表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/49

在りて在る者

「悠。悠。」


薄明かりに照らされた、見渡す限り一面に広がる大平原。

遥か彼方の地平線に、山々がつらなっている。

悠はいつの間にか一人でいた。

草むらに突っ伏し、うずくまるかの如くに頭を垂れている。

…再度、声が響いて彼女の名を呼ぶ。


「悠、目覚めなさい。曙が南方より出でて、西の岩壁を照らした。起きなさい、悠。」


「……。」


かさりと乾いた音を立てて、悠は身を起こした。

厳かな、それでいて穏やかな温もりを感じさせる、声の主の姿を探して周りを見回す。


…誰もいない。


人も牛も、馬も山羊も羊も、温かな血が巡る生き物の姿が、どこを見渡しても見つからなかった。

悠は、朝露が滴る草原のただ中で、一人問うた。


「あなたは、誰…?」


乾いた突風が彼女の目の前を通り過ぎた。

そして、昇る朝日の輝きと共に、問いかけに応じる声が木霊する。


「我は、在り得るが如くに在り得る者なり。あらゆるものが私に似る。」


金色の光が上空より降り注いで、大草原を照らした。

まるで燃え盛るかの様に、全てが眩しい輝きを放っている。

悠は両手を握りしめ、目を細めつつも前を向き、そして呟いた。


「あなたはタビティ…!」


青空の向こうから声が応じる。


「そう呼ぶが良い。悠、小さな者よ。」


悠はガクッと、重荷が下りたかの様に、全身の力を抜いた。


「温かい…。」


「悠、小さな者よ。私は家庭の守護者。炉の中で燃える火。そして真っ先に生贄を貪る者。全ての温かな、血液が流れる命をつなぎ留める者。生存を確証する者。」


悠は足で輝く草地を踏み、女神に問いかける。


「私の家族は…救ってくれなかったんですか…?」


「悠。」


透き通った空の向こうから、女神タビティは語る。


「全ての命は熱から、すなわち私より出でて、そして還ってくる。悠、小さな者よ。全世界がお前に敵意と悪意を向けても、私だけはお前の味方だ。火と共に行け。私は常にお前と共に歩む。行け、悠。小さな者よ。昇る朝日を背にして、小さな松明を持って、行け。」


「…………。」


長い沈黙の末に、悠は歩き出す。

周囲の金色の光を左手でそっと、すくい上げる。

段々と薄れゆく意識を貫いて、再び彼女を呼ぶ声がした。


「悠!悠!」


気がつくと目の前に、王洪健の顔があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ