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28 説教

 私をキラキラとした目で見るエレナと別れて王城へと戻った。

 お父様に土魔法のデータを貰う約束をしたことをさっそく手紙にしたためる。

 どのような内容をいただくかを詰めてから、契約を結ばねばなりませんから。


『お願いがありますの。データをくださいな。魔法をかけた回数と、だいたいの魔力量の感覚と、どういった植物に使ったかと、収穫がどのくらい増えたか。むずかしくないですわ、日記に書くくらいで十分ですから』

『で、でーた……?』

『記録のことですわ! エレナの魔法が、世界を変えるかもしれませんの』

『わ、わたくしの……!』

『ええ!』


 ……というわけで、支払うべきお金が発生しますので、私も早く、早く、定期収入を得たい。

 最後にケーキを店にいた人全員に奢ってしまったので、私のお小遣いが減ってますと、小さく書き添えた。どうか、最近小さい文字が見えないというお父様が見えませんように。


 帰ってきた私に『お茶会はどうでした?』と笑顔で尋ねてきたクラリスに全てを話した。

 小さいクラリスをコテンパンにしてやったと!

 隠すことは何もない。

 私は『悪気はありませんでしたぁ』とか『こういう性格なんですぅ』とか言い訳するつもりは無い。

 鼻も心も折るつもりでやった。うん。

 けれど、話を聞いたクラリスが真っ青になった。


『私がやはりついていけば……!』


 それから『伯爵様に連絡しないと』とか『おじい様に報告しないと』など独り言を言いながら、礼儀正しく部屋を出て行った。

 うーむ。

 私の手紙がお父様に届く前に、クラリスの報告がいくかも。

 まぁ、いいけれども。


 それから、夕食の準備だといって、私のドレスを調えに使用人がやってきた。

 ケーキを食べすぎたとか思いつつ、されるがままになっていたら、窓をコツコツと尾の長いシュッとしたオウムみたいな鳥が叩いた。

 使用人が『魔法手紙ですわ』と言って私を見たので、開けてあげてとお願いする。

 オウムは部屋を何周も飛び回り、使用人が部屋を後にすると、私の肩に止まった。

 まるで、使用人がいなくなるのを待っていたようだ。

 誰からかは知らないけれど、王城に飛んでこられるのだ。権限をかなり持った人からだろう。


『セシル、父だ』


 早っ。アンド、納得。そりゃ魔法の鳥を飛ばせますわ。

 クラリスも秒速で報告をしたってことか……。やっぱり優秀な女性なんだなぁ。

 ていうか、脳筋お父様に、喧嘩をするなとか怒られるのかな。

 どう言い返そうかを考えていたが、だいぶ違った。

 オウムは耳元で言った。


『お小遣いは、大事に使いなさい』

「……はい」


 お金の使い方で叱られたらしい。

 つまり、王都で同じようなことが起こるたびにそんな使い方をしてはいけないよってことだ。

 確かに、それは耳が痛い。直情型人間ですので。


「気をつけます」


 オウムはそれを聞き届けたように頷くと、霧散した。

 大きな計画が持ち上がった時に資金が無いのは困る。

 私は心のノートに書き留めた。


 続くお小言は、私を部屋まで迎えにきたアレクシスからだった。

 エスコートというより、一緒に歩くという感じ。

 いるのはセバスチャンと、クラリスだけという……。

 どこへ行った、護衛騎士よ。

 いなくていいほど、この二人、めっちゃくちゃ強い……?

 模擬戦見たい……とラブレター的な視線を送っていると、アレクシスに話しかけられた。


「セシ、無計画な資金の使い方をするなよ」


 呆れ顔で言われて、思わずムッとしてしまった。

 ていうか、セシって、勝手に愛称呼び? 第二王子は陽キャ設定だっけか……?

 拒むこともめんどくさく、かくがくしかじかで事情を話すと、アレクシスは呆れ顔のまま言った。

 後ろから付いてくるクラリスをちらりと見ると、小さく頷いていた。

 セバスチャンは苦笑している。


「これから、お前は不愉快な思いを死ぬほどするぞ。その度に居合わせた人間に金銭の保証をするのか」

「……しませんけれども。……不愉快な思いを死ぬほどって、言いすぎだと思いません?」

「思わないね」


 なんだこの子ども……という私の視線を真正面から見て、アレクシスは言い切った。

 視界の隅に映るクラリスもめちゃくちゃ頷いている。セバスチャンは苦笑している。


「セシ、自分がどれほどの資産を持っているのかわかっていない」


 知るわけがない。

 我が家は私の持参金には困らないだろう、くらいはわかる。

 アレクシスはブツブツと言う。


「セシは、フェイ・ドラゴンの卵の所有者だ。それだけで十分だ。おまけに、土魔法のお陰で、領地の収穫量が上がっているんだろう?」

「ええ、素晴らしいことです。ハッ! ゴーレムを護衛団にすれば、安全に各地に物資がもっと送れますわね。我が領地の収入も……!」


 卵も、米も! ついでに醤油も! そう野望な想像をする私を呆れ切った目でアレクシスが見てくる。


「だから、それ目的で、そういう場面を作るやつが出てくるぞ」

「殴り飛ばせばよろしくて?」


 すん、とした顔で言い返すと、アレクシスの表情が固まった。


「え?」

「泥棒と詐欺師に、優しくするほど、私は暇ではありませんの。ついでに言うと、身の程知らずにも、容赦はしません」

「……ははっ」


 アレクシスは、両手を上げて後頭部に重ねた。

 めっちゃ柔らかい笑顔で笑っている。

 レオンハルトがかっこよすぎるだけで、こうみればアレクシスもかっこよき……かな?

 ゲームでヒロインに選ばれる人の一人だから、そうか……。


「セシはおっかないな」


 おっかないですよ、わたくしは。

 それから私たちはゴーレムの話で盛り上がったのだ。


 なのに。


 第三の説教は、夕食会の席で、陛下から賜ることになった。


「セシルよ、お金は計画的に使いなさい」


 ちゃんと、妹であるお母さまの体調もお尋ねになってくださったからよいですけれども。


 さすがに、一緒に着席しているクラリスをじっとりと見た。

 どこまで知らせた……と思ったが、クラリスはセバスチャンを見ている。

 一番部屋が見渡せる場所で、かつ、素早い動きができそうな場所で、オーラを消して佇んでいる彼を。

 え、セバスチャン、どこまで情報網があるの?


「フェイ・ドラゴンの卵が孵れば、その殻にはとてつもない値が付く。成獣になる際に脱皮する。その皮はその値さえわからない。成獣になり、鱗を落とせば……」


 陛下、口を開けばフェイ・ドラゴンである。皇后陛下が話題を変えようとするが、駄目。完全に駄目。

 こちらも乗っかるしかない。


「フェイ・ドラゴンの殻は変色しておりませんわ。きっと、中で成長しております」

「お、おう、そうか」

「卵が心配で、王都には二週間しかおれませんの」

「そうか、そうか」

「せめてその間、王家の図書室に自由に出入りさせていただけますか。勉強したくて」

「ああ、もちろんだ」


 完璧だ。米栽培のための、言語学習への道が開けた。


「様子は、王都につき次第、必ず一番にお知らせしますわ」

「楽しみだ」


 陛下はニコニコしている。私もニコニコしている。でも中身は全然違う。


「でも……、王都に来るのが少し怖いかもしれません」

「なぜだい?」


 五歳の私は目をうるうるさせた。


「小さなクラリスから嫌われているようで、今日も怖い思いをして。怖くて怖くて」

「ぶほっ」


 セバスチャンが小さく噴き出し、アレクシスがナイフとフォークを持つ手が止まった。

 素早く何も言わないでくださいましね! と言う視線を投げてから、私は続けた。


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