不浄
クイナは“それら”を見つめた。
“それら”はクイナを見つめ返した。
一人の少女が、屋根の上で仰向けに倒れている。
学校の制服を着たまま。
口の周りはドス黒い染みで覆われている。
…そしてその白い肌の表面には、無数の眼が浮き上がっていた。
横に裂け、縦に切れ、数多の瞼が皮膚の表面に切れ込みを穿つ。
頬に、手の甲に、数多くの目が開き、そして微かな動きも無いままに、どんよりとした視線を、ただ虚空に飛ばしていた。
「…神、薙、さん。」
漆黒の衣装を身にまとった女はそう彼女に呼び掛ける。
「行くわよ。」
唐突に、背後で声がした。
振り返ると、かの少女が息を切らせて仁王立ちしている。
彼女は、上空を気にしつつ片手を突き出した。
クイナは意外そうに彼女に問い掛ける。
「…良いのかい、“獲物”は?」
「……。」
コクンと頷いて蔵岡瑞羽は語る。
白い喉が薄暗闇の中で浮き上がり、その不安と、懸念を訴えかけるかの様だった。
「二つ、じゃないわ。」
「?」
不吉な印象を見たものに与える、漆黒の瞳が彼女を見つめ返した。
そして微かな振動が、どんよりとした空気をほんのわずかに、かき回す。
「…三柱、か…?」
二人の頭上で鳴き声がする。
“無明の檮杌”が遥か上空を、駆け回っていた。
瑞羽は言った。
「“雑魚”だけじゃなかったのよ。要は。」
無数の眼の苗床と化した少女を見やった。
吐き捨てるが如くに、クイナに向き直る。
「おかしいと思ってたのよ。息壌という手足を使っての、現実世界への侵食。余りにも強引かつ迅速過ぎる。確実に三柱目がいるわ。恐らくそれは渾沌でも、窮奇でもない。汚れに相性が良いその存在。それは…」
…二人の背後で立ち上がる音がした。
数日間こびりついたカサブタを、無理やりに剥ぎ取ったかの様な、耳障りで不快な感触を伴っていた。
振り返ると今まで、池に伏せていた神薙透子の小さな身体が起き上がり、両手を高々と掲げていた。
彼女は絶叫した。
「Iaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
懸命に歪んだ地を踏みしめて尚、後退りしながらも、瑞羽は叫んだ。
「不浄の饕餮…!」




