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ホーンテッド・テンション

「彼女、“憑物(ホーント)”だわ。確定ね。」


カフェ“金枝篇”の店内。

夕方、境界線上の王国。

黒を基調とした落ち着きのある室内で、蔵岡瑞羽はそう言って、ため息をついた。


「ほー、んと?」


若干呆けた様に悠は尋ねて、首を傾げた。


「そう。ダエーヴァが“憑いて”いるのよ。神薙さんに、ね。」


瑞羽は目の前のコーヒーカップを手に取り、慎重そうに息を吹きかけた。

暗い色調のソファーに身をうずめながら悠は、向かいに座る彼女の美しい顔を眺める。


「ダエーヴァが…神薙さんに…?」


「それって私達の“(スキア)”の様なものですか?」


悠の隣に座った王洪健が、足元に置かれた自身の通学鞄に目を落としながら、瑞羽にそう尋ねた。


「…そう、ね。」


意味ありげな視線を送りつつ、彼女は洪健の質問に応じる。


「彼らダエーヴァは私達アフラと、善悪の枢軸の両端を担う存在。鏡写しの様にその性質は真逆。彼らは虚偽を司る。私達は真実を司る。」


ほんの少しの熱っぽさを伴って、瑞羽は語る。


「それはコインの裏と表の関係に近いわ。存在の目的は逆。でも存在の形式は近い。」


「……。」


「悪が彼女の身体に“馴染んでいる”のね。毒をもって毒を制す、とはまた違うけれど、邪なパワーが神薙さんに“馴染んで”、それが障害の治癒効果を生んでいる。」


洪健は聡明そうな顔で相槌を打ち、頷く。

悠は横から割って入って、瑞羽に尋ねる。


「それで、神薙さんはどうなるんですか?二種類のダエーヴァが、今や透子さんに憑いてるんですよね。退治できるんですか?」


「無理だよ。」


三人は声のした先を振り向いた。

この店の店主、薬師丸クイナが、喪服の如く漆黒を基調とした、質素なイングリッシュ・メイド服を身に着けて立っていた。

普段の装いと異なる姿に、どことなく不吉さを感じて身を強張らせる悠に彼女は言う。


「“憑物(ホーント)”になった人間がね、真人間に戻った試しなんてないんだ。殺すしかない。」


「!」

「!」


二人分の身体がソファーの上で跳ね上がった。

衝撃に打ちのめされたかの様に言葉を失う彼らに、クイナは告げる。


「…言ったろ。秋は収穫の時期だって。刈り取りに行こう。」


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