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たった一つの道

帰りの道を、祝原悠は一人で歩く。


“眼、また見えなくなっちゃいました”


残念がる神薙透子の悔しげな声が、耳にこびりついて離れない。

内心で悠は彼女を疎ましく思った。

特別な自分を、受け入れたのではなかったのか?

元の自分に戻ったからと言って、何故残念がるのだ。

もちろん、目が見えない人間の苦労を、悠は知らない。

同じ様に、悠自身の苦労を知る者も、彼女自身以外にいない。

蔵岡瑞羽でさえ、違う。

悠の苦しみを知っているのは悠自身と、明るい空と暗い道だけなのだ。


…薄暗い道を、彼女は一人歩み、街並みを眺める。

道行く人々。商店。サラリーマン。

そして、連れ立って歩く恋人達。


…全てが妬ましかった。

繁栄も、喜びも、愛も、財産も、豊かさも、全ては私が持っているべきものなのに。

彼女は思う。

皆、分からないのだ。

おぞましい宇宙の秘密を知る者の苦悩を。

家族も、友人さえも力にならない。

いや、それどころかその、身の回りの人でさえ、常に異形の怪物へ変身し、またはその命が失われる事を覚悟の上で接さなければならなかった。

彼女は目の前を歩く恋人達の横顔を、二人の背中越しに垣間見た。

力強い、自身に満ちた、世の中に何の心配も無さそうな顔。

心の底から不快な、嫌悪と嫉妬の感情が沸き立って、胸の内を占有した。


“焼いてやろうか?”


心の奥底からそう、“女神”からのメッセージが振って湧いたかの様に、頭の中に流れる。

彼女は首を振った。


…早く帰宅しよう。

そして瑞羽やクイナと連絡を取り合い、また悪夢狩りに連れて行って貰おう。

そう思った。


古びた住宅街の一角を通り過ぎ、悠は自宅玄関のドアを空け、中へ入る。

甘じょっぱそうな香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。


…今晩は肉じゃがか…。

ぼんやりした頭で靴を脱ぎながら、今日どんな顔をして母親に顔を合わせたら良いか、思案していると、急に…


「悠!凄いわよ、こっち来て!」


母親のけたたましい声が、居間から鳴り響いてきた。


「?」


靴を脱ぎ終わってそうそう、彼女はドアを空け、居間に入る。

母親が真新しい薄型テレビの前に陣取りつつ、興奮した様子で、自分の娘に語りかける。


「悠、“太歳(たいさい)”だって。あらゆる病気が治るんだってよ。」


悠は画面を覗き込む。

映っているのは彼女もよく知るバラエティー番組。

“幻の食べ物、太歳”

そう言うタイトルで、ある生き物が紹介されていた。

舞台は山奥と見られる場所。

出演者が一抱えある何かを持って、何やら騒いでいる。

その、無数の目玉模様が浮き出た漆黒の、タール状の物体を見て、悠は無言でテレビの電源を落とした。

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