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13 王太子の正体③

「……実に、失礼ですわ」


 令嬢は、癇癪を起してはいけないのだ。

 けれど、ひどい苛立ちで反射でつま先が動いていた。

 小石をちょん、と蹴ってしまう。

 ほんの軽い抗議のつも りだった。


「あ……れ? 何?」


 少し転がるだけのはずの小石と土が、意思を持ったみたいに集まり始める。

 それはぐるぐると渦を巻き、意思を持った蛇のように猛スピードで、一直線にレ オンハルトへ突撃していった。

 護衛騎士がびっくりしてこっちに向かってきている。

 そらそうだわ。 てか、ちがう。私、こんな本気攻撃してない。

 誰よ!  今ちょっと魔力を盛ったの!

 まさか、私!?


「なるほど」


 レオンハルトはポツリと言った。

 まるで昼下がりの散歩でもしているかのような顔でそれを眺め、視線だけで護衛騎士をぴたり と止めた。

 動くな、の無言圧がすごい。

 そして、見とれるほどの美少年がすんとした表情で片手をひらりと上げる。

 これまでが、ほぼー秒。

 次の瞬間、牙をむいた土の蛇が、ぱらぱらとただの小石に戻って地面へ崩れた。

 え、なにそれ。すごい。

 レオンハルトは何事の無かったかのように、小石を一つ拾い上げる。


「……土魔法は攻撃にも使える。気づいて、ここまで精度を上げているなんて流石だね。見てごらん、一つ一つが刃物みたいに削れている」


 私はレオンハルトからいくつかの石を受け取った。

 全ての小石が独楽(こま)みたいな形に削れている。

 この鋭利な方をぶつければ、殺傷能力高まる …… 。

 なんで? 土魔法は戦闘向きではなく華やかさに欠ける『残念な属性』なはず。

 そこまで考えて、ややあって、サーっとセシルから血の気が引く。

 独楽のような鋭利な形。これをレオンハルトに本気で当てにいったのだ。

 王族に、剣を向けたのと同義。


「土魔法の攻撃って、国家の基幹を揺るがすんだよね……。だから、不遇の魔法にしてるのだけれど、こういう天才がたまに生まれるんだよね。……あ、これって王族への攻撃、不敬行為だね」


 レオンハルトが嬉しそうに笑んだ。でも、少年らしい高い声の声音が低い。

 セシルは黙った。その通りだからだ。

 これは、まさに『詰んだ』。

 要人に、要人じゃなくても人に刃物を向けては、いけないのです。


「一応ね、父上にも、陛下にも報告しないと……。でもそうしたら、グランディエ伯爵も、爵位の返上になるかもしれない。僕という、魔獣災害のための犠牲になる王太子が亡くなれば、現在の第二王子が王太子だ。彼が犠牲になるのを避けるための僕は王太子を傷つけようとしたわけだから 」


 とんでもなくひどい話が途中、たくさん挟まった。

 レオンハルトは犠牲になるために王太子として生かされているってこと?

 あの人の土魔法を泥人形扱いした第二王子の方が大事だって?

 てか、お父様の爵位返上? 先王に武功を認められているのでは?


「あ、でも。君は僕の婚約者だから、問題ないよ。これは痴話喧嘩だ」

「……」

「一か月も会いに来なくて、ごめんね」


 そういうことで怒ったわけではないのですが……。

 レオンハルトは、春の花が満開になる……そんな笑顔で微笑んだ。

 詰んだ、別の意味で詰んだとセシルは悟った。

 これから、セシルが婚約者を降りたいと言えば、この不敬がカードとして出されるのだ。


「……策士でいらっしゃるのね。私、土魔法が攻撃に使えるって、知らなかったですわ」

「でも、ここにあるのは紛れもない土魔法の気配だよ」


 ぐっと、言葉に詰まる。本当にその通りだからだ。

 どうにか婚約回避できないだろうかと、私は腕を組んで、ぐっと顎を上げた。


「寝首をかかれる可能性がありますわ」

「それはますます楽しいね。さっきの攻撃もとても良かったよ。魔力調整……が上手なんだね。制御を覚えればもっとすごいことができるよ」


 え、あら、そうなの? と興味を持ったその時――。

 グルル……と地の底から響く唸り声が対岸からした。

 そちらの方向を見ると、三匹の異形の獣が、河川敷に姿を現した。


「魔獣じゃないか」


 レオンハルトの声は平坦だった。

 魔獣は珍しくはない。ギルドに討伐依頼が出るくらいに、日常だ。

 灰黒色の肋骨が浮き出るほど痩せているのに、眼だけが異様に光っている巨大な狼。

 もう一匹はそれよりひと回り小さいが、背中に棘のような骨が突き出ている。

 三匹目は、異様に静かだ。他の二匹よりも低く身を伏せ、じっとこちらを測っている。

 次の瞬間、張り巡らされていた防音魔法が解ける。

 三人の護衛騎士がすぐに王太子の前で剣を構えた。


「下がって」


 レオンハルトの命令は、私に向けられていた。

 私は青白い神妙な顔で、彼らを見ていた。


 ――本当に、本当に魔獣はおいしいのか。

 そんなことを考えているとは、きっと誰も思ってはいないだろう。

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