↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/79

68 婚約者候補

 塩結びをみんなと食べたい一心で、私は登校しました。

 退学することになったら、自分の土地に根を生やそう。

 鶏舎をつくって、米をつくって、毎日TKG(たまごかけごはん)!

 そんなことを考えつつ廊下を歩いていると、誰かがドンッとぶつかってきました。


「きゃぁっ」

「……」


 私の動じない身体に飛ばされて、廊下に座り込む、金髪縦巻きロールの女生徒。

 微動だにせずに、立ったままそれを見る私。

 目が合って、私はすぐに謝りました。


「申し訳ありません!」


 体幹、強くてごめんなさい!

 私の体幹はお父様からお墨付きをもらったほどで、ぶつかり負けることはないのです。

 私が助け起こそうと手を伸ばすと、その人はキッと私を睨んできました。


「触らないで! 汚れるでしょう!」


 私は自分の汚れていない綺麗な手を見ました。

 ロザリアが私を守るように前に出るとき、そっと教えてくれます。


『レオンハルト殿下の婚約者候補の令嬢です』


 え、本当に?

 ロザリアは微笑を浮かべて、縦巻きロールに手を伸ばしました。


「大丈夫でしょうか。お怪我はありませんか?」


 縦巻きロールはフンッと鼻を鳴らして、ロザリアの手を取った。

 そして、私に勝ち誇った表情を向けました。

 私からプイッと顔を背け、媚びを売るような目をロザリアに向けます。

 忙(せわ)しい方です。


「ねぇ、聖女様? 侯爵家の私が、後ろ盾になって差し上げましょうか。 こんな、土(つち)臭い方、お嫌でしょう?」


 乳(ちち)臭い? ……と自分を嗅ぎましたがわかりません。

 ロザリアは、とても冷たい顔で答えます。


「……お言葉が、過ぎるかと」

「あら? そうかしら。ここまで臭いますけれども」


 縦巻きロールは腕を組んで顎を上げて、私をまた見ました。

 彼女の後ろには、いつの間にか現れた取り巻き三人。同じような目で見てきます。

 正直、わかりやすい悪意、こういうのは助かります。


「喧嘩なら、いくらでも買います」


 私がまっすぐ目を見据えて言えば、彼女たちの顔が引き攣った。

 ロザリアがススス……と私の後ろに下がりました。


「今から、ベルガー先生に修練場をお貸しいただきましょうか」


 学園内で魔法は使えないので、思い切りやれる場所は必要。

 やっぱりベルガー先生と良好な関係が必要ですね。


「体術でもいいです。全員まとめて相手しますけれど」


 私がまったく動じないせいか、縦巻きロールは捨て台詞を吐いた。


「野蛮ね! さすが土属性ですこと!」


 はぁっ!? お馬鹿にしやがりましたわね! この人は、もう、当たり屋決定です!

 やり返してやろうと私が腕まくりをする前に、そそくさと彼女たちは通り過ぎていきました。

 逃げ足早いな! と追いかけようとして、冷静になる。

 隣にいる、ロザリアの目が、とても冷たい……。

 ロザリアは人を凍らせそうな視線で、彼女達の背中を見送っています。


「殿下の婚約者決めも近くなり、焦っていらっしゃるのでしょう。見目麗しい、王太子殿下の妃の座は、魅力的ですから」


 婚約者を決める日が近づいているのは知っていますが……。

 昨日、レオに触れられた額がむずがゆい。


 修練場で狙われてみたり、ロッカーが燃やされたり、廊下で吹き飛ばされそうにもなったり。

 私が邪魔な方がいるのは明白。

 でも、今の稚拙で幼稚なやり方をみれば、婚約者の件だけとは思えない。

 修練場と、廊下の突風はとくに、別の方でしょう。

 私に何か用があるのなら、コソコソせずに正面からくればいいのに。

 追放は、本当に思いもよらぬ形でやってくるのかもしれません。

 

 婚約者候補に邪魔されたせいで、始業時間の十分前くらいに、私はやっとクラスに入りました。

 瞬間、騒がしかったクラスが、しんと静まり返ります。


「あら……」


 そうでした、私は歩く災害。


 そうですよね、どんな顔をして登校をしてきたと思いますよね。

 教室を破壊せんばかりの襲撃を受けましたから。


 横にいたロザリアが小さな声で「気にすることはないかと」と言ってきます。


 私はうーんと悩みました。

 これは、回れ右をした方が良いかもしれません。

 このまま退学して、領地に戻って、米を作りながら、追放されても生き残る術をどんどん身に付けた方いいですし。

 でも、土魔法クラブの皆様が……。

 うーんうーんと悩みながら踵を返しかけた私に、女性が話しかけてきました。


「あの、ノーテル様」

「はい」


 勇気を振り絞ったという感じで、ふるふると手が震えています。

 私は取って食ったりしませんよ。

 というよりも、私はクラスではあまり話しかけられないので驚きました。


「あの、先週は大変な目に遭ったそうで……。お怪我はありませんでしたか。大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。皆様にはご迷惑をお掛けしました」


 あれ? ほぼ話したことが無い方に心配をされている。

 縦巻きロールに絡まれた後だったから、なおさら嬉しくて、微笑んでしまいました。

 すると、教室から「きゃぁ」とか「おぉ」とも言えない声が湧く。


「ノーテル様には話しかけるのも恐れ多くて。でも校舎で、魔法使わなかった話を聞いて感動して」

「恐れ多いだなんて……」


 この勇気を振り絞った女生徒が言うには。

 血筋も良くて、フェイ・ドラゴンを孵化させ、ノーテル家の方で、王太子殿下の婚約者候補でもあるのに、ルールを守ることに感動したのだとか。

 つまり、超・権力でいろんなことを揉み消せるのに、すごい、と。

 え、他の方は揉み消しているのですか!? それに驚きます。

 私は、その女生徒の震える手を両手で握りました。


「同じクラスでご迷惑をかけるかもしれませんのに、声を掛けていただいて嬉しいです」

「いえ、そ、そんな、わたし、むしろ、盾になりた」

「私がその役目なので、大丈夫ですわ」


 ロザリアが被せるように割って入ったのを皮切りに、我も我もと生徒に囲まれました。

 どうやら私は皆に嫌われているわけではないようです。

 あれ、目がうるっ……と。学校が、ちょっと楽しいと、初めて思えたかも。

 自分が単純すぎて恥ずかしい。


 そんな中アレクが教室に入ってきて、ぎょっとした様子で足早に私のそばに来ました。

 慌てて聞いてきます。


「今度は何をしたの? まだ月曜日の朝だよ?」


 失礼だ! と思いつつも、言い返せない私です。

誤字脱字報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。