69 王子殿下とゴーレム
私の腕に抱き着いて決して離れない、必死な形相のロザリアがアレクに伝える。
「セシル様のファンが増えたのです!」
「あー、なるほどね」
アレクはとても自然に私の肩に手を置きました。
それから、私に群がるクラスメイトを見回す。
「皆、ちょっとごめん。セシルを借りるね。これからは、彼女に話しかけてあげてほしい。意外と、寂しがり屋なんだ」
寂しがり屋だなんて、本当のことを言わないで欲しいです!
アレクは私の手首を掴み、騒ぐ生徒の輪から連れ出しました。
「セシは、人たらしだからなぁ」
アレクはぼそりと呟き、付いてきたロザリアも弾く形で、サクッと防音・防護膜を魔法で張る。
本当に優秀な王子ですよ、アレクも。
中に入れてもらえなかったロザリアが憤怒の表情で、アレクを見ています。
何だったら、破壊しそうな勢いで叩いています。
アレクは気にせず、私に立派な肘ほどの長さの筒を渡してきました。
「父上から、土地の下賜契約書を預かってきた。サインをしたら兄上に渡してほしいそうだよ」
「アレク、ありがとうございます!」
私は中身、取水権の部分を丁寧に確かめた。
水を引く費用は全て、人件費も含め、私負担であることが太字で明記されている。
陛下め、王族の隠れ家に使おうとしているのであれば、ちょっとくらい出すと言ってくれても悶々。
しかし。
開発しつくした土地を、召し上げられることだけは避けたい私は、大人しくサインをした。
土魔法クラブの皆様の身辺調査も開始しているらしい。
あとは、この契約書を昼にレオに預ければ、手続きは一段落。
陛下がサインをすれば、あの土地は名実ともに私のもの。
踊り出したい気分。ふふふ、じわじわ来ますね。
アレクは魔法を解除する前に、興味津々といったように聞いてきた。
「あの精霊に、気に入られたんだって?」
「気に入られたかは知りませんが、土地を使ってよいと」
アレク曰く、あの土地は本当に持て余していたらしい。
気難しい上にやたら強い精霊で、しかも他国から来たものだから、扱いがわからなかったそうで。
だから私に下賜したと聞いたとき、意味がわからなかったと言いました。
レオが来てくれた理由も、精霊が強かったからだろう。
その精霊が怯えていたレオの強さって……私は考えるのを止めました。
大事なことは、精霊が私に『土地を好きにしていいよ』と言った時点で、もう私のものということ!
でも、ちょっと不安もある。
本当に欲しいものを手に入れて、疑心暗鬼になる私。
「父上は、なんだかんだで、腹が探れない人だからね」
陛下の子であるアレクもそう思っているのか。
私の気持ちを代弁してくれています。ちょっと不安が和らぐ。
でも広い土地をくれたので、たぶん、良い人でもあるはず!
「セシは、休みの日はずっとあの土地に行くんだよね」
「もちろんです! 忙しくなりますよ!」
私が言い切ると、笑みを浮かべながらも、アレクの表情が暗くなる。
そんなのは気にせず、私は意気揚々とアレクの腕を掴みました。
「それで、ですけれども」
私はアレクをキラキラした目で見上げた。
嫌な予感からか、眉間に皺を寄せるアレク。
アレクも随分と背が高くなりました。
決して、私が小さいわけでは、ない。
「アレク、ゴーレム遊びはもう少し実戦形式でできますよ」
「……場所を変えて、続けるってこと?」
「続けますけれど? え、大きなものを作りませんの?」
何を勝手に終わらせる気ですか……? とキラキラから一転、ガン見すると、アレクは穏やかな笑みを深めました。
「まだ、興味があるんだ」
「当然でしょう! 王宮の庭では、大きさに限度がありましたもの」
王宮では三十センチくらいまで、と制限をされていた。
こーんな大きいのが作れますと、こーんなと、背伸びをしてバタバタと手を広げる。
「そっか。大きいのが作りたいのか」
「それが、夢ってものでしょう!」
アレクは魔法を解いて、私の頭を掴むとガシガシと振り回してきました。
また付き合わされる鬱憤を晴らしているのでしょう。我慢です。
「僕はあの土地にいつでも行けるから、できるよ」
「約束ですからね!」
「ああ。週末は、土地でしようか」
「そのつもりです!」
周りから黄色い声が上がりました。
私にクラスメイトが話しかけてきます。
「王子殿下とも仲がよろしいのですね!」
「……」
そうでした。アレクも優秀で容姿端麗な王子殿下でした。
王宮の庭のように接していると、それは距離が近すぎるというもの。
弟だと思っているもので、ついつい。改めなければ。
そして、気づいてしまいました。
私、確実に目立っています、目立ってはいけないのに。
でも、今回は、利用させてください。
私は満面の笑みで、高らかに腕を上げました。
「本日の学食の『他国の味』はオオヤマトトヨアキツシマの塩結びです! ぜひみなさまも異国の味をお試しください!
そう、宣伝は、目立たないと意味がない!
キラキラの笑顔を振りまくと、皆から「行きます」コールで教室が沸き上がる。
よし! 最速売り切れを目指しますよ!
そんな私を、この世の終わりみたいな顔をしたロザリアがぎゅうっ、と抱きしめてきた。
私は慌ててロザリアの背中を撫でました。
「どうしましたか」
「領地へ戻りたいです」
生徒会に加入させられたり、休日は神殿に顔を出すように言われたり、ストレスも多いのでしょう。
考えなくても、私のお守りが一番大変なはず。
五歳の時から、ほぼ毎日私に付き合わされているのは、ロザリア……。
ついに、爆発か。
私が慌てると、ロザリアは消え入りそうな声で言いました。
「ポーションが気になるのです」
「……ポ、ポーション!」
「聖女候補として関わっている以上、責任がありますので」
ガーン! 素晴らしき責任感!
ごめんなさい。米にばかり気を取られていました。
お母様にお任せしていますが、ちゃんと土環境のチェックをしないといけない。
今や、最上級のさらに上のポーションは、誰もが喉から手が出るほど欲しがる、我が家の交渉道具。
品質管理のために絶対的必須要素を、忘れるとは、私としたことが!
そういえば、二毛作が進んでいるかどうかも、ヒメコから連絡がない。
無限大×2の魔力とかはいらないので、私が二人欲しい。いや、三人!
「長期休みには、必ず戻りましょう!」
「はい!」
私の肩に顔を埋めたロザリアの背中を、アレクが肘でコツンと小突いた。
ちょっと呆れ顔だ。
「お前、泣き真似とか、卑怯だな」
「結果が全てだと思っておりますので」
ロザリアはアレクを振り向き、そこらの令嬢より優雅に笑んだ。
さっきぶつかってきた縦巻きロールより、本当に品がある。
こうやって二人が並ぶと……さすが、このゲームの主人公立場の方々、華があります。
「二人はお似合いですね」
私がにっこり微笑んで言うと、二人からすごい顔で見られた。
「は……。冗談でもやめて?」
「私はセシル様、一筋です」
詰め寄られて、ごめんなさいとしか言えませんでした。




