切除
「蔵丘さん。」
彼女は囁いた。
厳かな高い屋根の下、威厳を放つイコンに向かって祈り続ける修道士の様に、彼女は言った。
「いざとなったら、お願いね。」
「……。」
クイナの決死に満ちた顔を直視しつつも、その視線を揺らめかせながら瑞羽は頷いた。
「……。」
「オラァっ!!」
懐中に突っ込まれ、その後すぐに引き出された右手から解き放たれた一本の、短く鋭い形をした暗器。
薬師丸クイナが投擲したそれは、怒号が響く中この世の終わりかの様な地響きを響かせながら迫りくる、一柱の巨神に命中した。
「…………!」
蔵岡瑞羽は黙って見つめた。
清濁が混ざり合い渦を巻き、不浄と清浄がグチャグチャと、音を立てて融合し合うその混沌の本流にただただ目を見張った。
「…………。」
その近くで黒い衣装を身にまとったその姿は、力を失ったかの様にうつむいていた。
排水口に吸い込まれる、一本の髪の毛の如くにするりと。
巨神の胸の中に飲み込まれたそれは、幾筋もの光の束をその胸中に抱くかに見え、そして次の瞬間には…
消えていた。
「……。」
「……。」
二人の視線が絶望的に、その光景を目の当たりにした。
彼女達は同時に叫んだ。
「行くわよ!」
「お願い!」
青いセーラー服の少女は自らの両手を組み合わせ、印を作った。
“狐の窓”
指で形作られた枠で囲む様にして、クイナの両足をその区切られた空間の中に写し入れた。
決死の表情で彼女はそれを見つめた。
「……!」
彼女が息を呑み、そして頭上から咆哮がいよいよ、轟いて二人に迫った瞬間…
クイナの両足が消えた。
膝の中央付近、そこから先が絵の具で塗りつぶしたかの如く、一瞬で消失した。
「………………!」
二つ目の絶叫が、歪んだ角度の世界に響き渡った。




