第103話 『炎姫ルア』
ルアに連れられ。
ユーマ達は街の中心部にある酒場へやって来ていた。
グラディア最大級の酒場。
戦士達の溜まり場でもある。
中へ入ると。
一瞬だけ視線が集まった。
「あいつらだ。」
「ゴエムを倒した。」
「新入りか。」
ヒソヒソ。
ヒソヒソ。
だが。
すぐに元の空気へ戻る。
強者は珍しくない。
グラディアではそういうことらしい。
ユーマ達は奥の席へ座った。
ルアは豪快に椅子へ腰掛ける。
長い黒髪が流れるように揺れた。
その姿は美しい。
だが。
本人は全く気にしていない。
どちらかというと戦士だった。
ユーマはルアを見る。
「そういや。」
「お前強いの?」
ルア。
「殴るわよ。」
即答だった。
リリムが吹き出す。
ロキは顔を逸らした。
レイは頭を抱える。
「話が早いな。」
ユーマも苦笑する。
レイがため息を吐いた。
「姉さんは氷闘祭ベスト4常連だ。」
ユーマ。
「強ぇじゃん。」
ルア。
「まぁね。」
あっさりだった。
自信がある。
それも当然のように。
そんな感じだった。
ユーマはさらに聞く。
「じゃあなんで優勝しねぇんだ?」
その瞬間。
ルアが少しだけ黙る。
そして。
肩をすくめた。
「優勝?」
「したくないわよ。」
ユーマ。
「は?」
ルア。
「優勝したら死ぬじゃない。」
あまりにも当然のように言った。
「怒の番人と戦う。」
「負ける。」
「死ぬ。」
「だからよ。」
ユーマは腕を組む。
「でもみんな優勝目指してんだろ?」
ルアは笑った。
少しだけ。
寂しそうに。
「半分は嘘ね。」
「ん?」
「本当に優勝したい奴もいる。」
「でも。」
グラスを回しながら続ける。
「ほとんどは違う。」
「強くなりたいだけ。」
「認められたいだけ。」
「生きたいだけ。」
「だから戦う。」
それがグラディア。
強さの街。
生きるための街。
そして。
壊れた街。
ルアは窓の外を見る。
闘技場が見えた。
その向こうには。
怒の番人の巨大な像。
「でもね。」
ルアが呟く。
「一人だけいるのよ。」
「本気で番人を倒したい馬鹿が。」
ユーマはすぐに答えた。
「レイか?」
ルアは笑う。
レイを見る。
「そう。」
レイは嫌そうな顔をした。
だが。
否定しなかった。
ルアは続ける。
「だから心配なのよ。」
「姉としてね。」
ユーマは少し意外そうだった。
ルアは強い。
豪快だ。
自由だ。
だが。
ちゃんと姉だった。
レイは顔を背ける。
「余計なお世話だ。」
ルア。
「そういうところよ。」
レイ。
「うるさい。」
ルア。
「可愛くない。」
レイ。
「誰のせいだ。」
ユーマが笑う。
リリムも笑う。
ロキも少しだけ口元を緩めた。
その後。
レイが席を立った。
「飲み物取ってくる。」
そう言って離れていく。
ロキも付いていった。
気を利かせたのか。
偶然なのか。
テーブルには。
ユーマ。
リリム。
ルア。
三人だけが残った。
ルアはユーマを見る。
じっと。
少しだけ。
真面目な顔だった。
「ねぇ。」
ユーマ。
「ん?」
ルア。
「レイに似てるって言われたでしょ。」
ユーマは目を丸くする。
「なんで知ってんだ?」
ルアは笑った。
「顔見れば分かるわよ。」
そして。
少しだけ遠くを見る。
昔を思い出すように。
「あの子。」
「昔はもっと笑ってたのよ。」
ユーマは黙る。
ルアは続けた。
「親友を失ってから変わった。」
「この街に復讐するためだけに生きてる。」
静かな声だった。
リリムも黙って聞いている。
ルアは笑う。
寂しそうに。
「馬鹿よね。」
「私の弟。」
ユーマは少し考える。
そして。
いつものように言った。
「じゃあ。」
ルア。
「ん?」
ユーマ。
「俺が笑わせるよ。」
即答だった。
ルアが固まる。
リリムも固まる。
数秒。
沈黙。
そして。
ルアは吹き出した。
「ははっ。」
「本当に馬鹿ね。」
ユーマ。
「なんでだよ。」
ルア。
「そういうところ。」
意味深に笑う。
そして。
立ち上がった。
「ところで。」
ユーマ。
「ん?」
ルア。
「氷闘祭。」
「私も出るから。」
その瞳が鋭くなる。
炎のように。
「当たったら容赦しないわよ。」
ユーマも笑う。
「負けねぇよ。」
即答。
ルアは満足そうだった。
「そういう男は好き。」
ピクッ。
リリムの眉が動く。
ルアは気付いている。
わざとだった。
完全に。
そして。
ニヤリと笑った。
リリムも笑う。
負けていない。
だが。
目は笑っていなかった。
静かに。
確実に。
火花が散った。




