第101話 『ゴエム』
「じゃあ。」
ユーマはカゼマサを肩に乗せた。
「遠慮しなくていいんだな。」
ゴエムの眉がピクリと動く。
その周囲では舎弟達が大笑いしていた。
「ギャハハハハ!」
「聞いたかお前ら!」
「こいつゴエムさんを舐めてるぜ!」
「痛い目にあうぞぉ!」
「ひゃーっひゃひゃ!」
ゴエムは両手を広げる。
まるで舞台役者のように。
「俺はなぁ!」
ドンッ!
胸を叩く。
「この辺じゃ有名な!」
ドンッ!
「新人狩りの!」
ドンッ!
「ゴエム様だぁ!!」
舎弟達。
「うおおおおお!!」
「ゴエムさん最強!!」
「やっちまえ!!」
ユーマ。
「へぇ。」
興味なさそうだった。
それが余計に腹が立つ。
ゴエムの顔が引きつる。
「お前・・・。」
「怖くねぇのか?」
ユーマ。
「いや?」
即答だった。
周囲が静まる。
ゴエム。
「は?」
ユーマ。
「全然。」
リリムが吹き出した。
ロキはため息を吐く。
レイは頭を押さえた。
この男。
本当に余計なことしか言わない。
「ぶっ殺す!!」
ゴエムが剣を抜いた。
大剣だった。
力任せの一撃。
そのままユーマへ突っ込む。
「死ねぇぇぇぇ!!」
ドォォォン!!
地面が砕ける。
凄まじい威力。
だが。
当たらなければ意味が無い。
ユーマは一歩だけ動いた。
本当に一歩だった。
風が吹く。
「風神流・風走り。」
シュッ。
一瞬。
姿が消えたように見えた。
ゴエムの横を通り過ぎる。
ただそれだけ。
剣を振ったようにも見えない。
沈黙。
ゴエムが振り返る。
「あ?」
何も起きていない。
そう思った。
次の瞬間だった。
ビリッ。
服が裂ける音。
肩。
胸。
腰。
背中。
ゴエムの服が真っ二つになった。
「なっ!?」
さらに。
ベルトが切れる。
武器ホルダーも切れる。
防具も切れる。
ガシャガシャガシャ!!
装備品が全部地面へ落ちた。
ゴエムは立ち尽くす。
ほぼ下着姿だった。
沈黙。
周囲も沈黙。
ユーマが振り返る。
そして。
首を傾げた。
「弱いじゃん。」
ゴエム。
「・・・。」
ユーマ。
「ゴエム君?」
沈黙。
さらに沈黙。
そして。
舎弟達。
「え?」
「え?」
「えええええええええ!?」
大パニックだった。
「ゴエムさん!?」
「一撃!?」
「嘘だろ!?」
ゴエム自身が一番理解していなかった。
今。
何をされた?
どこから斬られた?
見えなかった。
何も。
全く。
見えなかった。
ユーマは刀を納める。
カチッ。
「続ける?」
笑顔だった。
ゴエムは震える。
本能が叫んでいた。
勝てない。
こいつはヤバい。
絶対にダメなやつだ。
「ひっ・・・。」
一歩下がる。
「ひぃぃぃぃぃ!!」
そして。
全力で走り出した。
「お、覚えてろぉぉぉぉぉ!!」
逃げた。
全力で。
誰よりも速く。
舎弟達も慌てて追いかける。
「ゴエムさん待ってぇぇぇ!!」
「置いてかないでぇぇ!!」
「服くらい着てくださいぃぃ!!」
あっという間に消えていった。
沈黙。
ユーマ。
「なんだったんだあいつ。」
リリム。
「新人狩りらしいわよ。」
ロキ。
「狩られてたな。」
レイは呆然としていた。
周囲の住民達も同じだった。
誰も喋らない。
ただ。
ユーマを見ている。
さっきの一撃。
見えた者がほとんどいない。
「お前・・・。」
レイがようやく口を開く。
「今何した?」
ユーマ。
「斬った。」
「それは見れば分かる。」
即ツッコミだった。
ユーマは笑う。
「風神流・風走り。」
「ガルドのおっさんと作った。」
「オリジナルだ。」
少しだけドヤ顔。
レイ。
「名前のセンスは微妙だな。」
ユーマ。
「お前もか!?」
リリム。
「私もそう思う。」
ロキ。
「俺もだ。」
ユーマ。
「なんでだよ!!」
その時だった。
ざわ・・・。
周囲が騒がしくなる。
住民達がこちらを見ている。
「あいつだ。」
「ゴエムを倒した。」
「一撃だったぞ。」
「見たか?」
「見た。」
「見えなかった。」
「氷壁を越えた連中らしい。」
噂は。
既に広がり始めていた。
そして。
遠く。
闘技場の上。
一人の女性がその光景を見下ろしていた。
長い黒髪。
燃えるような瞳。
そして。
妖艶な笑み。
「へぇ。」
女は笑う。
「面白いじゃない。」
その視線は。
まっすぐユーマへ向いていた。




