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27 悪役令嬢、登場

19日、二回目の更新です。

 王都に来たら、しなくてはいけないこと第二位。

 同じ土魔法属性のリュシエール子爵家のエレナ・ブルナンデと会うことだ。


 リュシエール子爵家は領地を持たない。

 祖父の代に戦功で爵位を授かったものの、王都に居住をかまえ、領地を持たぬまま三代。

 王都の市場管理という役職が家を支えていたが、先王の代の魔獣災害の混乱、制度改革で役職は廃止。

 改革派閥への連座という形でとどめを刺された。

 残ったのは子爵の爵位と、代々培ってきた王都の人脈。


 セバスチャンが会うことを許してくれたのは、子爵家が貴族としてのプライドを持ち、子女には骨の髄まで礼儀作法を叩き込んでいるから。

 未来の王太子妃と会う格があると、判断された。


 確かに……誰がどんな腹づもりでやってくるかわからないので……。

 でも、まぁ、息苦しくもある。


 それでも家格を保つための社交費が家計を蝕むのは想像できるわけで。

 私たちは王都のカフェテリアで会うことにした。


「セ、セシル様に、お誘いいただけて……」


 エレナはテーブルいっぱいに並べられたケーキに手を付けずに、目をうるうるとさせていた。


「食べましょう。稀少な土魔法属性同士ですから」

「しかも、こんな王都でも、予約が取れないと有名なカフェの個室で……」


 私は小粒のチョコレートをエレナの口元にそっと差し出した。個室ですからね。


「ま、まぁ! おいしいですわ」

「ええ、なので楽しみませんか」


 五歳と八歳のカフェ利用。権力の力を感じます。

 エレナはくすんだ金髪に、茶色い目の女の子だ。肌にはそばかすが散っていて可愛い。

 私がカントリーハウスにいる間の、土魔法属性の扱いについて、エレナはいろいろ教えてくれた。

 やはり問題は土魔法が大した訓練内容がないことのように思えた。

 それなのに、私みたいなことができるのではないかと、強要をされるパターンも多いらしい。

 エレナはというと、恥ずかしそうに、裏庭の野菜の収穫量が上がったと教えてくれた。

 日当たりが悪くて、あまり育ちが悪かったのに……と。


 これは……土魔法は土壌改良に対して良い結果を生み出す証拠になる、大きな一歩では……?

 私はエレナにどんな魔法量で、どのくらいの期間で、どんな野菜に……をデータとして欲しいとお願いした。


 でーた? と、エレナは首を傾げている。


 研究としてぜひとも依頼をしたいから、リュシエール子爵にお父様からお手紙を書いてもらうと伝えた。もちろん、有償で。

 エレナはまた泣き出した。


 どうやら役職が無い貴族というのは生活が厳しいらしい。

 万が一の追放に備えて、フェイ・ドラゴンの鱗は手元に置いているけれど、この研究費は私の自腹で出さねばならぬ気がする。


 早く、潤沢な収入源が欲しい!

 ポーション栽培も軌道に乗せないと。早く、カントリーハウスに帰りたい!

 そんな思いを強くしたとき、カフェテリアの店員が申し訳なさそうに入ってきた。


「ご歓談中失礼します。お嬢様」

「あらぁ。誰かと思ったら、田舎の人間と、貧乏な方。予約が入っていると聞いたら来てみれば……このカフェももう終わりなのね」


 ……失礼な人ですね。

 私は乱入してきた、真っ赤なドレスの、黒髪に黒目の明らかに気の強そうな女子を見た。

 意地悪な方のクラリス、悪役令嬢だ。

 私は、椅子からも降りずに、クラリスをちらりと見ただけで、紅茶に視線を戻して言った。


「どこのどなたか存じ上げませんが、都会の礼儀を教えていただき、ありがとうございます」


 人が食事をしているのに、許可も得ずに入ってくるのが礼儀なんですね。へー。

 とりあえず、この子、嫌いだ。


「私は、ヴァルシュタイン侯爵令嬢よ。失礼だわ。そういえば、あなた偽物を連れ歩いているのですって?」


 窓から差し込む光を浴びて蜂蜜色に輝く紅茶の水面を見つめた。

 偽物ねぇ。私の愛らしいクラリスお姉さまは、謁見した陛下にも手厚く迎えられた。

 クラリスにもお茶会に来ないかと誘ったが、やんわりと断られた。

 お土産話を楽しみにしてますと、明日からはお勉強ですよと言われた。

 五歳と八歳の楽しみを、邪魔してはいけないと思ったのだろう。

 来なくて良かったと思った。思い切り、やり返せる。


 王宮で私の傍にいるクラリスが、貴族から敬意を持たれる理由を、セバスチャンから聞いていた。

 社交と情報の大切さを、こんなところで知るとは……である。


 ――魔獣災害の際、当時の宰相であった、ヴァルシュタイン侯爵が資産を隠した貴族から、復興や保証のために取り立てた。

 戦場にも出向かず、資産を奪われた貴族は、その恨みをヴァルシュタインに向けた。


 それを先導したのは、分家だったと、セバスチャンは言った。

 私はほの暗い気持ちを抱いたまま、クラリスを見て、にっこりと微笑んだ。


「あぁ、侯爵家の、分家の方ね。――爵位を奪った方の」

「……っ! うちが、本家になったの!」

「そのように貴族図鑑にはありませんでしたけれど」


 貴族図鑑は絶対だ。

 クラリスは真っ赤になり、鼻息を荒くした。

 けれど、彼女はにやりと笑った。


「奪ったといえば……、婚約者がいる男性を、奪った方の話もありましたわね」


 あらぁあらぁ、お母様のこと? 第五子妊娠中の、お母様のことかしらぁ?

 私の前でディスりましたわね。

 泣いて、びびるとでも思ったのなら、大間違いだ。


「改めまして」


 私は笑顔で、椅子から降りた。


「セシル・ノーテルです。王太子の婚約者に選ばれております。お見知りおきを」

「はっ、ただの婚約者候補でしょう!?」


 私が私でそういうのはいいけれど、他人に言われるのは不快……。

 ほほほ、と私は笑む。


「今日は両陛下と食事の予定です。クラリス様の、私のお母様についての話、伺ってみますわね。私がただの候補だと思われていることも含めて」

「……」


 陛下との昼食会は、夕食になった。

 つまり、格式が高くなったのだが五歳児だからわからないことにしている。

 私は、た、ただの候補ではあるけれども、レオンハルトが望んだということは事実のようなので。フガフガ。

 私がにっこりと伝えると、クラリスはあきらかに動揺した。

 お母様の話を、お兄様である陛下にするって言ったもの。

 覚悟がなかったら怖いですわよね~。


 私ははらはらと震えているエレナに申し訳ないと思いつつ、受けて立った。


「あなたのお父様と婚約をされていたのが、マルグリットお母様。アルフォンスお父様と婚約されていたのが、あなたのお母様だったそうですわね」

「……」


 四角関係が複雑だ。

 知っておいてください、とこれを教えてくれたのはクラリスだった。


「ヴァルシュタイン家の失脚の先導、魔獣災害への無関心、あなたのお母様の、妊娠」


 人が人に文句を言うときは、言い返されると思っていない。

 だから、文句を一方的に聞いてもらえると、甘えている。

 単細胞だから、言い返されても、こう返せばいいと思っている。


「は? 何をおっしゃっているの? これだから田舎者は……意味が分からないわ……」

「まぁ、意味が分からないのに、お話を始めになったのね。都会育ちの方は、さすがに違いますわね!」


 クラリスは憤怒の表情で黙ったが、私はとびきりの笑顔を浮かべた。


「ご自身の問題をすり替えて、他人を貶めることが、ご家訓なのかしら? 素晴らしい知恵ですわね! 頭が下がりますわ!」

「お嬢様」


 クラリスの後ろに現れたのは、私の警護でついてきたセバスチャンだった。

 もうやめなさいと、鋭い目が言っている。


 やめなさいもなにも喧嘩を売ってきたのはこの令嬢であって私ではないし家族が貶められているのに言い返しもせずにすべて飲み込んでこの令嬢を気持ちよくさせろというのですか、セバスチャンは!


 私はその鋭い目に、突き刺すような目で言い返した。

 セバスチャンは笑んで、首を僅かに横に振った。

 そして、わなわなと震えているクラリスに話しかける。


「クラリスお嬢様、馬車がお待ちですよ」

「うるさいわね!」


 クラリスが踵を返したその後を、こちらをちらちら見ながら付いていく令嬢の影二つ。

 あ、あの子たちこのままじゃ絶対追放。

 私も、あそこにいたはずなのだよね……。

 振り返ると、エレナがそばで震えていた。


「む、難しい話過ぎて、よくわかりませんでしたが、セシル様は大丈夫ですか」


 震えながらも、ぎゅっと抱きしめてくれる。え、超かわいい、超癒される。

 きっと、彼女のお母様はこうやって、エレナを慰めるのであろう。


「大丈夫ですわ。でも、お店にはご迷惑をお掛けしました。セバスチャン、今いる方のお支払いは私がするとお伝えして」


 こ、こういう時に使うのが、貯金である。ちょっと涙は出るけれど。


「セ、セシル様は、本当に五歳ですか?」

「よく言われます」


 三十路と五歳が混じって変な感じだ。

 よくわからない脳内なのだけれども、私は、家族が大好きなのである。

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