第105話 『忘れられたことはない』
怒の番人が去った後。
闘技場の熱気はまだ冷めていなかった。
だが。
ロキだけは違った。
拳を握り締めたまま。
ただ一点。
怒の番人がいた場所を見つめている。
ユーマが声を掛けた。
「ロキ。」
ロキはしばらく黙っていた。
そして。
小さく呟く。
「あいつだったんだ。」
ユーマもリリムも黙る。
「母さんを殺した奴。」
低い声だった。
怒りを押し殺したような声。
「あの日のことは今でも覚えてる。」
「顔。」
「腕の傷。」
「あとあの図体。」
拳が震える。
「絶対に忘れない。」
リリムが静かに聞く。
「本当にあいつなのね。」
ロキは頷いた。
「ああ。」
「間違いない。」
「俺はあの日から一日も忘れたことがない。」
沈黙。
ユーマは何も言わない。
ただ聞いていた。
ロキは顔を上げる。
そして。
ユーマを見る。
「ユーマ。」
「ん?」
「悪い。」
「今回は俺が優勝させてもらう。」
ユーマは笑う。
「言うじゃねぇか。」
ロキ。
「本気だ。」
ユーマ。
「知ってる。」
ニヤリと笑う。
「でも負けねぇぞ。」
ロキも少しだけ笑った。
「知ってる。」
その時だった。
実況の声が響く。
『皆様お待たせしました!!』
『ここから氷闘祭予選のルール説明を行います!!』
観客席が沸く。
『予選期間は三日間!!』
『参加者には氷の腕輪が配布されます!!』
兵士達が腕輪を配る。
『五勝した者のみ本戦トーナメント出場!!』
歓声。
『対戦相手は自由!!』
『場所も自由!!』
『酒場!!』
『市場!!』
『路地裏!!』
『この街全てが戦場です!!』
観客席が揺れる。
『それでは!!』
『氷闘祭予選!!』
『開幕ぃぃぃぃぃぃ!!』
その瞬間。
あちこちで戦いが始まる。
ユーマは笑った。
「面白ぇ。」
レイは苦笑する。
「これがグラディアだ。」
そして全員が腕輪を装着した。
青白い光が輝く。
氷闘祭予選開始。
だが。
誰もまだ動かなかった。
まずは様子を見る。
そんな空気だった。
しかし。
向こうから勝手にやって来た。
「おぉ。」
大柄な男。
その後ろに仲間が三人。
全員腕輪をしている。
参加者だった。
男はニヤニヤ笑う。
「誰かと思えば。」
「レイじゃねぇか。」
周囲も反応する。
「準優勝野郎だ。」
「一勝もらえるぞ。」
「四人がかりならいけるだろ。」
ユーマは眉をひそめた。
「レイって有名なんだな。」
ルアが笑う。
「良くも悪くもね。」
男達は武器を抜いた。
「悪く思うなよ。」
「一勝目もらうぜ。」
レイはため息を吐く。
「仕方ない。」
そして。
前へ出る。
ユーマ達は自然と後ろへ下がった。
「レイの戦い初めて見るな。」
ユーマが呟く。
「見ときなさい。」
ルアが笑う。
男達が突っ込む。
四方向から同時攻撃。
だが。
レイは剣を抜いた。
そして。
地面へ突き刺す。
ドン。
巨大な氷の魔法陣。
ユーマ。
「ん?」
リリム。
「え?」
ロキ。
「・・・。」
レイは静かに言った。
「来い。」
「フロストウルフ。」
ガァァァァァァ!!
巨大な氷狼が現れた。
周囲がざわつく。
「出た!」
「召喚獣だ!」
「レイの本領!」
ユーマは目を見開く。
「召喚士ぃ!?」
リリムも驚く。
「剣士じゃなかったの!?」
ルアは楽しそうだった。
「剣は近距離用。」
「本業は召喚士よ。」
だがまだ終わらない。
レイは続ける。
「フロストホーク。」
空に氷の鷹。
「フロストベア。」
大地を揺らす氷熊。
三体の召喚獣。
男達の顔色が変わる。
「おい。」
「聞いてねぇぞ・・・。」
レイは冷静だった。
「終わりだ。」
フロストホークが上空から急降下。
男達の視界を奪う。
フロストベアが突進。
吹き飛ばす。
最後に。
フロストウルフが飛び掛かる。
一瞬。
戦いは終わった。
男達は全員地面に転がっていた。
実況魔導具が反応する。
『勝者!!』
『レイ!!』
『一勝獲得!!』
レイの腕輪が光る。
【3勝】
周囲から歓声が上がる。
ユーマは笑った。
「強ぇな。」
ロキも頷く。
「想像以上だ。」
リリム。
「召喚獣使いだったのね。」
ルアはニヤリと笑う。
「まだまだよ。」
その時だった。
別方向から声が響く。
「いたぞ!!」
「ゴエムを倒した連中だ!!」
十人近い参加者達がこちらへ走ってくる。
ユーマは首を鳴らした。
「おっ。」
カゼマサに手を掛ける。
「次は俺かな。」




