闘いの理由
「悠。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いですようぅううう!」
スマートフォンの画面越しに、小さな少女の決死の叫びがこだまする。
「神薙さんが!神薙さんが!」
「まずは落ち着いて。何が起こっているの?」
歴戦の勇士の様な、落ち着き払った重厚な声色で、瑞羽は問うた。
「神薙さんが、“息壌”を食べていて。それで目が見える様になったけど、それで目から息壌が出てきて…あと脚にも絡みついてきて身動きが取れなくて!!」
「…そう。」
冷酷無慈悲かつ絶対零度の声調でもって、蔵岡瑞羽は応じる。
「何とかしてみなさい。」
「えぇえっ!」
スマートフォンの向こうで、驚愕する声が聞かれる。
「だって悠。」
瑞羽は再び、がらんどうとした教室の中で、再び自分の席の椅子に座りながら続ける。
「貴方を助けに行ったら私、遅刻になってしまうもの。」
「えぇぇぇえええっっっ!」
画面の向こうで祝原悠は失望の金切り声を上げた。
「そう言う訳だから悠。また、自分の力を使って、自分を守って見なさい。」
「えええぇぇぇっ!無理ですっ、無理ですって!」
「悠。」
と青いセーラー服を着た少女は、落ち着いた深い声で、スマートフォンの向こうの彼女に尋ねる。
「神薙さんとコミュニケーションは取れるの?」
「無理ですぅ…無理なんですぅ…!…真っ黒に囲まれちゃってて、無理なんですぅ!」
滑らかなタッチパネルの奥から、すすり泣く声と、粘液がせり上がって泡立つ、ゴポゴポ言う音が聞かれた。
「成る程…。」
瑞羽は教室の窓ガラスに映る、自身の怜悧な顔を見つめながら言う。
「成る程、じゃないですよぅ…!触れた所が痛いんですぅ!絶対酸とかですって!痛いんですぅ!」
「…服だけ溶ける酸だったら良かったのに…。」
「鬼畜ですか!?」
「悠。貴方は昨日、どうやって“影”になり変わったの?」
激しく脈動するかの様な、激しい呼吸の中に入り混じる生存への欲求を耳に感じながら、瑞羽は問うた。
「…家族です。」
即答した悠の一言に、瑞羽は沈黙する。
「家族です。お母さんを、お父さんを、守りたかったんです。だって私達が傷ついたら、大人達が悲しむんですからっ!」
瑞羽は誰もいない教室の中で、静かに耳を傾けている。
「だから私は炉の中で燃えるんだっ!《イーアペトスよ、地獄で焼かれろ》!」




