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42 米!

 あれから、五年。私も学校に通わないといけない時期がやってきました。

 一週間後、私は王都へ行かないといけません。

 行かないで済む方法……例えば米留学とかを考え実行に移そうとしましたが、全てお父様とレオンハルト王太子殿下に阻止された気がします。


 それでも表面上は何も変わらない日々です。

 私はお母様が絶対に着なさいという、陽射しを一切通さない服を全身に纏い、汗をダラダラ流しております。


 ロザリアにポーション畑を癒してもらう実験は、ノーテル家に既得権というものをもたらしました。


 私が土魔法で整えた土地に、ロザリアが癒しの魔力を施す。

 結果、生臭くないポーションを作り出すことができたのです。快挙!

 ハーブドリンクみたいな感じとでも申しましょうか。ちょっといい香りがして、つらい重症時もしっかり飲めるものです。

 これだけですごい価値があるのですよ。


 いろいろな実験を重ねた結果、私の土魔法だけでも臭みの無いものは作れました。

 ただ、「私の土魔法×ロザリアの癒し」で、とんでもない回復力のものができまして。

 天命はしょうがないけれど、一滴唇に垂らせばその苦しみを和らげ。

 奇病難病はたちまち癒し。

 ちょっと私たちが限界まで魔力を高めると、内緒の話、失った手足さえも蘇るという……。


 完全にチート。

 考えてみれば、ロザリアはヒロイン。アレク(ヒーロー)とどうこうなる人ですものね……。


 陛下と神殿にはもちろん報告済! 国家反逆とか疑いを持たれる前に、報告!

 神殿も同じように生成してみたけど、生臭さは取れなかったようで。


 私と、ロザリア。


 この、最強の属人付与が最高の価値を生み出しましたぁ……うふふ。


 もちろん売上はポーション生成権限を持ったレオのものですが、生成既得権が私に与えられ、お金持ちになるはずでした。

 けれども、ポーションの値段で競争をしてはいけないという、薬術秩序維持令とかいう法律がありまして……。しょうがない……


 それに、あまりにも効能が違うポーションが市場に出回ると混乱してしまう。

 というわけで、国交御用達認定制度を利用し、王家に買い取っていただく形となりました。

 市場にたくさん出回らなければ、売上に繋がらない。

 ただし、人に恩を売るには使えるけど、お父様はそういうのをヨシとしない。


 作っても、売上に繋がらない! と嘆いておりましたところ、レオから最上級ポーションをオオヤマトトヨアキツシマ(お米の国)に、贈ってみようと提案を受けました。

 その時に米作りの技術者派遣についての依頼の手紙も一緒に送ったのです。

 もちろん、私の直筆で。


 そのポーションで皇女様の難病が治ったということで、米栽培の技術者を送ってくださったのが三年前。

 カントリーハウス内の一角に、10m×10m=100㎡の規模で作った水田を作ったのは二年前(収穫予測、約50〜60kg、お米約300〜400合分と試算)。

 その間に気候を鑑み、品種改良していただいた品種で田植えをしたのが、半年前。

 そして、五歳の私が騒いだ、あれから五年後の今――。

 金色に揺れる、美しい稲穂! 100㎡だけど!


「収穫ですわ!!!」

「落ち着いて」


 後ろで手に鎌を持って冷静に立っているのは、オオヤマトトヨアキツシマの第六皇女のヒメコ。さらっさらの黒髪に黒目、白い肌を持った神秘的な美しさの女性。

 難病を患いながらも、コメの品種改良を続けていた猛者。ポーションで治って派遣されてきた技術者様です。


「お、お、お、落ち着いていられますでしょうか! ついに、お米が、お、お米」

「みんな! 米の収穫方法を教えますわよ!」

「ああ! 皆さん! お米の収穫方法を教えてくださるそうです! ヒメコ様に続いて、真似して、覚えてくださいね!」


 興奮と暑さで倒れそうな私を無視して、ヒメコは米栽培伝達者となる数人を連れて田んぼに入っていきました……。

 土魔法でちょちょいのちょい、とすればいいと思いますよね。

 けれど、これは領民の方ができるようにならないと困る案件です。できる人を増やさないと、米栽培を広げられません。

 私が率先してやりたいけれど、ここは我慢です……。我慢……。


 指導を終えて見守るためにヒメコが田んぼから私の横に戻ってきました。


「あのね、稲刈りの後は、約二週間の天日干し。それから籾を外す脱穀。次いで籾摺り、精米。この二つの作業も重労働だから。今日は食べられないわよ」 


 知っています。一升瓶に入れて付くあれはテレビで見たことがあります。


「何か……道具は開発できないのでしょうか」

「道具?」


 私は頷いた。

 ほら、精米機とか田園ドライブしているとあったじゃないですか、道の脇に。

 私が構造を考えていると、黙って聞いていたヒメコが笑い出した。

 え、人がこんなに一生懸命考えているのに。


「この国の人間は、魔法、魔力で頭を使えない人間ばかりだと思っていたから、道具っていう発想が面白くてね。良いの作ったら輸出してよ。我が国は買うよ」

「おお……」


 なんか軽く国民を馬鹿にされましたけれど、また商機が見える……。

 卵の販売はうまくいっているけれど、土鍋の爆発的流行にはこの米がいる。

 いよいよ、本格的に土鍋を売る時もやってきた。

 鼻息を荒くしていると、向こうから美しく成長したロザリアがお母様と一緒にやってきた。それにしても、ヒロインの美しさは本当に破格です。

 その隣には、私と同じ蜂蜜色の髪とヘーゼルナッツ色の目をした弟のヨゼフ。ノーテル家の末っ子。

 あんなにおぎゃーおぎゃーと泣いて小さかったのに、もう歩いているのを見ると自然と涙が……。


「お姉さま!」


 ああああ、なんて可愛らしいのでしょう。


「お前の弟は、美しいな」


 ヒメコはこのヨゼフをとても可愛がっている。頭をナデナデすると、ツンっと弟がそっぽを向いた。


「ぼくをこども扱いしないでいただきたい! 紳士なのですから!」

「何か怒っているな」


 ヨゼフはぷぅっと頬を膨らませたが、ヒメコはわかっていない。

 なぜなら言葉が通じないから。


「ごきげんよう、ヒメコ様」

「ああ、ごきげんよう」


 ロザリアとヒメコの会話、これくらいは可能。


「収穫が終わったら、小麦を確認してくる。二毛作をしたいのだろう?」

「そう! 二毛作ですわ! 何がなんでも二毛作!」

「お前、良い姫だよ」


 ははっと笑いながらヒメコが私の肩を叩いて去っていった。もちろんお母様にしっかり挨拶をして。

 ロザリアは憧れのまなざしを私に向け、ほぅっと息を吐いた。


「本当にお姉さまは難解な言葉をスラスラとお話されますよね。先日いらっしゃった、ホウ国の方とも流暢にお話をされて……」

「お姉さますごい! お姉さますごい」

「そうよ、ヨゼフのお姉さまはすごいのよ!」


 私がヨゼフを抱き上げる。汗だらけの顔をヨゼフがハンカチで拭いてくれるのがこの上なく愛しい。

 お母様は私を見て微笑んだ。

 そう、私はお母様からの信頼を獲得したのです。


 お母様の許可なく何もできないという制限がついたおかげで、私は、それはもう、必死に努力をしました。

 追放とか考えてられないくらいに、努力をしました。

 血反吐を吐くかも……と思ったとき、そっとお母様が差し出したポーションの味は忘れません。


「汗を流していらっしゃいな。お茶にしましょう」

「はい、お母様」


 雪だるまみたいな格好でも、優雅なお辞儀をした。

 お母様は頷いてその場を去る。

 早くお茶に間に合わせないと。私は歩く着ぐるみのまま、部屋に走った。


「お姉さま、本当にきれいですわ……」


 私の湯あみと着替えの手伝いに来たロザリアが、私の肌を見て感嘆のため息をもらす。


「肌理が違いますもの。もちもちして、弾力があって」

「……」


 ロザリアは、とても性格が良い。

 お父様は養女にはせず、けれども私たちが仲よくすることも止めなかった。


「はぁ、こんなにも美しいのに……。あの王太子より、絶対にアレクシス様の方がお似合いなのに」


 私は鏡越しで、うっとりと私を見つめるロザリアを見た。

 ロザリアは恋愛脳なのだ。愛読書は恋愛小説。


「ロザリアの方が美しいわよ。男性の心を射止めるわ」

「私はいいのです。つややかな蜂蜜色の御髪おぐし、ヘーゼルナッツ色に輝く瞳。白くてきめ細かいお肌。そして何よりも勤勉でいらっしゃる。絶対に、アレクシス様を推しますから、私」

「そんなに好きなら、あなたが立候補すればいいのではなくて? あなたは稀代の聖女なのだから、可能でしょう?」


 アレクは私にとって、完全に悪友ポジションです。

 ポーションの価値を高めたロザリアは、くしくもその癒しの能力を披露する結果になってしまっていた。

 お母様がノーテル家にいて良かったわね、と漏らすほど、皆が喉から手が出るほど養女に欲しい庶民の娘。


「え、嫌です」

「……」

「王家とか、絶対に嫌です」

「……」


 さすがヒロイン。王家なんて嫌だということですね。

 ロザリアはにっこりと笑む。


「そうですわね。それならば、お姉さまが良いです」


 ぎゅうっと抱きしめられた。ドレスも苦しいのに、そんなにきつく抱きしめてこなくても……。


「お姉さまと結婚したい……。どこか二人で逃げませんか。私たちならどこででも生きていける――」


 いつも口調が本気で怖いのですよー。だから、この国は女性同士は無理ですし。若い女子がお耽美な世界に浸るのはどの国も一緒なのですね……。

 いつもの冗談に答えようとしたとき、私の腕が力強い手に掴まれ、その胸の中に引き寄せられた。

 どしんっと勢いよくぶつかったのに、びくともしない体幹。

 また勝手に部屋に入ってきて、と怒りはわきますけれども、いつも顔はふやけてしまいます。どうしてでしょうか。


「迎えに来たよ、シリィ。王都ヘは僕が付き添う」

「レオ」


 長い睫の中に、澄んだ深い青の瞳。今日も金色の光が目の中で煌めいている。

 淡く茶色だった髪色は濃くなり、気品や高貴さはそのまま、十五歳という年齢もあり、上背も高くなり、その体つきはがっちりとしたものとなった。

 首元には私が渡した指輪を通したチェーンをしている。

 いつもピカピカに磨いていて……なんだか胸がこそばゆいです。


「学校は?」

「入学式前の、お休みだよ。毎年一緒に過ごしているのに、忘れた?」

「離れなさい! 裏切り者!」


 ロザリアが大声を出すのは、慣れた。

 この二人は犬猿の仲だ。理由は明らかで、だからレオは怒らない。


「婚約者候補を三人も追加して! さっさとお姉さまを解放して! この、色情魔!」


 ひどく悪い言葉をご存じですね……と私が驚いた。

 レオは冷ややかにロザリアを見返している。


 こればっかりは、しょうがないのです。

 起こるとされていた魔獣災害が、起きない。

 そこで貴族たちは娘を王太子妃とすべく、娘たちを婚約者候補として押し上げてきました。

 私としては、魔獣災害など起こらず、レオンハルトが元気でいればいいのですけれど。

 ただ、胸が痛むのですよね、これを考えると。不思議です。

 私が自然と視線を下げると、レオが顔のラインに指で触れてきた。

 え? なんで触っていますの?


「解放? 嫌だけど?」


 レオは私の顎をくいと上げると、こめかみに唇で触れた。

 え? 何をしました?


「絶対に、嫌だけど。僕はシリィとしか結婚しないよ」


 そしてますます私を抱きしめて、ロザリアに笑っていない目で微笑んだ。

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