緋色の王
それは背が高く、それはそれは高く、まるで地平線ぎりぎりまで落ちた太陽を背にした時の、血の色をした大地に伸びた一筋の影の様だった。
ぼんやりした灰色の天から、吊り下がっているのかと錯覚してしまう程に高く、そびえ立っていた。
二人の女は互いに近寄り合いながら、囁き声を漏らす。
「どうする…?」
喪服の様な漆黒の衣装を着込んだ彼女はそう言って、喉の奥から掠れた呼気を押し出した。
「どうするも何も…」
超常的な景色に、ひたすら呆然となる。
…深い赤色をした、ヒダのついた、途方もなく長いローブ。
そこから伸びる、超大な両手で握り締められた、一本の旗印。
薄明るい、揺らめく様にして輝くその表面は、くすんだ赤色をした液体が染み込み、酷く汚損されている。
その遥か上、高みに座したフードの奥底に隠れた、彼の表情をうかがい知る事は出来ない。
その頭の頂には燃え上がり、夕日の色で輝く王冠が、少し浮き上がって存在していた。
…そして、その少し下には一対の角があった。
醜い害獣を想起させる様な、上に伸びた二本の角。
枝分かれして先端が尖り、二人を威嚇するかの如く、紅蓮の冠から放たれる火花を受けて、周囲に撒き散らしていた。
青いセーラー服姿の少女は相方の右手を取ると、すぐさま叫んだ。
「逃げるわよ!」
「Iaaaaaaaaaaaaaa!」
甲高い悲鳴が虚空を引き裂いた。
唐突に現れた雲を突く様な巨神を背後に、再びけたたましい叫びが神話の世界に轟いた。
「……!」
瑞羽が若干、足を浮かせ、異能の才覚を心の奥底より呼び出そうとした瞬間。
ベチャ、と視界の外より生暖かさを感じる音がした。
舌打ちと共に、ため息交じりの言葉がクイナの口から漏れる。
「…ちっくしょう」
「薬師丸さん!」
弾けて飛び出した神薙透子の、ぶるぶるのゼリー状になった一部分が、二人の足元にあった。
そしてクイナの右足に深くまとわりつき、粘土の様に固まってこびり付いていた。
「くっ…!」
履いているブーツを脱ぎ、足を抜こうともがく。
しかしその黒い粘液状の物質は既に、彼女の靴の中に入り込み、右足に巻き付き、足掻けば足掻くほどに締め上げる程に強くまとわり付いていた。
鳥刺しにかかった雀の如く、地に縫い付けられている。
瑞羽は手を貸しつつも、絶えず上空を警戒する。
やがて聞き覚えのある咆哮が広がり、二人の両耳を直撃した。
「ちっきしょう!」
そして、大地を揺るがす地響きがして、二人の女達に迫った…




