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30 アンフィニ

 水晶の光が、ゆっくりと落ち着いていく。私は首を傾げた。


「……アレク、これは、何を意味しますの?」

「わからない」


 アレクがわからないなら、私にもわからない。

 私たちは顔を見合わせた。


「魔力、無いということ……?」

「いや、光の量が異常だったから……」


 二人で顔を見合わせたまま、首を傾げた。

 部屋に変な間が流れる。

 やがて、アレクシスが額に手を当てた。


 ていうか……。

 私はまだ光っている水晶を見た。

 魔力が多かろうが少なかろうが……ですよ?

 ライフワークとして、米は作りますし……。

 TKGを毎日食べられるようしますし。

 できれば得たその知識を、追放された先での生き残る術にしたいというか。

 私の反応があまりにも薄いからだろう。

 アレクシスの方が焦りだした。


「……き、気にするな」

「していませんけれど」


 ショックで固まっていると、思っているのかもしれない。

 それならば、と私は笑顔を浮かべてみた。

 するとアレクシスはますます慌てだした。


「きっと、意味はある記号……だと思う!」


 うん、間違いない。私は励まされている。

 自分が誘ったせいで、とアレクシスは自分を責めているのかも。

 真面目な子ですよね……。

 でも、ごめんなさい。私、本当に気にしていないのですよ。

 私はアレクシスの頭をポンポンと撫でた。

 弟がいたら、こんな感じかもしれない。

 私は真剣に伝えた。


「アレク、これに意味があってもなくても、私はTKGを目指すから大丈夫ですよ」

「てぃ……?」


 また、お互い、見つめ合って黙ってしまった。

 まったくもって、噛みあっていない。

 深夜と言う時間もあってか、さすがに眠くなってきた。

 あくびをかみ殺すと、そっと後ろから抱きかかえられた。

 何の気配もないまま、床から足先が浮いて、思わず声が出た。


「ひっ」

「僕のセシルは、本当に面白いよね」


 澄んだ深いあお色の目に、星屑が浮かんでいる。

 そんな美しい目が私を見ていた。

 柔らかそうな淡い茶色の髪が一瞬だけ頬に触れる。


「で、殿下……」

「レオって、呼ぶ約束」


 こつん、と額と額が触れ合った。

 レオンハルトに抱きかかえられたままで。

 耳まで熱い、きっと今、真っ赤だ。

 私はお魚みたいに口をパクパクさせる。


「あ、兄上……」


 硬いアレクシスの声に、私は我に返った。

 可哀そうなくらい、泣きそうな表情でレオンハルトを見ている。

 あ、と思う。

 アレクシスを見るレオンハルトの目に、私を見る兄たちのような柔らかさはない。


「アレク、これは無限大という記号だ。覚えておくといいよ」

「は、はい、兄上……」


 アレクシスの表情が固まった。

 レオンハルトは別にアレクシスを邪険にしているわけではない。

 けれど、壁をがっつり引いているのがわかりすぎる。

 見ていいのか、わるいのか。

 兄弟事情から少し視線を逸らせば、レオンハルトの肩越しにセバスチャンを見つけた。

 きっと、ずっといたんだろうな……。スン、とした気持ちになる。


 おまけに、今日は護衛騎士までいる。

 濃い銀灰の髪を後ろで結び、氷のように冷たい切れ長の瞳を持つ長身痩躯のアルヴィン。

 明るい栗色の短髪と快活な琥珀色の瞳、日焼けした肌のリオネル。

 広い肩幅と厚い胸板で圧倒的な圧がある黒髪のガレス。

 懐かしい顔ぶれに、思わず顔がほころんだ。

 私が手を振ると、三人は小さく微笑んで頷いてくれた。


 というかですよ。

 レオンハルトは、今、魔法学園に通っているのでは……?

 そんな私の疑問はぶつける場所がない。

 レオンハルトは水晶に浮かぶ記号を見つめながら言った。


「セシルが魔力を計れば、こうなることはわかっていたけど……」


 レオンハルトから離れようと足をバタバタさせたけれど、おろしてくれない。

 護衛騎士たちに助けを求めたけれど、目を逸らされた。

 レオンハルトは少し会わない内に、背が高くなって、筋肉質になった気がする。

 抜け出せる気がしない。


「お、降ろしてください」

「うん? 僕がここに来たのは、無限大の魔力量の記録がされたって、伝達があったからなんだよね」


 ぎゅっ、とますます抱きしめられて、さすがに耐えられなくなった。

 みんなのにやにやの視線が、つらい!


「レオ!」

「この魔力量は、申し訳ないけれど、国家に関わるから、セシルは今から保護対象だ」


 だから、はぐらかしていたのに、とレオンハルトはぶつぶつ言いながら、地面に降ろしてくれた。

 突然、訪れた自由。

 たぶんレオって言わないとまた抱きかかえられる気がする。

 悩み始めたところで、レオンハルトは私に言った。

 これから、この三人が王都滞在時の護衛騎士になること。

 領地へ戻る際は、必ず、彼らに守られること……などなど。

 えー……。王都にくることも、渋々なのに……。三人のことは好きだけど……。


「そんな顔をしても、駄目だよ」


 むっすぅ、と不機嫌な顔になっていたかもしれない。

 なので、話を逸らしてみることにした。


「……レオ、学園は寮では? 抜け出したのですか?」

「しょうがないでしょ。すごい魔力を感知したら、僕はここを守りに戻らないといけない」


 アレクシスがびくりと体を震わせた。

 よく見たら、顔色が悪い。

 私は心配になって、アレクの額に手を置いた。


「アレク、大丈夫ですか? 気分が悪い?」

「いや、大丈夫だから」


 私の手を避けようと、アレクシスは身体を引いた。

 あら、これは変な感覚。

 拒否と一緒に、心の扉が閉まる音がする。

 本当に反射的に、私は動いていた。

 なんか、そうしないといけないと思ったのだ。

 アレクシスの手首を掴むと、ぐっと自分に寄せた。


「気分が悪いなら、言ってくださいまし。明日から一緒に勉強をするのですよ」

「だから、大丈夫だって」

「ゴーレムは? 私一人でプロレスをさせるのですか?」

「ぷ……?」


 私はますますアレクシスの手首をぎゅっと握った。


「ゴーレム遊びのことです!」

「あ、ああ」


 アレクシスは明らかに戸惑っている。

 ちらちらとレオンハルトを見たりして、視線が定まらない。

 私は確信に満ちた、訝し気な視線をレオンハルトに投げた。


「……レオ、アレクをいじめていますの?」

「僕がそんなことをするわけがないでしょ」


 レオンハルトは言うと、アレクシスの頭をぐちゃぐちゃと撫でた。


「魔力に気を取られて、大事なことを忘れてはいけない」

「あ、兄上……」

「お前は、お前のやるべきことがあるのだから」


 ぐちゃぐちゃとレオンハルトが頭を撫でているのに、アレクシスは嬉しそうだ。

 どんどん表情が柔らかくなっていく。


「レオ、本当にいじめてない? アレク、いじめられてない?」


 いじめは、だめ、絶対ダメ、なのである。


「セシ、兄上は、ぼくみたいなのにも、良くしてくれている……」

「ねぇ、セシル」


 アレクシスの頭を撫でていたレオンハルトが、誰もをとろけさせるような笑顔で私を見た。

 私の結んでいない髪の束を、そっと指ですくう。


「セシ、って……。アレクシスと、愛称で呼びあっているの?」


 レオンハルトはそう言いながら、私の髪をするりと指で梳いた。


「僕も、セシルを愛称で呼んでいないのに」


 あ、詰んだ。私は心の中で白目を剥いた。


「ちょっと、話しをしようか」


 レオンハルトはそう言いながら、私の髪をするりと指で梳いた。

 私は眠れない覚悟をした。

 この十歳、やっぱり年齢詐称している気がする。

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