第104話 『氷闘祭開幕』
氷戦都市グラディア。
その中心にある巨大闘技場。
観客席は満員だった。
戦士。
商人。
子供。
老人。
この街に住む全ての者が、今日という日を待っていた。
氷闘祭。
一年に一度。
グラディア最強を決める祭り。
そして。
怒の番人へ挑戦する者を決める戦い。
ユーマ達も観客席にいた。
ユーマ。
リリム。
ロキ。
レイ。
ルア。
全員が闘技場を見下ろしている。
「すげぇ熱気だな。」
ユーマが呟く。
レイは頷いた。
「これが氷闘祭だ。」
その時だった。
ドォン。
地面が揺れた。
闘技場の中央。
巨大な男が現れた。
大男。
傷だらけの肉体。
圧倒的な存在感。
怒の番人。
その姿を見た瞬間、会場の熱気が爆発した。
「うおおおおおおおおお!!」
「番人様ぁぁぁ!!」
「今年こそ俺が行くぞぉぉぉ!!」
怒号にも似た歓声。
怒の番人はそれを見回し。
ニヤリと笑った。
「闘志を燃やした戦士ども!!」
声だけで空気が震える。
「今年も氷闘祭がやってきた!!」
「優勝者には!!」
「俺と戦う権利をくれてやる!!」
観客がさらに沸く。
怒の番人は両腕を広げた。
「今年は誰が俺を楽しませてくれる!?」
「さぁ!!」
「戦えぇぇぇぇぇ!!!」
闘技場が揺れるほどの大歓声。
「おおおおおおおおおお!!!」
その中で。
一人だけ。
動けない者がいた。
ロキだった。
手が震えている。
呼吸が乱れている。
目は怒の番人だけを見ていた。
ユーマが気付く。
「ロキ?」
リリムも見る。
「どうした?」
ロキは小さく呟いた。
「あいつだ。」
ユーマの表情が変わる。
「え?」
ロキの声が震える。
「あの大男だ。」
「母さんを。」
「母さんを殺した大男だ。」
次の瞬間。
バチッ。
雷が走った。
「ロキ!」
ユーマが止めるより早く。
ロキは観客席を蹴った。
ケラノウスを握る。
雷が全身を包む。
「うおおおおおおおお!!」
観客席から闘技場へ。
雷の軌跡を残しながら飛び込む。
会場が騒然となる。
「なんだ!?」
「誰だあいつ!」
「番人様に向かってるぞ!」
ロキは止まらない。
ケラノウスが雷を纏う。
小型斧が一瞬で巨大な戦斧へ変わる。
怒り。
憎しみ。
後悔。
全てを込めて振り下ろした。
ドゴォォォォォン!!
轟音。
雷が爆ぜる。
だが。
怒の番人は動いていなかった。
片手。
ただ片手で。
ロキの一撃を受け止めていた。
「……っ!」
ロキの目が見開かれる。
全力だった。
それなのに。
止められた。
軽々と。
怒の番人はロキを見下ろす。
そして。
ニヤリと笑った。
「おぉぅ。」
「急いじゃいけねぇ。」
ロキはさらに力を込める。
だが動かない。
番人の腕は岩のようだった。
「まずは予選だ。」
「お前の相手は俺じゃねぇ。」
怒の番人はロキの腕を掴む。
そして。
軽く投げた。
本当に軽くだった。
だが。
ロキの身体は砲弾のように吹き飛んだ。
ドゴォォォン!!
観客席へ叩き込まれる。
ユーマとレイが飛び出し、ロキを受け止めた。
「ロキ!」
ロキはすぐに立ち上がろうとする。
「離せ!」
「まだだ!」
「まだ終わってねぇ!」
レイが叫ぶ。
「やめろ!!」
ロキの動きが止まる。
レイはロキの肩を掴んだ。
「今は勝てない!!」
その言葉に。
ロキは歯を食いしばる。
怒の番人は闘技場の中央からロキを見ていた。
数秒。
何かを思い出すように。
そして。
小さく笑う。
「今年は……」
「楽しませてくれそうじゃねぇか。」
ロキは睨み返す。
怒の番人は背を向けた。
「では!」
「決勝で会おう!!」
そう言い残し。
闘技場を後にする。
会場はまだ騒然としていた。
「あいつ誰だ!?」
「番人に斬りかかったぞ!」
「生きてるのか!?」
「今年は荒れるぞ!」
ユーマはロキを見る。
ロキは震えていた。
怒りで。
悔しさで。
そして。
圧倒的な差を知ったことで。
その時。
闘技場に声が響く。
「それでは!!」
「氷闘祭予選!!」
「開幕だぁぁぁぁぁ!!」
歓声が爆発する。
ユーマは拳を握る。
リリムは静かに目を細める。
レイは複雑な表情で闘技場を見つめる。
そしてロキは。
ただ一点。
怒の番人が去っていった場所だけを見ていた。




