表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/49

最後は一人

「イーアペトスよ、地獄で焼かれろ!!」


可愛い一人娘の、大絶叫。

世界がひび割れていく。

決壊して放流したダムの様に、ガラガラと崩壊していく。

日常を縁取っていた窓ガラスが割れて、粉々に散らばる。

決死の表情を浮かべた悠が、今やキャンプ・ファイヤーの如くに燃え盛る“それら”を凝視する。

白い顔に、揺らめく炎の影が黄色く踊った。

悠助は叫ぶ。


「悠、こっちに来い!」


彼女は彼の背後を一目見るや、鋭い声で叫び返した。


「父さん、逃げて!」


ただならぬ気迫を察知した彼は後ろを振り向く。


見てしまった。


「…………!」


数百数千の目玉模様が凝視する。

数千数万の膿疱水疱が凝視する。

数万数億の細胞分子が、彼を凝視し見下ろしていた。


悠助はもはや言葉もなく、ただそれら集合体の粒々の一つ一つに挨拶を返すが如く、しばらく見つめ返していた。


「煙を吐く鏡よ!」


背後で娘の叫ぶ声がして、ハッとする。


一瞬のうちに、目の前を黄金色の火炎が覆う。

床から吹き上がる様にして激しく燃え上がった火柱が、無数の目玉模様が浮き出る粘液の塊を焼いた。

ジュージューと、生々しい肉そのものが熱せられて爆ぜる音が、極めて不快な軋みになって部屋中の空気に満ちた。


「……。」


悠助は燃え上がる火を、放心状態でただ見つめる。

やがて真っ赤な火に覆われるそれの中に、動く影があるのを見つけた。


「?」


「父さん、こっち!!」


娘の、悲痛な叫び声が届いた頃には既に達していた。

先の尖った、鋭く硬直した触手が一本、彼の腹部中心目掛けて飛び出したのだ。

それはヘソに突き刺さり、下腹部を通ってうねり、一瞬にして悠助の全身を巡った。


「ぐぶっ」


彼は振り返り、悠の方を向いた。

そして口から血を吐き、倒れた。

何も残さなかった。

言葉も、思いも、何もない。

何を理解する事もなく、何を残す事もなく、ただ、死んだ。


悠は、叫ぶ。


「焼かれろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ