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12 王太子の正体②

 ちょっとここではあれだから、とレオンハルト誘われたのは河川敷だ。

 ポトフをきれいに食べ終えて、笑顔で娘さんたちに「おいしかった、ありがとう」と言って、お皿を返すことも彼は忘れない。

 残さずきれいにスープまで飲み干した彼のお皿を見て、また好感度ゲージがあがる。


「卵がとてもおいしいね。みんなも味わった? おいしいよね」


 そう笑顔で娘さんたちに言っていたので、私はデヘヘ顔を隠せなくなった。

 卵が褒められるの、本当に嬉しい。

 この王太子、人たらしらしい。

 レオンハルトの身分を知れば、皆は熱狂的なファンになるだろう。


 それから護衛騎士と一緒にレオンハルトと河川敷に向かった。

 到着すると、視界が一気にひらけた。

 街道よりもわずかに低いその場所は、扇を広げたように川が土砂を押し広げた跡で、白い砂礫が陽を反射している。

 水は浅く、静かに流れているが、中央だけがわずかに速い。

 一歩踏み出すと小石が乾いた音を立て、さらに奥へ進めば、靴裏に湿った土がまとわりつく。


「足元が悪いね」

「はい、でも、こういう場所ですから、陶器が作れます」


 セシルがそう言うと、レオンハルトは静かに笑んだ。

 対岸には、幾重にも重なった地層の崖。

 赤茶と灰色が交互に積み重なり、秋の光にくっきりと浮かび上がっている。

 護衛騎士が少し離れた場所で待機し、レオンハルトは指で空中に何事かを描く。

 自分たちの周りにシャボン玉のような虹色に光るものが、お椀のように覆いかぶさってきた。


「念のため、防音魔法を」

「……はぁ」


 十歳で防音魔法とか、何者だ。

 そっか、王太子か。

 そんな突っ込みを一人で終える。


「君は察しが良いし、頭も良いから、隠したところで良いことはないと思って。婚約者や魔獣災害のことを僕から伝えておいた方がいいだろう」

「婚約者は、他の方に」

「ははは」


 笑って誤魔化された。

 大問題なのが、まず、レオンハルトが王太子たる理由らしい『魔獣災害』なんてイベントを私は知らないことだ。

 私がいるこの世界はゲームの中と酷似している。

 が、私は全てのエンディングを攻略していない。

 追加シナリオを解放してしない。

 推しキャラのハピエンルートしかしていない。

 ということは、各キャラのハピエンからバッドエンド、大団円を含むストーリーのほとんどは知らない。

 いうなれば、このゲームをほとんど知らない。

 今更ながら、詰んでいる。


 巻き込まれモブキャラ断罪追放回避のため、頑張っていたが(け、決してT K G食べたさに 猛進していたわけではない)、そもそもこの世界が進む未来を知らない。

 ちゃんとゲームをしておくべきだったか。

 私は夕暮れに傾き始めた空を仰いだ。


「グランディエ伯爵家の土魔法の令嬢が、婚約者候補の一番に上がっていたのは事実だ」


 兄たちの『セシルの婚約者を決める家族会議』の理由を理解する。

 なるほどね、と思った。


「父は先王からの覚えも良く、魔獣の討伐において多大な武功を立てたと聞きました。おおよその事情もわかっているでしょう。しかも私が土魔法しか使えず、婚約者決めに難航すると思われた。だから承諾するとお考えになったのですね」


 するすると、考えが口から出た。

 伯爵家の令嬢は土魔法だから、この政治が絡まる縁談も断れないだろうと踏まれたのだ。

 そりゃ兄たちはあまりいい顔をしないはずだ。

 五歳児の私は泣いていた。どうしてこんなにも侮られなければならないのと。

 レオンハルトはこちらを見て、優しく目を細めた。


「その通りだよ。……けれど、僕は反対したんだ。土魔法の令嬢は、婚約者に向かないとね」

「なぜです?」

「土魔法使いは、不遇に耐え切れずに、だいたい性格が曲がる。手が付けられなくくらいに、暗くなるんだ。僕に何かあって、妃に金と権力だけが残ったら、何をするかわかったものじゃない」


 今、とんでもなく失礼なこと言われたよね?

 根暗がお金と権力を持ったら、バカなことをしでかすに違いないって言ったよね?

 五歳の私が、絶望している。

 なぜ、土魔法というだけで、ここまで侮られないといけないのかと。


「いや、セシルがってことじゃないよ」


 レオンハルトが笑顔で言った。

 変なフォローが入って、ますますカチンときた。

 む、む、むかつくぅぅぅぅぅ!

 ちょっと、いや、だいぶ、うーんと、とても、イケメンだからって、何でも許されると思ったら、それ違うんだからねぇ!

 私は体の中がかぁぁっと熱くなるのを感じていた。

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