを思い出した。
番人は女へ言った。
「行け。」
女は驚く。
番人。
「早く行け。」
女は子供を抱えて走ろうとした。
その瞬間。
ズバァァァァッ!!
血が舞った。
女の胸を。
魔王軍の魔物の爪が貫いた。
幼いロキ。
「母さん!!」
女が倒れる。
番人の目が見開かれる。
次の瞬間。
ドゴォォォォォォン!!
番人の拳。
魔物の頭が吹き飛んだ。
周囲の魔物達が固まる。
番人は怒っていた。
「貴様・・・。」
そして。
幼いロキを見る。
泣いている。
震えている。
母の亡骸にしがみついている。
番人は静かに言った。
「引き上げるぞ。」
魔物達。
「ですが・・・。」
番人。
「全員死んだ。」
低い声。
「引き上げろ。」
誰も逆らわない。
そして。
番人は最後に。
幼いロキを見た。
何も言わず。
その場を去った。
回想が終わる。
現在。
吹雪の中。
番人はロキを見つめる。
そして。
静かに呟いた。
「あの時の子供か。」
ロキの瞳が揺れた。




